
工程管理システムと実行予算管理は一体導入で補助金の対象が変わる
工程表と実行予算をいまだに紙や表計算ソフトで回している、という工事会社は珍しくありません。工程管理システムと実行予算管理システムのどちらを先に入れるか、あるいは両方を同時に入れるかで迷う場面では、実は使える補助金や申請の組み立て方まで変わってきます。この記事では、建設業の実行予算という単位に絞って、一体導入と段階導入のそれぞれで乗りやすい制度と、申請前に押さえておきたい条件を整理します。
「工程管理」と「実行予算管理」を同時に入れる一体導入という選択
工程表は現場の進み具合を管理するための表で、実行予算は工事ごとにかかる原価を予算と実績で突き合わせる管理です。この二つは別々のシステムとして導入されることが多いのですが、工事別の原価をリアルタイムで見たい会社ほど、工程の進捗と実行予算の消化を一つの画面で結び付けたいという要望が出てきます。工程管理と実行予算管理を一体のシステムとして同時に導入する場合、対象になる業務プロセスの数が増えるため、補助金の枠選びにも影響が出てきます。
実行予算は工事ごとの原価管理という建設業特有の単位であり、着工から竣工までのあいだに材料費や外注費が計画からどれだけずれているかを、工程の進捗と重ねて見なければ、赤字工事に気づくタイミングが遅れてしまいます。工程管理システムと実行予算管理システムを別々のタイミングで入れると、進捗の情報と原価の情報がそれぞれ別の画面に残ったままになり、突き合わせの手間がかえって増えることがあります。一体導入を検討する会社が増えている背景には、この突き合わせの手間そのものを無くしたいという事情があります。
一体導入で軸になるデジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)
工程管理と実行予算管理をひとつのシステムとして導入する場合、業務効率化のためのITツール導入という位置づけで、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)が軸になります。対象経費にはソフトウェア購入費のほか、クラウド利用料が最大2年分まで含まれ、導入時の設定や研修、マニュアル作成、保守サポートといった導入関連費も対象です。申請は事務局に登録されたIT導入支援事業者の支援を受けることが前提で、導入目的が業務効率化やデジタル化の推進に結びついていることも求められます。
枠は複数あり、通常枠の上限は450万円、インボイス対応を目的にした枠は上限350万円です。複数の会社が連携してデジタル化・AI導入を進める枠は上限3,000万円まで広がります。ここで見落とされがちなのが、通常枠のうち対象になる業務プロセスの数が多い区分では、賃上げ計画の策定と表明が実質的な前提になるという点です。工程管理と実行予算管理を一体で導入すると、対象になる業務プロセスが増える分、この区分に該当しやすくなり、賃上げ計画まで含めて事業計画を組む必要が出てくることがあります。
段階的に導入する場合、それぞれの回で何を申請するか
資金や体制の都合で、工程管理と実行予算管理を同時には入れられないという会社もあります。この場合は、まず実行予算管理から着手して工事別の原価を把握できる状態を作り、翌年度以降に工程管理を追加するといった段階導入が現実的な選択になります。段階導入でも、それぞれの投資がソフトウェア購入費やクラウド利用料を中心とする限り、デジタル化・AI導入補助金の対象経費という考え方は変わりません。ただし公募の回や年度をまたぐ場合は、それぞれの回の要件と枠の上限を都度確認し、賃上げ計画を含む事業計画をそのつど組み直す必要があります。
先にどちらから入れるかを決めるときは、制度の名前から入るのではなく、投資の規模と目的から逆算して考えると迷いにくくなります。
💬 執筆者の三浦から一言
審査する側にいた経験から言うと、パソコンやディスプレイなど汎用品だけを並べた計画は対象になりにくいです。工程管理や実行予算管理のシステム本体費用にひもづけて周辺機器を計画すると、対象経費として説明しやすく、審査でも筋の通った投資に見えます。現場ごとに機能や台数が変わる構成にしておくと、なお説明しやすくなります。
段階導入を選ぶ場合でも、システムを一つ入れるごとに事業計画をゼロから作り直すつもりで臨んだほうが、あとから枠を選び違えたと気づくよりも手戻りが少なくて済みます。
実行予算管理システムを単独で入れるときに気をつけたい点
実行予算管理システムだけを単独のソフト投資として入れたい場合、中小企業省力化投資補助金(一般型)を検討する会社もありますが、この制度は設備投資が前提になっている点に注意が必要です。対象になるのは「オーダーメイド性のある設備」で、省力化に資する汎用設備を複数組み合わせる場合か、導入環境に応じて周辺機器や構成する機器の数、搭載する機能が変わる場合のいずれかに該当する必要があります。単価50万円(税抜)以上の機械装置等を最低1つ入れるという条件を満たしていても、汎用設備を単体で導入するだけでは対象外です。実行予算管理システムのようなソフト投資だけを単独で申請しようとすると、この設備投資の前提を満たしにくく、現場側の機器投資とあわせて計画を組む設計のほうが対象になりやすくなります。建設業の場合、現場の測量機器やセンサーなど周辺の設備投資とあわせて導入計画を組むと、この要件を満たしやすくなります。
一般型の補助上限は1億円で、3年から5年の事業計画で労働生産性を年平均4.0パーセント以上伸ばす計画が必要です。賃上げ目標も要件になっており、未達の場合は達成率に応じて返還が発生しうる制度です。みなし大企業に該当する場合や、直近3年の課税所得の年平均が15億円を超える場合、実態確認ができない場合、従業員が0名の場合、外部任せで主体性が無いと判断される場合は対象外になりやすいので、単独導入を検討する段階であらかじめ確認しておく必要があります。
自社は一体導入と段階導入のどちらが向くか
判断の軸は主に三つあります。一つ目は資金と体制で、システム導入費用に加えて賃上げ計画まで一度に背負える体力があるかどうかです。二つ目は現場の混乱度で、工程管理と実行予算管理を同時に切り替えると、現場の担当者が新しい運用を一気に覚える負担が大きくなるため、段階導入のほうが定着しやすい会社もあります。三つ目は原価管理の緊急度で、赤字工事に早く気づきたいなら実行予算管理を先に、下請けとのやり取りや工期遅延を減らしたいなら工程管理を先に、という順番になりやすい傾向があります。
体力に余裕がある会社は一体導入で業務プロセスをまとめて整理したほうが、あとから二つのシステムを連携させる作業でつまずくリスクを避けられます。一方で、現場の抵抗が大きい会社や、まず数字を見える化するところから始めたい会社は、実行予算管理から着手して効果を実感してから工程管理を追加するほうが、社内の理解を得やすいという面があります。いずれの順番でも、契約や発注のタイミングは制度側の決まりに従う必要があります。
💬 執筆者の三浦から一言
実務でつまずきやすいのは順番です。交付決定より前にベンダーと契約したり発注を済ませたりすると、その時点で補助の対象から外れてしまいます。一体導入でも段階導入でも、見積もりまでは進めてよいので、契約はいつも交付決定の後に回してください。採択の通知だけでは着手してよい合図にはなりません。
まとめ
工程管理システムと実行予算管理システムは、同時に一体で入れるか、時期をずらして段階的に入れるかで、乗りやすい制度も申請の組み立て方も変わります。一体導入ならデジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)の対象経費と枠の区分を、段階導入ならそれぞれの回の要件を、実行予算管理システム単独での投資なら中小企業省力化投資補助金(一般型)の設備投資の前提を、それぞれ確認したうえで計画を組むことが、遠回りをしない近道になります。自社の資金と体制、現場の負担、原価管理の緊急度を見比べながら、どちらの順番で進めるかを決めてください。
【無料相談のご案内】
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この記事を書いた人
三浦高/Takashi Miura
元創業補助金(経済産業省系補助金)審査員・事務局員
中小企業診断士、起業コンサルタント®、
1級販売士、宅地建物取引主任者、
融資・資金調達コンサルタント
行政書士法人V-Spirits 補助者
産業能率大学 兼任教員
2024年現在、各種補助金の累計支援件数は300件を超える。
融資申請のノウハウも蓄積し、さらに磨きを掛けるべく日々事業計画書に向き合っている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
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