
公庫創業計画書活用ガイド|制度の特徴と申請のポイント
日本政策金融公庫の創業融資を申し込む際、必ず提出を求められる書類が「創業計画書」です。書類1枚で融資の可否が大きく左右されるため、初めて作成する起業直後の個人事業主・中小企業の方は不安を感じやすい部分です。本記事では、公庫創業計画書の制度上の特徴、8つの記入項目、審査担当者が見ているポイント、よくある否決理由までを整理しました。これから創業融資を申し込む方が、自分の計画書を見直す参考にしていただける内容です。
公庫創業計画書とは
公庫創業計画書とは、日本政策金融公庫が創業融資の審査に用いる事業計画書のフォーマットを指します。正式名称は「創業計画書」で、新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね2年以内の方が、新規開業・スタートアップ支援資金などの融資制度を申し込む際に提出します。
公庫のウェブサイトから無料でテンプレートをダウンロードでき、A4・1枚にまとまったシンプルな様式です。記入欄は8項目で構成されており、はじめての方でも書き始められるように工夫されています。一方で、シンプルだからこそ書き込む内容に経営者の準備度合いや事業の将来性が表れます。形式どおりに埋めるだけでは説得力に欠けるため、各項目の意図を理解したうえで作成することが大切です。
事業計画書との違い
創業計画書と事業計画書は混同されやすい書類です。両者の違いは、創業計画書が「公庫が指定する1枚もののフォーマットで、創業前から創業直後の事業者向け」であるのに対し、事業計画書は「特定の様式がなく、新規事業の立ち上げや経営改善など幅広い場面で使われる、より自由度の高い計画書」である点です。創業融資の申込時は、まず公庫の創業計画書を作成し、内容を補強したい場合は別途事業計画書を添付するという使い分けが一般的です。
創業計画書の8つの記入項目
公庫の創業計画書は、次の8項目で構成されています。
- 創業の動機
- 経営者の略歴等
- 取扱商品・サービス
- 取引先・取引関係等
- 従業員
- お借入の状況
- 必要な資金と調達方法
- 事業の見通し(月平均)
それぞれの項目に、審査担当者が確認したい意図があります。順番に見ていきましょう。
1. 創業の動機
「なぜこの事業を始めるのか」を記載する欄です。思いつきや勢いではなく、十分な準備期間を経て計画的に進めていることを示すのがポイントです。前職での経験、業界知見の積み上げ、自己資金を蓄えてきた経緯、創業に向けた具体的な準備行動などを書くと、説得力が高まります。
2. 経営者の略歴等
学歴・職歴・保有資格・過去の事業経験を記載します。特に、これから始める事業との関連性が問われます。同業種での勤務経験が長いほど、事業継続の可能性が高いと評価されやすい傾向があります。役職や担当業務、在籍年数も具体的に書きましょう。
3. 取扱商品・サービス
販売する商品やサービスの具体的内容、セールスポイント、販売戦略を記載します。「他社と何が違うのか」「誰に・何を・どうやって売るのか」を明確に書くことで、事業としての成立可能性を伝えられます。
4. 取引先・取引関係等
主な販売先・仕入先・人件費の支払条件などを記載します。創業前から取引予定先が決まっていると、売上見込みの確実性が高まります。法人取引が中心の業種では特に重視される項目です。
5. 従業員
雇用予定人数を記載します。家族従業員と一般従業員に分けて書く形式です。一人で開業する場合は0人で問題ありません。
6. お借入の状況
経営者個人の借入状況(住宅ローン、自動車ローン、カードローンなど)を正直に記載します。隠していても、信用情報の照会で確認されます。事実と異なる記載は信頼性を大きく損ねるため、必ず正確に記入しましょう。
7. 必要な資金と調達方法
設備資金・運転資金それぞれの内訳と、自己資金・借入金(公庫融資)の調達割合を記載します。「必要資金の合計」と「調達方法の合計」が一致しないと書類不備となります。電卓で必ず検算してください。
8. 事業の見通し(月平均)
創業当初と軌道に乗った後の売上・売上原価・経費・利益を記載します。根拠なく強気な数字を書くと、計画の信頼性を損ねます。客単価×客数、稼働率×単価など、計算根拠を別紙で添付できると安心です。
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審査担当者が見ているポイント
公庫の審査担当者は、創業計画書を通じて主に次の4点を確認しています。
- 返済可能性:事業から生み出される利益で借入金を返済できるか
- 経験の有無:同業種での勤務経験や関連知識の蓄積
- 自己資金の充実度:自己資金は計画的に積み上げられたものか
- 計画の現実性:売上見込みの根拠、経費の妥当性、市場感覚
特に重視されるのが、「数字の整合性」と「それを裏付けるストーリーの一貫性」です。動機・経験・商品サービス・売上見込みが一本の線でつながっていると、審査担当者は「この方なら事業を継続できそうだ」と判断しやすくなります。
よくある否決のパターン
創業計画書の書き方によって、否決となるケースは少なくありません。代表的なパターンは次の通りです。
- 創業動機が抽象的で、準備度合いが伝わらない
- 売上見込みの根拠が示されていない
- 自己資金の出所が不明(タンス預金や直前の入金があり「見せ金」と疑われる)
- 必要資金と調達方法の左右金額が一致しない
- 同業種での経験がほとんどない
- 借入状況の記載漏れ・虚偽
否決になっても再申請は可能ですが、公庫の融資はおおむね6か月以上経過しないと再審査の対象になりにくいといわれます。最初の申請を丁寧に進めることが、結果的に最短ルートになります。
公庫創業計画書を書くときの3つのコツ
計画書の質を上げる3つのコツを紹介します。
コツ1:A4・1枚に収まる情報量で簡潔に書く
公庫のフォーマットは1枚です。情報を詰め込みすぎると逆に読みにくくなります。要点を簡潔にまとめ、補足したい内容は別紙で用意するのが基本です。
コツ2:数字には必ず根拠を添える
「月商100万円」と書くなら、「客単価3,000円 × 1日10人 × 25営業日」のように分解できる根拠が必要です。根拠なき数字は審査担当者から不安視されます。
コツ3:第三者にチェックしてもらう
家族や知人ではなく、起業支援の経験がある専門家に見てもらうのが理想です。融資審査の視点で添削してもらうことで、書類の説得力が大きく変わります。提出前のひと手間で、採択率は大きく変わります。
よくある質問(FAQ)
Q. 創業計画書は手書きでも問題ありませんか?
A. 手書きでも受理されます。ただし、修正が多い場合や読みづらい場合は印象を損ねる可能性があるため、エクセル等で作成するのがおすすめです。
Q. 公庫の創業計画書テンプレートはどこから入手できますか?
A. 日本政策金融公庫の公式ウェブサイトから、無料でダウンロードできます。業種別の記入例も公開されています。
Q. 別途、自作の事業計画書を添付してもよいですか?
A. 添付しても問題ありません。創業計画書だけでは表現しきれない数字の根拠や市場分析などを補足する目的で活用できます。
まとめ
公庫創業計画書は、創業融資の可否を左右する重要書類です。8つの記入項目それぞれの意図を理解し、数字の根拠と一貫性を意識して書くことで、審査担当者に伝わる計画書になります。記入に迷う場合や、客観的なチェックを受けたい場合は、起業支援の経験がある専門家への相談を検討してみてください。
監修執筆者プロフィール
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























