
日本政策金融公庫の創業計画書には、所定の項目を埋め終えたあとに登場する「自由記述欄」があります。何を書けばよいのかルールがなく、空欄のまま提出してしまう方も少なくありませんが、ここはむしろ計画書の説得力を一段引き上げる絶好のスペースです。
この記事では、創業計画書の自由記述欄について、その役割、書くと評価される内容、書き方のフレームワーク、業種別の記入例、よくある失敗パターンまでを、起業直後の個人事業主・中小企業の経営者向けにわかりやすく整理します。創業融資の審査で印象を高める自由記述欄の使い方をご紹介します。
創業計画書の「自由記述欄」とは
自由記述欄は、日本政策金融公庫の創業計画書の最後の項目に配置されている、何を書いても良い余白スペースです。テンプレート上は「8 自由記述欄(事業を経営していく上での問題点・対応策など、特にアピールしたい点をお書きください)」といった案内文がついており、定型項目だけでは伝えきれない情報を補足するための欄として用意されています。
空欄でも提出できるが、書いたほうが評価される
制度上は空欄でも問題ありません。しかし、融資担当者の立場から見ると、自由記述欄が空白の計画書は「アピールできる材料が乏しい」「準備が浅い」と捉えられる可能性があります。一方、ここに事業の本気度や補足情報がしっかり書かれていれば、計画書全体の印象が大きく変わります。
記入欄の特徴
自由記述欄は、創業計画書の中で最もスペースが広く、6〜10行程度の記述ができる構成になっています。文字数の制約はゆるい一方で、書き方の指針が示されていないため、何を書くべきか迷いやすい欄でもあります。
融資担当者は自由記述欄で何を見ているか
公庫の担当者は、自由記述欄を読みながら次のような点を確認しています。
計画書の他項目で補足が必要な部分
「経営者の略歴」「事業の見通し」「資金計画」など、表形式の項目では書ききれなかった補足情報を確認しています。特に、数字の根拠や、事業との関連経験の詳細など、信用に直結する情報が書かれているかをチェックしています。
創業者の「本気度・準備度」
事業に対する熱意や、すでに準備してきた具体的な行動(市場調査・テスト販売・顧客リスト確保など)が書かれていると、本気度が伝わります。逆に抽象的なスローガンばかりだと、「行動が伴っていない」と判断されかねません。
リスク認識と対応策
「うまくいく話」ばかりではなく、想定されるリスクとその対応策が示されていると、冷静に経営を見られる人物だと評価されます。融資担当者は、リスクに目をつぶっている計画書ほど警戒します。
強み・差別化のストーリー
競合と何が違うのか、なぜお客様に選ばれるのかを、ストーリー仕立てで補足できると、計画書全体の印象が高まります。
自由記述欄に書くべき内容のフレームワーク
何を書けばよいか迷う場合は、次の4つのカテゴリーから複数選んで構成すると、説得力のある自由記述欄になります。
1. 創業に向けて準備してきた具体的な行動
市場調査の結果、テスト販売の数字、見込客の確保状況、物件契約の進捗、開業セミナー受講歴など、開業準備の進捗を具体的に記載します。「準備ゼロから融資を希望する人」と「準備を積み上げてきた人」では、評価が大きく異なります。
2. 競合との差別化・強み
商品単価、立地、技術、顧客サポート、価格戦略など、競合と比べた優位点をエピソードを交えて記述します。漠然と「他社にない強み」と書くのではなく、「具体的に何がどう違うのか」を1〜2点に絞って書くのがコツです。
3. 想定リスクと対応策
「売上計画が下振れした場合は、◯◯費用を見直す」「人手不足になった場合は、◯◯のパートナーと連携済み」など、起こりうるリスクとその対応策をセットで示します。リスクへの備えは、計画書全体の信頼性を底上げします。
4. 中長期のビジョン
3年後・5年後の事業展開、店舗拡大、商品ラインナップ拡張、人員計画などを簡潔に示します。長期視点を持っていることが伝わると、単発の起業ではなく持続的な事業として評価されやすくなります。
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自由記述欄の記入例
例1:飲食店(カフェ)開業
「開業予定地周辺の半径500m圏内で、6か月間にわたり通勤動線・滞在客層の調査を実施しました。最寄駅は1日乗降客数約12,000人、午前と夕方に明確なピークがあり、当店の客単価設定(朝800円・昼1,200円・夕方1,500円)と整合性が取れています。すでに地元の地域コミュニティイベントに3回出店し、合計130名の見込客リストを獲得済みです。開業後半年で売上が想定の70%にとどまった場合は、夜間営業時間の短縮と原価率管理を強化し、固定費を月15万円圧縮できる体制を準備しています。」
例2:美容室開業
「美容師として12年間、うち4年は店長として月商600万円の店舗運営を経験しました。前職での指名顧客約180名のうち、開業エリアに在住する60名から開業時の継続利用の意向確認を済ませており、初月から一定の予約数が見込める状況です。物販については、業界平均10%に対し、前職店舗では18%まで引き上げた経験があり、開業店でも同水準を目指します。3年以内に2号店を出店し、後進育成を兼ねた店長育成プログラムを軌道に乗せる計画です。」
例3:個人事業(士業・コンサル)
「会社員時代に同業事務所で6年間、年間50件以上の案件を担当してきました。独立にあたり、すでに前職経由で3社の業務委託契約と、月10件規模の継続案件の受託見込みが確定しています。専門分野である◯◯領域では、SNS発信を1年継続し、フォロワー2,800名・問い合わせ平均月5件の状態をつくれています。受任案件が増加した場合に備え、業務委託パートナー2名と連携体制を構築済みで、需要変動に柔軟に対応できます。」
自由記述欄でよくある失敗例
空欄のまま提出する
もっとも多い失敗です。「特に書くことがない」と感じても、準備行動・差別化要素・リスク対応策のどれかを必ず書きましょう。空欄は「アピール材料を持たない人」として受け取られます。
抽象的な意気込みだけを書く
「お客様に喜ばれる事業を目指します」「地域に貢献していきたいです」といった抽象論だけでは、評価につながりません。具体的な行動・数字・実績で裏づけることが重要です。
計画書本体と矛盾する内容を書く
たとえば本体で「店舗集客中心」と書きながら、自由記述欄で「ネット販売が主力」と書くと、計画全体の整合性が崩れます。提出前に、本体と自由記述欄に矛盾がないかを必ず読み合わせましょう。
欠点や弱みを正直に書きすぎる
リスク認識は重要ですが、致命的な弱みを並べてしまうと「融資に値しない」という判断につながりかねません。弱みは必ず対応策とセットで示すのが鉄則です。
長文で読みにくくなる
欄が広いからといって文章を詰め込みすぎると、要点がぼやけます。担当者が短時間で読めるよう、改行を入れ、3〜4の話題に分けて整理しましょう。
記入時のチェックポイント
自由記述欄を書き終えたら、提出前に次の項目を確認します。本記事の情報は2026年5月時点の公庫様式を前提としているため、最新の様式や運用は公庫公式サイトでも必ず確認してください。
- 計画書本体に書かれていない情報を補足できているか
- 具体的な数字・行動・エピソードが含まれているか
- リスクと対応策がセットで示されているか
- 本体と矛盾する記述がないか
- 読みやすい段落・改行になっているか
まとめ
創業計画書の「自由記述欄」は、定型項目では伝えきれない補足情報を盛り込み、計画書全体の説得力を底上げできる重要なスペースです。書き方のポイントは以下の通りです。
- 準備行動・差別化要素・リスク対応策・中長期ビジョンの4軸から選んで構成する
- 抽象論ではなく、具体的な数字・行動・エピソードで裏づける
- 本体と矛盾しないかを必ず読み合わせる
- 弱みは対応策とセットで示す
自由記述欄は、空欄のままにせず、創業者の準備度と本気度を伝える場として活用しましょう。書き方に悩んだら、過去の融資審査の現場を熟知した専門家に相談することで、担当者目線で印象に残る計画書に仕上げることができます。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























