
銀行取引約定書における「期限の利益の喪失」とは?経営者が知るべきリスクと注意点
先週の当コラムで解説した「銀行取引約定書」、今回はその中でも重要な「期限の利益の喪失」について解説していきたいと思います。
「期限の利益の喪失」とは何か
「期限の利益の喪失」とは、つまり債務者(お客様)が持っている「期限の利益」を「喪失」するということです。
この項目内の条文に該当した場合に喪失することになります。
「期限の利益」が何かはよくわからなくても、「喪失」といわれると何やら嫌な予感がしますよね。
「期限の利益」とは
では、まず「期限の利益」とは何なのでしょうか?
経営者の方々は金融機関から借入をする際に「●年返済」や「返済期日を●年●月●日」というように、返済の期間を猶予する約束をしています。
例えば、毎月10万円を7年返済と約束した場合には、その約束を守ってさえいれば「気に入らないから一括で返せ」とは言わせない権利を債務者(お客様)は持っています。
その権利を「期限の利益」と呼ぶと思ってください。
「期限の利益」を失うとはどういうことか
しかし、その大切な権利である「期限の利益」を失うケースがあります。
要は「明日中に耳を揃えて一括で返せ」と言われても対抗できない状態を意味します。
メチャクチャ怖いですよね。
この条文に該当すると、権利を失うほど銀行(債権者)を怒らせると思ってください。
「期限の利益」を失う具体的なケース
では、どのような状態になると「期限の利益」という権利を失ってしまうのでしょうか?
具体的には、以下のような状態です。
【当然に権利を喪失するケース】
- 破産手続、民事再生手続、会社更生手続、特別清算など法的な手続きがあった場合
- 手形交換所や電子債権記録機関の取引停止処分を受けた場合
- 上記に準じた手続きや弁護士への委任、廃業などが明らかになったとき
- 債務者もしくは保証人の預金に対し、差し押さえがあった場合
ここまでの条文に該当した場合は「当然に」権利を喪失してしまいます。
読めばわかりますが、このような状況になっている場合は既に経営は破綻していると考えられます。
【一括返済を請求された場合に権利を失うケース】
- 債務の履行を一部でも遅延した場合
- 担保物件に対し競売手続きが開始された場合
- 銀行取引約定書の各項目に違反した場合
- 提出・報告した財務内容に重大な虚偽があった場合
- 債務者(お客様)の責めに帰すべき事由によって、所在が不明となった場合
- 反社会勢力の排除文言に抵触した場合
- 以上の項目に保証人が該当した場合
- 債権保全上、相当の事由が生じたと客観的に認められる場合
5~12の条文に該当した場合は、「一括返済を請求」された場合に、権利を失います。
中にはとてもファジーな文章(7や12など)もあり、この契約を最初に締結している以上、金融機関を怒らせるとロクなことはないことはお分かりいただけると思います。
経営者が特に注意すべき条文
また、「5. 債務の履行を一部でも遅延した場合」は1日の延滞であっても本来は許されないという条文になっていますし、
「9. 債務者(お客様)の責めに帰すべき事由によって、所在が不明となった場合」は住所変更を直ちに届け出ることの重要性を物語ります。
「8. 提出・報告した財務内容に重大な虚偽があった場合」は論外ですが、一時の出来心で決算書を粉飾することのリスクが存外に大きいということを示しています。
報告義務違反にも注意
余談ではありますが、「7.銀行取引約定書の各項目に違反した場合」は専門家や金融機関の考え方により様々ですが、
大きく解釈すると「定期的かつ自発的に決算書などを提出・報告」しなければ、取引約定書内の「報告・提出」項目への抵触とみなすことも可能だと考えられます。
金融機関からの要求には注意
金融機関の担当者からは様々な「要求」が日々飛んできます。
定期預金や年金、投資信託や生命保険のセールスであれば、断っても問題ありません。
しかし、「住所が変わっているようなので変更届を提出してください」「今月の返済が落ちてないので入金してください」「決算書が出来上がることかと思うので、直近分を提出してください」などの要求は軽視せず、真摯に早急に対応した方が無難です。
取引約定書を再確認しよう
金融機関から借入をしている方は必ずこの取引約定書を締結しています。
説明があったか否かは問わず、上記のような文言に既に同意しているという状況を再認識してください。
次回予告
次回は個別の借入契約である「金銭消費貸借証書」について解説します。
【無料相談のご案内】
起業の手続きって何から始めればいいの?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。
無料相談も行っているので、ぜひ一度、ご相談ください。お問い合わせお待ちしております!
この記事を書いた人
三浦高/Takashi Miura
元創業補助金(経済産業省系補助金)審査員・事務局員
中小企業診断士、起業コンサルタント®、
1級販売士、宅地建物取引主任者、
補助金コンサルタント、融資・資金調達コンサルタント、
産業能率大学 兼任教員
2024年現在、各種補助金の累計支援件数は300件を超える。
融資申請のノウハウも蓄積し、さらに磨きを掛けるべく日々事業計画書に向き合っている。
この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。