
厨房の省力化投資に補助金は使えるのか|飲食店が計画づくりで詰まりやすい場所
厨房の人手が埋まらず、調理や洗い場の作業を機械に置き換えたい。そう考えて補助金を調べ始めると、制度を並べた記事と、厨房機器メーカーの申請サポート窓口の案内ばかりが出てきます。どちらも間違ってはいませんが、読み終えたあとに残るのは「で、うちの厨房はどれに申請できるのか」という問いのままです。
厨房の省力化投資が計画づくりの段階で詰まるのは、制度の知識が足りないからではありません。厨房という場所には、電気容量や排気、給排水といった建物側の制約があり、機器は故障をきっかけに買い替えることが多く、しかも複数店舗を回していると従業員数の要件から外れる制度が出てきます。この記事では、2〜4店舗を運営する飲食店の視点で、申請前に整理しておきたい論点を4つに絞って整理します。数字は2026年8月時点の社内資料および各制度の公募要領に基づくもので、申請時には最新の公募要領をご確認ください。
論点1:いまの機器を新しくするだけでは、省力化投資として組めません
厨房の省力化でまず候補になるのが、中小企業省力化投資補助金です。この制度にはカタログ注文型と一般型の2つがあり、入口の考え方がまったく違います。
カタログ注文型は、公的に登録された省力化製品の中から選んで導入する制度です。補助上限は大幅賃上げ計画を盛り込む場合で1,500万円。逆に言えば、導入したい厨房機器がカタログに登録されていなければ、この制度の土俵には立てません。日本厨房工業会が製品登録について案内を出しているのも、この構造があるためです。自店が入れたい機種名で登録の有無を確認するところが、実質的な最初の作業になります。
一般型は、カタログに無い設備やシステムを、自社の課題に合わせて組む場合の制度です。補助上限は1億円。ただし対象になるのは「オーダーメイド性のある設備」で、判定基準がはっきり決まっています。省力化に資する汎用設備を複数組み合わせてより高い省力化効果を生み出す場合か、事業者の導入環境に応じて周辺機器や構成する機器の数、搭載する機能等が変わる場合。このどちらかに当てはまることを事業計画で示す必要があります。
ここで詰まるのが、老朽化した食器洗浄機を新型に入れ替える、といった同等品への更新です。単価50万円(税抜)以上の機械装置等を最低1つ入れるという要件は満たしていても、単に汎用設備を単体で導入する事業は対象外とされています。厨房の工程そのものが変わることを説明できるかどうかが、更新工事と省力化投資を分ける線になります。
論点2:厨房の見積書は、機器代と工事費が混ざっています
厨房機器の入れ替えは、機器を置くだけでは終わりません。動力の容量が足りなければ分電盤から工事が要りますし、加熱機器を増やせば排気フードやダクトの容量、給排水の配管位置も動きます。厨房機器屋さんから出てくる見積書は、この機器代と工事費が一式でまとまっていることが珍しくありません。
制度側から見ると、この2つは別々に判定されます。中小企業省力化投資補助金(一般型)の対象経費は機械装置・システム構築費が必須区分で、ここには専用機械・装置のほか、導入と一体の軽微な据付・改良等が含まれます。つまり「機器を据え付けるために必要な範囲の工事」までは一体で見てもらえる設計です。
一方、小規模事業者持続化補助金では、店舗改装やバリアフリー化工事は委託・外注費として対象経費に挙がっていますが、建物の増築・増床や「不動産の取得」扱いになる工事は対象外になりやすいとされています。判定は外気分断性・土地への定着性・用途性の3要件で行われます。厨房を広げる、外に冷蔵庫置き場を新設する、といった話が混ざると、この線引きの検討が要ります。
実務としては、見積書を機器本体費・据付に必要な工事・建物側の工事の3つに分解してもらうところから始めると、どこまでが補助対象として説明できるかが見えてきます。分解を頼むのは相見積を取る前のほうが手戻りがありません。
論点3:効果は「作業が楽になった」ではなく労働生産性で示します
省力化系の制度は、機器を入れた結果として何がどれだけ良くなるかを、決まった指標で示すことを求めています。指標は労働生産性で、付加価値を従業員数で割った値です。
中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型)では、この労働生産性を年平均成長率3.0%以上向上させる計画が要ります。計画が未達だった場合の減額規定があり、賃上げ目標を盛り込むと上限枠は広がりますが、未達なら同じく減額の対象になります。一般型はさらに水準が上がり、3〜5年の事業計画で労働生産性を年平均4.0%以上伸ばす計画が必要です。こちらは賃上げ目標が要件になっていて、未達の場合は達成率に応じて返還が発生しうる設計です。
「洗い場に1人張り付かなくてよくなった」という現場の実感は、そのままでは計画書の数字になりません。空いた時間で客席の回転や仕込みの内製化がどう動くのかまで書けて、はじめて付加価値の増加として説明がつきます。制度を選ぶ前に、この道筋が自店で描けるかを確かめておくと、申請の途中で行き詰まりにくくなります。
論点4:制度ごとに、一緒に申請する相手が違います
厨房の省力化を調べていると、機器メーカーや厨房設備会社の申請サポート窓口に行き着きます。ただし、その相手で話が完結する制度と、別の相手が要る制度があります。
- 中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型):中小企業等が販売事業者と共同で申請する形が原則で、単独申請は原則できません。機器を売る側が制度に登録されているかどうかが、そのまま申請可否に効いてきます。
- デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金):事務局に登録されたIT導入支援事業者の支援を受けて申請する前提で、導入するツールも登録品が前提です。厨房の中でも受発注や在庫、勤怠のように、ソフトが主役になる部分はこちらの制度が筋になります。
- 小規模事業者持続化補助金:商工会・商工会議所の支援を受けて進める制度で、事業支援計画書(様式4)の発行が要ります。第20回公募では様式4の発行受付締切が2026年12月4日、申請受付締切が2026年12月15日17時。締切以降の発行依頼はいかなる理由でも受け付けられないため、窓口への依頼は余裕を持って行う必要があります。電子申請のみで、GビズIDプライムの事前取得も前提です。
もう一点、この制度には規模の要件があります。小規模事業者持続化補助金の対象は、商業・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)で常時使用する従業員が5人以下。2店舗、3店舗と広げてきた飲食店は、この人数で対象から外れることがあります。役員や個人事業主本人はカウントしないなど数え方に決まりがあるので、店舗を増やしている途中の方は、まず自社がどの区分に入るかを確認するところからになります。
投資の中身から候補を絞るときの考え方
ここまでの4つを踏まえると、厨房の省力化で候補になる制度は、投資の中身によっておおよそ次のように分かれます。
登録済みの省力化機器をそのまま入れて、即効性を重視するなら中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型)。カタログに無い機器を含めて厨房の構成ごと組み替えるなら同(一般型)。受発注や在庫、勤怠のようにソフトが主役になるならデジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)。販路開拓とセットで小さく整えるなら小規模事業者持続化補助金、ただし従業員数の要件を先に確認する、という順序です。
厨房の投資は、機器の性能差よりも、その厨房の制約とお金を動かす順番のほうが結果を左右します。制度名から入るより、いま手元にある見積書を分解して、どこまでが機器でどこからが工事なのか、いつ発注したいのかを先に固めるほうが、話は早く進みます。
まとめ
厨房の省力化に補助金を使うときは、次の4点を申請前に整理しておくと計画づくりが進みます。第一に、同等品への入れ替えのままでは省力化投資として組めないこと。第二に、見積書の中の機器代と工事費を分解しておくこと。第三に、効果を労働生産性という指標で説明できるようにしておくこと。第四に、制度ごとに一緒に申請する相手と締切が違うこと。
いずれの制度も公募回ごとに要件や日程が変わります。本記事の内容は2026年8月時点の情報のため、実際の申請にあたっては最新の公募要領をご確認いただき、自店の状況に合うかどうかは専門家にご相談ください。
【無料相談のご案内】
弊社では、補助金専門行政書士法人V-Spiritsが補助金支援を行っております。元補助金審査員の三浦を中心とした各種専門家チームが全面的にサポートいたします。このケースは補助金の対象になるのか?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。無料相談も行っているので、ぜひいちどご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
三浦高/Takashi Miura
元創業補助金(経済産業省系補助金)審査員・事務局員
中小企業診断士、起業コンサルタント®、
1級販売士、宅地建物取引主任者、
融資・資金調達コンサルタント
行政書士法人V-Spirits 補助者
産業能率大学 兼任教員
2024年現在、各種補助金の累計支援件数は300件を超える。
融資申請のノウハウも蓄積し、さらに磨きを掛けるべく日々事業計画書に向き合っている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。

💬 執筆者の三浦から一言
補助金の事務局で申請書を見ていた立場から申し上げると、汎用品は基本的に補助金の対象になりません。厨房でも、どの店でも同じように使える機器を1台入れるという読み方をされてしまうと、省力化の計画としては弱くなります。自店の厨房の並びや動線に合わせて構成を決めた、という経緯が申請書に残っているかどうかを、書き上げる前に見直してみてください。

💬 執筆者の三浦から一言
段取りの順番の話をひとつ。交付決定の前に契約や発注をしてしまうと、その分は対象外になります。厨房機器は故障をきっかけに動くことが多く、見積を取った勢いでそのまま発注まで進んでしまいがちです。制度を比べるより先に、自店がいつ発注したいのかと、候補の制度で交付決定がいつ出るのかを並べて置いてみてください。扱いは制度ごとに違うため、個別の確認もあわせてお願いします。




























