
士業の独立開業、オフィス費用はどこまで創業融資でまかなえるか
税理士・社会保険労務士・行政書士・中小企業診断士など、士業として独立するときに悩みやすいのが「事務所を借りるための費用は、創業融資でどこまでカバーできるのか」という点です。士業は製造業や飲食業に比べて設備投資は軽い一方、事務所の賃貸借費用や什器・システム導入費は避けて通れません。
この記事では、士業が独立開業する際の事務所賃貸借費用・設備費が創業融資の資金使途としてどう扱われるかを、2026年時点の情報にもとづいて整理します。制度・数字は執筆時点のものであり、申請前には必ず最新の公式情報をご確認ください。
創業融資の資金使途は「設備資金」と「運転資金」の2種類
日本政策金融公庫の創業融資では、資金使途が大きく「設備資金」と「運転資金」の2つに分かれます。設備資金は開業時に一度だけ必要になる資産の購入費用、運転資金は事業を続けていくために継続して発生する支出です。返済期間の目安も異なり、新規開業・スタートアップ支援資金を利用する場合、設備資金は20年以内、運転資金は原則10年以内とされています(据置期間はいずれも5年以内)。士業の事務所費用を考えるときも、まずこの2つのどちらに該当する支出かを整理することが出発点になります。
事務所の什器・パソコン・システム導入費は「設備資金」
士業事務所で必要になる什器(デスク・書棚・応接セット等)、パソコン・複合機、会計ソフトや顧客管理システムの導入費用は、事業を始めるにあたって一度だけ発生する支出として設備資金に計上できます。士業は在庫や大型機械を持たない分、設備資金の規模自体は製造業などに比べて小さくなりやすい業種です。
毎月の事務所賃料は「運転資金」の一部
事務所を借りた後、毎月発生する賃料は、事業を継続するための支出として運転資金に含まれます。運転資金として創業融資を申し込む場合、開業当初の数か月分(目安として3か月程度)が対象になるのが一般的です。ここで注意したいのは、運転資金の対象はあくまで「事業に必要な支出」であり、経営者自身の生活費(家賃・食費など事業と無関係な支出)は運転資金の対象にならないという点です。自宅を事務所と兼用する場合は、事業分と生活分を切り分けて計画書に示す必要があります。
自宅開業と事務所を借りる開業で融資額はどう変わるか
士業の独立開業は、自宅の一室を事務所にするケースと、あらためて事務所を借りるケースに分かれます。自宅開業であれば什器・パソコン程度の設備資金で済み、必要な融資額は小さくなりやすい一方、事務所を借りる場合はオフィス什器の充実や、来客対応スペースの整備などで設備資金・運転資金ともに増える傾向があります。どちらが良い・悪いという話ではなく、開業直後の収入が不安定な時期に、家賃という固定費を毎月背負う体力があるかどうかで判断するのが現実的です。
各士業の登録費用は融資の資金使途に含められるか
税理士・社会保険労務士・行政書士など各士業には、登録免許税や登録手数料、各士業会への入会金・年会費といった費用が発生します。これらは資格を得て事業を始めるために必要な支出であるため、事業計画書の中で開業費用の一部として整理されることがあります。
新規開業・スタートアップ支援資金の数字の目安
士業が創業融資を検討する際の代表的な制度が、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です。2026年6月1日現在の基準利率は、無担保・創業期(税務申告を2期終えていない場合)で年3.45〜5.15%が目安です。融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)ですが、士業は設備投資が軽い分、実際の借入額はこれよりかなり小さくなるのが一般的です。創業期の方が無担保で利用する場合、原則0.65%(雇用の拡大を図る場合0.9%)の引下げが適用される可能性がありますが、実際の適用可否は制度・審査・条件により異なるため、申請先での確認が必要です。
士業の創業融資でよくある誤解
「自己資金は総額の10分の1が必須」という誤解
制度上、自己資金の額や割合について固定された要件はありません。ただし自己資金の額は審査の重要な判断材料であり、多いほど有利になりやすいのは事実です。「○分の1が必須」という決まりのように断定する情報を見かけたら、現行制度の説明としては不正確である点に注意してください。
今も使える制度として「新創業融資制度」を紹介している誤解
無担保・無保証の特例だった「新創業融資制度」は2024年3月に廃止されており、現在は各融資制度に無担保・無保証人の枠組みが組み込まれています。士業の開業支援に関する情報の中には、廃止済みの制度をそのまま紹介しているものもあるため、情報の時点に注意しましょう。
顧客ゼロ・実績なしでは申し込めないという誤解
創業融資は、これから事業を始める人を支える制度であり、創業した実績がなくても事業計画書と自己資金などをもとに審査されます。士業として独立したばかりで顧客ゼロの状態でも申し込み自体は可能です。前職での実務経験や見込み顧客との接点を、事業計画書で具体的に示せるかどうかが重要になります。
よくある質問(FAQ)
Q. 自宅を事務所にする場合、家賃は運転資金に含められますか?
A. 自宅と事務所を兼用する場合、事業で使用する面積・時間の割合に応じて按分するのが一般的な考え方です。生活費部分は運転資金の対象にならないため、事業分と生活分を切り分けて計画書に示す必要があります。
Q. 事務所を借りずに自宅開業する場合、融資額は少なくなりますか?
A. 自宅開業は設備資金・運転資金ともに小さくなりやすい傾向がありますが、必要な融資額は事業内容や準備状況によって変わります。無理に借入額を増やすのではなく、実際に必要な金額を積み上げて計画することが大切です。
まとめ
士業の独立開業における事務所費用は、什器・パソコン・システム導入費が「設備資金」、毎月の賃料が「運転資金」の一部という整理がまず基本になります。
創業融資は実績がなくても申し込める制度である一方、制度・金利は変わりやすく、自己資金要件や旧制度の情報など誤解も広がりやすい分野です。事務所を借りるかどうかを含めた資金計画に迷う場合は、早めに専門家に相談しながら準備を進めることをおすすめします。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

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中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























