
退職金を創業融資の自己資金にするには?入金時期で変わる通帳の整え方
退職金の受け取りを控えて独立を考えていると、「この退職金は創業融資の自己資金として見てもらえるのか」「受け取る前に申込んでもよいのか」と迷います。結論から言うと、会社から支払われた退職金は、通帳で出所を確認できる形にしておけば、自己資金として説明しやすい資金です。分かれ目になるのは金額の大きさよりも、いつ口座に入り、面談の時点でどう見えているかです。
この記事では、日本政策金融公庫の創業融資を想定して、退職金を受け取る前と受け取った後で準備の順番がどう変わるかを質問と回答の形式で整理します。数字や制度の内容は、執筆時点(2026年10月)の情報です。申込の前に、最新の内容を申込先でご確認ください。
退職金は自己資金として見てもらえるのか
Q. 退職金は自己資金になりますか
A. 会社から支払われた退職金は、受け取って口座に入っていれば、自己資金の一部として説明できます。創業融資の審査では、同じ業種での勤務経験、自己資金、事業計画の具体性、資金使途と調達額の整合、信用情報などをもとに判断されます。自己資金で見られるのは金額と、どのように貯めたかという形成過程です。退職金は長く勤めた会社から支払われたお金として説明がつくため、形成過程を示しやすい資金といえます。
Q. 自己資金はいくら必要ですか
A. 制度上、自己資金の額や割合の決まりはありません。以前の新創業融資制度にあった自己資金の10分の1という要件も、現行制度にはありません。ただし自己資金の額は審査の重要な判断材料で、多いほど有利になりやすいと考えておくのが現実的です。退職金の額だけで結果が決まるわけではないので、事業計画の具体性や、資金使途と調達額の整合とあわせて準備します。
審査で見られるのは「出所が通帳で確認できるか」
Q. 通帳では何が分かれば、出所の説明になりますか
A. 退職金が会社からの入金として通帳に記録されていれば、いつ、どこから、いくら入ったかを記録で示せます。自己資金は、通帳で出所を確認できるお金として扱われます。口座の記録がそのまま説明の土台になるので、入金後は早めに記帳しておきます。どの期間の通帳をどこまで遡って示すかは、申込先によって案内が異なる場合があるため、事前に確認してください。
Q. 現金で受け取った分や、直前にまとめて入金した分はどうなりますか
A. 出所を説明しにくくなります。通帳の記録だけでは、そのお金がどこから来たのかが分からないためです。退職金を振込で受け取れる場合は、入金の記録が通帳に残る形で受け取ります。申込の直前に、別の場所にあったお金をまとめて入金すると、由来を口頭で説明することになり、面談で時間を取られます。
Q. 面談の時点では、どのような状態にしておけばよいですか
A. 自己資金は、原則として面談の時点で口座に確認できる形にしておきます。面談の日に通帳を開いたとき、創業計画書に書いた自己資金の金額が、そのまま記録として確認できる状態が基本です。
退職前に申込む場合と、退職後に申込む場合の違い
Q. 退職前に申込む場合、まだ受け取っていない退職金は自己資金に数えられますか
A. 受け取り前の退職金は、面談の時点で口座に確認できる状態になっていません。原則が「面談時点で口座に確認できる形」である以上、受け取り前の退職金を自己資金として扱えるかどうかは、申込先に確認する必要があります。確認するときは、会社から案内された支給予定日と、面談の予定日の前後関係を伝えられるように整理しておきます。
Q. 退職後に受け取ってから申込む場合は、何が変わりますか
A. 入金が通帳に記録された状態で申し込めるため、出所の説明が通帳だけで完結しやすくなります。一方で、受け取ってから動き出すと、申込から実行までの期間の分だけ、事業を始める時期が後ろにずれます。この点は、後半の「申込から実行までの期間」で整理します。
受け取り時期ごとの準備の順番
- 受け取り前:会社から案内された支給予定日を確認し、面談予定日との前後関係を整理します。受け取り前の退職金の扱いを、申込先に確認します。
- 受け取り直後:入金を通帳に記帳し、入金の記録が残っていることを確認します。
- 申込の前:創業計画書の自己資金の金額と、通帳の記録を突き合わせます。
- 面談の前:もう一度記帳し、面談の時点で口座に確認できる状態になっているかを見ます。
入金から面談までの見せ方
Q. 入金後、面談までに何をしておけばよいですか
A. 記帳して入金の記録を通帳に反映させ、創業計画書の自己資金の欄の金額と、通帳で確認できる金額が合っているかを確かめます。面談では、いつ受け取り、いつ入金されたのかを順に話せるようにしておきます。
💬 執筆者の小峰から一言
金融機関側から見ると、自己資金は金額の大小より、入金の経緯を説明できるかどうかが見られます。退職金なら、受け取った日と入金された日を、通帳の記録とつなげて話せるようにしておくと、聞く側も内容を確認しやすくなり、面談での説明もスムーズに進みます。
Q. 退職金は、創業計画書でどう扱えばよいですか
A. 退職金を含む自己資金を、どの支出に充てるのかは、資金使途と調達額の整合として見られます。設備や仕入など、事業に必要な支出ごとに必要額を書き、その内訳が自己資金と借入額で賄われているかを揃えます。
申込から実行までの期間と、受け取り日の逆算
Q. 退職金の受け取り日から、いつ頃までに動き出せばよいですか
A. 申込から融資の実行までは、書類を提出してからおおむね3週間〜1か月が目安です。準備を含めると、合計で約2か月を見ておくと安全です(執筆時点の目安)。事業を始めたい時期が決まっているなら、そこから逆算して、書類の準備を始める時期を決めます。退職金の受け取り日が先にある場合は、受け取りを待つ間に創業計画書や見積書などの準備を進め、入金が確認できた時点ですぐ申込める状態にしておくと、時期のずれを小さくできます。
なお、適用される利率や据置期間は、審査のうえ金融機関が決定するもので、申込者が選べるものではありません。希望は申込のときに伝えられますが、決めるのは金融機関です。
💬 執筆者の小峰から一言
退職金のほかに見落とされやすいのが、創業前に自費で支払った費用です。資格の取得、設備や備品の購入、テストマーケティングの費用は、みなし自己資金として一定範囲で評価されることがあります。領収書を捨てずに保管しておくと、後で説明の材料になります。
まとめ:次に手を動かす順番
退職金を創業融資の自己資金として説明するには、通帳で出所が確認できる形にしておくことが軸になります。受け取り時期に合わせて、次の順で進めてください。
- 会社に、退職金の支給予定日を確認する
- 受け取り前に申込む場合は、未入金の退職金の扱いを申込先に確認する
- 入金されたら記帳し、通帳に入金の記録が残っていることを確かめる
- 創業計画書の自己資金の金額と、通帳の記録を突き合わせる
- 面談の前に、もう一度記帳して、面談時点で口座に確認できる状態にする
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























