
日本政策金融公庫の創業計画書を書き始めると、「取扱商品・サービス」の欄に登場する「売上シェア」という項目で手が止まる方は少なくありません。耳慣れない用語のうえ、「数字をどう割り振ればいいのか」「100%にする必要があるのか」「未開業の段階で根拠をどう示せばいいのか」と、悩みどころが多いセクションです。
この記事では、創業計画書の売上シェアの基本的な意味から、公庫が確認している意図、具体的な書き方、よくある失敗例までを、起業直後の個人事業主・中小企業の経営者向けにわかりやすく整理します。創業融資の審査で評価される売上構成の組み立て方を、実例を交えてご紹介します。
創業計画書の「売上シェア」とは
創業計画書における売上シェアとは、自社が扱う商品・サービスごとの売上構成比(%)のことです。日本政策金融公庫の創業計画書フォーマットでは、「3 取扱商品・サービス」という項目の中に「売上シェア」を記入する欄が設けられており、商品・サービスを行ごとに分け、それぞれが全体売上に占める割合を百分率で記載します。
マーケティング用語の「市場シェア」とは別物
「シェア」と聞くと、業界全体の中で自社が占める割合(市場シェア)をイメージするかもしれません。しかし創業計画書の売上シェアは、自社の売上を内訳に分解したときの構成比を指します。市場全体の話ではなく、あくまで自社内の話である点に注意してください。
記入欄の位置
公庫の創業計画書(A4用紙2枚程度のフォーマット)では、項目「3 取扱商品・サービス」の表の中に、商品名(または事業内容)、売上シェア、セールスポイントを並べて書く設計になっています。3行程度しか枠がないため、すべての商品を網羅するのではなく、主力に絞って記入する形式です。
なぜ売上シェアを書くのか
「売上の総額さえ示せば十分では?」と感じる方もいるかもしれませんが、公庫の融資担当者は売上シェアの欄から、数字には表れない情報を読み取ろうとしています。
主力商品が何かを把握するため
事業計画書全体の売上見込みを評価するには、まず「何で売上を立てるのか」を明確にする必要があります。売上シェアを記載することで、収益の柱となる商品・サービスが一目で分かり、計画全体の整合性が確認しやすくなります。
事業の強みと一致しているかを確認するため
創業計画書では、経営者の経験や強みを別の欄に記載します。売上シェアの高い商品が、その強みや経験と結びついているかどうかは、計画の実現可能性を判断する大きな材料になります。たとえば「飲食店勤務10年」の経験を強みとしながら、売上シェアの大半が物販という構成では、整合性に疑問が残ります。
収益の安定性を見るため
1つの商品に売上が偏りすぎていると、需要変動の影響を強く受けます。一方で複数商品をバランスよく扱う場合は、安定性が高い反面、リソースが分散している可能性も指摘されます。担当者はシェアの分布から、事業の安定性とリスクを総合的に評価しています。
売上シェアの書き方の手順
実際に売上シェアを記入する際は、次のステップで考えると整理しやすくなります。
ステップ1:扱う商品・サービスを洗い出す
まずは予定している商品・サービスを書き出し、似たもの同士をまとめます。たとえば飲食店であれば「ランチメニュー/ディナーメニュー/ドリンク」、美容室であれば「カット/カラー/パーマ/物販」のように、お客様目線で区別できる単位で整理します。
ステップ2:主力3つに絞り込む
公庫の創業計画書の記入欄は3行程度しかありません。細かく分けすぎると逆に主力が見えなくなるため、売上に貢献する上位3つに絞るのが基本です。「その他」をまとめて1行使う形でも構いません。
ステップ3:構成比を100%になるよう配分する
3つの商品の売上シェアを合算したときに、必ず100%になるように調整します。たとえば「ランチ50%・ディナー40%・ドリンク10%」のように、合計100%で記入するのが原則です。
ステップ4:根拠を別の欄や面談で説明できるよう準備する
未開業の段階で売上シェアを示すには、何らかの根拠が必要です。前職での実績、同業他店の構成比、商圏分析の結果など、「なぜこの比率になるのか」を口頭で説明できる材料を必ず手元に用意しておきます。
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売上シェアでよくある間違い
創業計画書の売上シェアでは、見落としがちなミスがいくつかあります。事前にチェックしておきましょう。
合計が100%にならない
「50%・30%・10%」で合計90%になっているケースが意外と多く見られます。担当者から指摘される前に、提出前に必ず電卓で合計を確認してください。
商品を分けすぎる
10種類のメニューを10%ずつ並べると、何が主力なのか伝わりません。主力をはっきりさせることがシェア表記の目的なので、細分化しすぎないことが重要です。
根拠のない高シェア商品を置く
「新商品が80%を占める予定」と書きながら、その根拠が一切示せない場合、計画書全体の信頼性を損ねます。前職経験・市場データ・テスト販売の結果など、どんな簡易なものでも構わないので、根拠を準備しておきましょう。
セールスポイントとの整合性がない
売上シェアの高い商品については、隣の欄の「セールスポイント」でしっかり魅力を語る必要があります。シェアが高いのに記述が薄いと、計画の本気度が伝わりません。
売上シェアを記入するときのコツ
業種別の典型例を意識する
業種ごとに、ある程度想定される売上シェアの目安があります。たとえばカフェであればドリンク60%・フード30%・物販10%、美容室であれば施術80%・物販20%といったイメージです。同業の公開情報や業界統計を参考に、「業界の常識から外れすぎていないか」を確認しましょう。
原価率・粗利の高低も意識する
売上シェアと合わせて、各商品の粗利率を把握しておくと、面談での説明に厚みが出ます。「シェアは小さいが高粗利の柱」「シェアは大きいが低粗利」など、収益貢献を補足できると評価されやすくなります。
変動の可能性も伝える
開業初期はシェアが想定とズレることが多いため、「開業3か月以降は構成比の見直しを行う」など、状況に応じて修正する姿勢を示すと、過度な断定を避けられます。本記事の情報は2026年5月時点のものを基にしており、公庫の様式や運用は変更される可能性があるため、最新の様式は公庫公式サイトで必ず確認してください。
まとめ
創業計画書の「売上シェア」は、自社の売上を商品・サービス別の構成比で示し、主力が何かと、計画全体の整合性を伝えるための重要な欄です。書き方のポイントは以下の通りです。
- 商品・サービスを3つ程度に絞り込み、合計100%になるよう配分する
- シェアの高い商品については、経営者の経験や強みと結びつける
- 「なぜこの比率になるのか」を説明できる根拠を必ず準備する
- セールスポイントの記述とシェアの大きさを一致させる
売上シェアの欄は小さなスペースですが、創業計画書全体の説得力を左右する重要な構成要素です。書き方に迷うときは、融資の現場を熟知した専門家に相談することで、審査担当者目線で違和感のない計画書に仕上げられます。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























