
美容室で2人目の美容師を雇う前に、運転資金と管理美容師の要件を確認する
フランチャイズに加盟して美容室を運営していると、席は空いているのに自分ひとりでは回し切れない、という場面が出てきます。スタイリストを増やせば席が埋まり、売上も伸びる。そう考えて運転資金の相談に動くとき、その前に確認しておきたいことがあります。
「美容室 運転資金」で検索すると、固定費の3か月分といった目安や、開業資金の内訳を並べた記事が上位に並びます。どれも出発点としては役に立ちますが、人を増やす局面では、その目安が置いている前提そのものが動きます。この記事では、美容師の人数が変わると何が起きるのかを、制度の枠から順に整理します。なお、記載している数字と制度は執筆時点(2026年9月)のものです。
運転資金の中身は、何か月分より先に「何人でやるか」で決まります
日本政策金融公庫が公開している「理容業・美容業の創業ポイント」(令和6年7月31日掲載)では、美容室の運転資金にあたる費目として、材料代、家賃、人件費、水道光熱費、広告宣伝費、消耗品、通信費などが挙げられています。このうち、人数が変わると金額が動くのは人件費と材料代です。家賃や水道光熱費は、ひとりで営業していても2人で営業していても、大きくは変わりません。
同じ資料では、売上予測の立て方として「客単価×椅子の台数×回転数」または「客単価×来店客数」で算出するのが一般的だと説明されています。ここで見ておきたいのは、椅子の台数が売上の式に入っている点です。台数がそろっていても、その椅子を使う人がいなければ売上にはなりません。
つまり人数は、費用の側と売上の側を同時に動かす変数です。固定費の何か月分という目安は、いまの体制が続く前提で作られた数字ですので、体制を変えるつもりがあるなら、その前提から組み直すことになります。
美容師が常時2人以上になると、管理美容師を置くことになります
人を増やす判断で先に確認したいのが、美容師法の定めです。美容師法第十二条の三第一項は、美容師である従業者の数が常時二人以上である美容所の開設者に対し、その美容所を衛生的に管理させるため、美容所ごとに管理者(管理美容師)を置かなければならないと定めています。ただし、開設者自身が管理美容師となることができる者であれば、自ら主として管理する一つの美容所について管理美容師となることは妨げられません。
同条第二項では、管理美容師になれる人の条件が示されています。美容師の免許を受けた後に三年以上美容の業務に従事し、かつ、厚生労働大臣の定める基準に従って都道府県知事が指定した講習会の課程を修了した者でなければならない、という内容です。公庫の「理容業・美容業の創業ポイント」にも、常時2名以上の理容師(美容師)が勤務する場合は管理理容(美容)師を置くことが義務づけられている、と書かれています。
これが資金の話につながる経路は2つあります。ひとつは、講習会の受講にかかる費用と、受講のあいだ店をどう回すかという時間の手当てです。もうひとつは、採用の条件が変わることです。免許を取ったばかりの人を迎える場合と、実務経験が三年以上ある人を迎える場合とでは、提示する給与の水準も、採用が決まるまでにかかる期間も同じにはなりません。運転資金の見込みは、どちらの人を迎えるかで変わります。
なお、美容所の開設届には管理美容師その他の従業者の氏名を記載することとされており、届け出た事項に変更が生じたときは、すみやかに都道府県知事に届け出ることとされています(美容師法第十一条)。手続きの要否や具体的な進め方は、店舗の所在地を管轄する保健所や専門家にご確認ください。
💬 監修者の元日本政策金融公庫の支店長の多胡から一言
公庫で支店長をしていたころ、申込額が希望どおりにならない場面で見ていたのは、資金使途の妥当性と、ほかの調達手段で足りないかという代替性の2つでした。人を増やす前提で運転資金を申し込むなら、順番としては、何人分を何か月ぶん見込んだのかを自分で数えるところが先になります。そのうえで申込先に相談すると、話が前に進みやすくなります。
人にかかるお金は、その人が売上を立てるより先に出ていきます
採用を決めてから、その人の売上が立つまでには段差があります。求人にかかる費用は募集を出した時点で発生し、給与は入社した月から満額で出ていきます。一方で、新しく入った美容師に指名がつき、想定した客単価と回転数に届くまでには時間があります。この段差の分だけ、手元の現金が薄くなります。
段差が何か月分になるかは、店ごとに違います。立地、既存のお客様の数、任せる施術の範囲、フランチャイズ本部から受けられる集客の支援によって変わるためです。ここで使えるのが、すでに手元にある自店の数字です。開業から数年が経っていれば決算書があり、決算をまだ迎えていない場合でも試算表や月次の売上推移があります。過去に人を増やしたことがあるなら、そのときに売上がどう動いたかも記録として残っています。
手順そのものは複雑ではありません。増える人件費を月あたりの実額で出し、新しい人の売上が計画に届くまでの月数を自店の実績から見込み、その月数分を掛けます。ここで出た金額が、いまの運転資金に上乗せして持っておく額の土台になります。
申し込む前に、人件費をどう説明する形にしておくか
従業員の給与や役員報酬は、事業活動に必要な経費として運転資金の対象になります。資金使途はあくまで事業に必要な支出であることが前提ですので、個別の支出が資金使途として認められるかどうか判断に迷う場合は、申込先や専門家に確認しながら計画を整えてください。
審査では、斯業経験、自己資金、事業計画の具体性、資金使途と調達額の整合、信用情報などをもとに判断されます。人を増やす前提で運転資金を申し込む場合、このうち説明が要るのが資金使途と調達額の整合です。何人分の人件費を、何か月ぶん見込んで、いくら借りるのか。この3つがつながっていれば、金額の根拠は伝わる形になります。
制度上の枠も確認しておきます。日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」を利用する場合の例では、運転資金の返済期間は10年以内、据置期間は5年以内とされています。ただしこれは制度上の上限であり、実際に適用される返済期間・据置期間・利率は、審査のうえ金融機関が決定するものです。申込者が選んで決められるものではありません。
利率は、2026年8月3日現在で、無担保かつ税務申告を2期以上終えている場合の基準利率が年3.60〜5.30%、税務申告を2期終えていない創業期の場合が年3.55〜5.25%です。また、創業期(新たに事業を始める方、または事業開始後に税務申告を2期終えていない方)が利用する場合は、原則0.65%、雇用の拡大を図る場合は0.9%の引下げが適用される可能性があります。「雇用の拡大を図る場合」は対象者の区分ではなく、引下げ幅が大きくなる条件にあたります。適用可否は利用する制度や審査・条件により異なりますので、下がることを前提に置かず、申込先でご確認ください。
よくあるご質問
Q. 何人になった時点で、店に求められる条件が変わりますか。
美容師である従業者の数が常時二人以上になった時点で、美容所ごとに管理美容師を置くことが美容師法で定められています。開設者自身が要件を満たす場合は、自ら主として管理する一つの美容所について管理美容師となることができます。
Q. 据置期間や利率は、申し込むときに希望を出せますか。
希望を伝えること自体はできますが、決めるのは金融機関です。適用される利率や据置期間は審査のうえ金融機関が決定するもので、申込者が選んで決められるものではありません。
Q. 開業から数年たっていますが、決算書は見られますか。
見られます。決算が締まっていればその決算書が確認され、決算をまだ迎えていない場合は試算表や月次の売上推移が同じ役割を果たします。計画どおりに推移していれば計画の実現可能性の裏づけになり、乖離が続いていればその説明を求められます。
まとめ
美容室の運転資金は、固定費の何か月分という目安から入ると、人を増やす局面で前提が合わなくなります。先に決めるのは何人でやるかで、そこから費用と売上の両方が動きます。
手を動かす順番は3つです。1つ目に、美容師である従業者が常時二人以上になるかどうかを確認し、なるのであれば管理美容師の要件(免許取得後に三年以上の従事と、都道府県知事が指定した講習会の修了)を満たす人をどう確保するかを決めます。2つ目に、増える人件費の月あたり実額と、新しい人の売上が計画に届くまでの月数を、自店の決算書や試算表から見込みます。3つ目に、その2つを掛けた金額を運転資金として立て、何人分を何か月ぶん見込んだのかを説明できる形にしてから、申込先に相談します。
記載している制度と数字は執筆時点(2026年9月)のものです。制度は変わることがありますので、最新の内容は日本政策金融公庫や管轄の保健所でご確認ください。
【無料相談のご案内】
融資を受けるには何から始めればいいの?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。
無料相談も行っているので、ぜひ一度、ご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























