
遠隔臨場システムの補助金は「カメラ単体」では通らない|対象になる組み立て方
公共工事の段階確認や材料確認のたびに、監督員の来場を待って現場が止まる。あるいは、自社の担当者が一日に何現場も車で往復している。こうした負担を減らす手段として、遠隔臨場システムを検討する建設会社が増えています。
そこで必ず出てくるのが「補助金は使えないのか」という質問です。結論からいうと、使える可能性のある制度は複数あります。ただし、多くの記事が書いている「ウェアラブルカメラを買えば補助対象」という理解のまま進めると、対象外と判断されたり、そもそも計画が要件を満たさなかったりします。
この記事では、遠隔臨場システムの導入に使える可能性がある補助金を整理したうえで、建設会社がつまずきやすい3つの落とし穴を、公募要領で確認できる要件に沿って解説します。制度・数字はいずれも2026年8月時点の情報です。申請時は必ず最新の公募要領をご確認ください。
遠隔臨場システムとは何か|補助金と相性がよい理由
遠隔臨場とは、現場に設置したカメラや作業員が装着するカメラの映像を通信回線で事務所に送り、監督員や技術者が現場に行かずに段階確認・材料確認・立会を行う仕組みのことです。国土交通省の直轄工事で運用が広がり、地方自治体の工事でも導入が進んでいます。ただし、どの工事でどこまで遠隔臨場が認められるかは発注者ごとに扱いが異なるため、実際の運用は発注者の要領を確認する必要があります。
補助金の観点で重要なのは、遠隔臨場が「移動時間と立会待ち時間を削る取り組み」だという点です。人手不足対策の補助金は、いずれも「省力化によって労働生産性がどれだけ上がるか」を数字で示すことを求めます。遠隔臨場は、往復の移動時間や待機時間という形で削減効果を計算しやすい投資であり、その意味で補助金の計画に載せやすいテーマだといえます。
遠隔臨場システムに使える可能性がある補助金4つ
1. 中小企業省力化投資補助金(一般型)
補助上限は1億円で、現場の人手不足や工程のムダを減らす設備・システム導入を支援する制度です。遠隔臨場を「現場管理の省力化」として組み立てる場合、第一候補になります。
ただし要件は軽くありません。3〜5年の事業計画で労働生産性を年平均4.0%以上伸ばす計画が必要で、賃上げ目標も要件になっています。未達の場合は達成率に応じて返還が発生しうる設計です。設備投資も必須で、単価50万円(税抜)以上の機械装置等を最低1つ入れる必要があります。
2. デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)
事務局に登録されたソフト・クラウド等の導入を支援する制度で、補助上限は通常枠450万円、インボイス枠350万円、複数者連携デジタル化・AI導入枠3,000万円です。遠隔臨場の中心が映像共有プラットフォームや施工管理システムとの連携である場合、こちらのほうが筋が通ることがあります。
注意点は、事務局に登録されたIT導入支援事業者(ベンダー等)の支援を受けて申請する前提で、導入するツールも登録品が前提だということです。つまり、自社が使いたい製品が登録されているかどうかで、そもそも使えるかが決まります。一方で、クラウド利用料が最大2年分まで対象経費に含まれる点は、月額課金型の遠隔臨場サービスとの相性がよい部分です。
3. 小規模事業者持続化補助金
補助率2/3、上限は基本50万円で、インボイス特例と賃金引上げ特例の両方を満たす場合に最大250万円まで上乗せされます。建設業は「製造業その他」として判定され、常時使用する従業員20人以下であれば小規模事業者に該当します。
ただしこの制度は販路開拓が主題で、業務効率化はそれとセットで行う取組という位置づけです。遠隔臨場の導入だけを目的に申請すると、主題からずれていると判断されやすくなります。商工会・商工会議所の支援を受けて事業支援計画書(様式4)の発行を受ける必要があり、電子申請にはGビズIDプライムが必須です。
4. 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 革新的新製品・サービス枠
「ものづくり補助金」と「新事業進出補助金」は2026年度に統合され、公募要領上の正式名称は新事業進出・ものづくり商業サービス補助金になりました。革新的新製品・サービス枠の補助上限は従業員規模により異なり、5人以下750万円、6〜20人1,000万円、21〜50人1,500万円、51人以上2,500万円です。大幅賃上げ特例を適用した場合は最大3,500万円まで拡大しますが、これは最大規模かつ特例適用時の数字であって、無条件の上限ではありません。補助下限は100万円です。
自社の現場管理を効率化するだけでなく、遠隔臨場の運用ノウハウを他社向けのサービスとして提供していく構想があるなら、この枠が候補になります。第1回公募は2026年6月29日開始、申請締切は2026年9月30日18時、採択発表は2026年12月頃とされています。
遠隔臨場で補助金が通らない3つの失敗パターン
失敗1:ウェアラブルカメラを単体で買ってしまう
もっとも多い誤解がこれです。中小企業省力化投資補助金(一般型)の対象になるのは、オーダーメイド性のある設備です。公募要領の考え方では、省力化に資する汎用設備を複数組み合わせることでより高い省力化効果や付加価値を生み出す場合、あるいは事業者の導入環境に応じて周辺機器や構成する機器の数、搭載する機能等が変わる場合に、汎用設備であってもオーダーメイド設備とみなされます。
裏を返すと、単に汎用設備を単体で導入する事業は対象外です。市販のウェアラブルカメラを何台か購入するだけでは、単価50万円(税抜)以上という要件を満たしていたとしても、オーダーメイド性の説明が立ちません。
通すのであれば、カメラ・通信機器・映像管理システム・施工管理システムとの連携までを一つの構成として設計し、自社の現場条件に合わせて機器構成や機能が変わることを計画で示す必要があります。「何を買うか」ではなく「どう組み合わせて現場の工程を作り替えるか」が問われていると考えてください。
失敗2:工期に合わせて交付決定前に発注してしまう
建設業で特に起きやすいのがこの事故です。受注した工事の着工に間に合わせようとして、採択の連絡や交付決定を待たずに機器を発注してしまうケースがあります。
補助金は原則として、交付決定日より前に行った発注・契約・支払は対象外です。採択の通知が届いた段階ではまだ事業を開始できません。工事の工期と補助事業のスケジュールは別物として管理し、どうしても先に導入が必要なら、その分は補助対象から外す前提で資金計画を組むほうが安全です。
失敗3:「発注者に求められたから」だけで計画を書く
遠隔臨場の導入理由として「発注者が対応を求めているため」と書きたくなりますが、これだけでは補助金の審査で評価される計画にはなりません。制度が見ているのは、その投資によって自社の労働生産性がどれだけ上がるかです。
説得力を持たせるには、削減効果を数字にする作業が要ります。たとえば、現場の立会いに要していた片道の移動時間と待機時間、対象となる年間の確認回数、関与する技術者の人数を洗い出し、遠隔臨場に置き換えた場合に何時間が浮くのかを積み上げます。浮いた時間を何に振り向けて付加価値を増やすのかまで書けて、はじめて省力化の計画として成立します。
制度の選び分け|投資の中身から逆算する
4つの制度は「どれが有利か」ではなく「投資の中身がどれに当たるか」で決まります。目安は次のとおりです。
- 機器とシステムを組み合わせて現場の工程そのものを作り替える:中小企業省力化投資補助金(一般型)
- 登録済みのソフト・クラウドサービスの導入が中心で、月額利用料の比重が大きい:デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)
- 従業員20人以下で、販路開拓の取組とセットで小さく始めたい:小規模事業者持続化補助金
- 遠隔臨場の運用を新しいサービスとして外部に提供する構想がある:新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 革新的新製品・サービス枠
なお、既製の省力化製品をカタログから選んで導入する形であれば中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型)という選択肢もありますが、こちらは登録された製品を販売事業者と共同で申請する制度です。遠隔臨場のように現場条件に合わせて構成が変わる投資とは、制度設計が合わないことがあります。
よくある質問
通信費やクラウド利用料は補助対象になりますか
制度によって扱いが変わります。デジタル化・AI導入補助金ではクラウド利用料が最大2年分まで対象経費に含まれます。中小企業省力化投資補助金(一般型)でもクラウドサービス利用費は対象経費に挙げられていますが、補助事業専用の利用であることが前提です。既存の社内通信契約をそのまま流用する形では、対象として認められにくくなります。
複数の補助金を同時に使えますか
同じ経費に対して国の複数の補助金を重ねて受けることはできません。ただし、投資の中身を切り分けて、機器は一方の制度、別の取組はもう一方の制度、という組み立てが可能な場合もあります。線引きは公募要領と事務局の判断によるため、計画段階で確認しておくことをおすすめします。
採択されれば必ず補助金を受け取れますか
採択は補助金の受給が確定した状態ではありません。交付申請と交付決定、事業実施、実績報告、確定検査を経て支払われます。また、賃上げや労働生産性の目標が未達の場合、制度によっては減額や返還の対象になります。採択後の報告義務まで含めて実行できるかを、申請前に見積もっておく必要があります。
まとめ
遠隔臨場システムの導入に使える可能性がある補助金は、中小企業省力化投資補助金(一般型)、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)、小規模事業者持続化補助金、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 革新的新製品・サービス枠の4つです。どれを選ぶかは、機器中心か、ソフト・クラウド中心か、事業規模はどうか、外販の構想があるかで変わります。
そして共通してつまずきやすいのが、カメラを単体で買ってしまうこと、交付決定前に発注してしまうこと、削減効果を数字にしないまま計画を書いてしまうことの3点です。いずれも投資の中身そのものではなく、組み立て方と手順の問題なので、着手前に整理しておけば避けられます。
制度の内容や公募スケジュールは改定されることがあります。本記事の情報は2026年8月時点のものですので、実際の申請にあたっては最新の公募要領で要件をご確認ください。
【無料相談のご案内】
弊社では、補助金専門行政書士法人V-Spiritsが補助金支援を行っております。元補助金審査員の三浦を中心とした各種専門家チームが全面的にサポートいたします。このケースは補助金の対象になるのか?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。無料相談も行っているので、ぜひいちどご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
三浦高/Takashi Miura
元創業補助金(経済産業省系補助金)審査員・事務局員
中小企業診断士、起業コンサルタント®、
1級販売士、宅地建物取引主任者、
融資・資金調達コンサルタント
行政書士法人V-Spirits 補助者
産業能率大学 兼任教員
2024年現在、各種補助金の累計支援件数は300件を超える。
融資申請のノウハウも蓄積し、さらに磨きを掛けるべく日々事業計画書に向き合っている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























