
「求人を出して2ヶ月。応募がゼロのまま繁忙期が来てしまった」
「採用できたと思ったら、3ヶ月で退職。また1からやり直し」
こうした状況に心当たりがある税理士事務所・会計事務所の経営者・採用担当者は、今や珍しくありません。一方で、同じ地域・同じ規模の税理士法人が次々と採用を決めている現実もあります。
この差はどこにあるのか。その答えを見つけるために、私たちは都内の税理士法人・会計事務所5社、口コミ総数約900件(エン カイシャの評判掲載データ)を分析しました。求職者が転職・就職を検討する際に何を見て、何に不満を感じ、どこで入社を決めているか——その本音が、ここに詰まっています。
この記事では、データから明らかになった「採用がうまくいかない本当の理由」と、今日から実践できる具体的な改善策・テンプレートを公開します。
税理士事務所・会計事務所の採用が難しい構造的な理由
まず大前提として知っておくべきことがあります。税理士事務所・会計事務所の採用競合は、もはや近隣の税理士事務所だけではないという事実です。
EYやPwCといったBig4税理士法人が「フルフレックス・週2〜3日出社・年収1,000万円超」という条件で資格保有者の獲得を積極化させています。また、一般事業会社の経理・税務ポジション、さらには税務クラウド系のIT企業も同じ人材を狙っています。
もう一つ重要な変化があります。求職者の情報収集力の劇的な向上です。転職口コミプラットフォームが充実した現在、求職者は応募前に残業時間・リモートワークの実態・上司の人柄・資格取得支援の有無まで徹底的に調べます。求人票に書かれていないことも、在職者・退職者の口コミからすべて見えてしまう時代になっています。
つまり、採用がうまくいかない事務所に共通する問題は「良い職場なのに伝わっていない」か「伝わっているが期待に応えられていない」かのどちらかです。以下では、具体的に何が原因になっているかを口コミデータから掘り下げます。
採用がうまくいかない5つの原因と今日からできる対策
原因1:評価制度が「ブラックボックス」になっている
口コミデータで最も多く言及されたのが、評価・昇給の不透明さです。
- 「実力主義と言いながら、実際は勤続年数で昇格が決まる」
- 「昇給するかどうか、基準が全くわからない」
- 「評価フィードバックがなく、なぜ昇給したのかわからない」
こうした声が、口コミ全体を通じて繰り返し現れます。求職者は給与の高低より「なぜこの金額なのか」が見える仕組みを強く求めています。
一方で高評価を得ている事務所の特徴は明確です。顧問先紹介・リファラル採用・法人保険提案などに連動したインセンティブ制度を持ち、その基準を明文化している事務所は、「頑張れば報われる」という信頼感から口コミ評価が高く、採用にも強い傾向があります。
✅ 対策:昇給の基準を言語化して求人票・面接で開示する
昇給の決め方を言語化するだけで、求職者の「この事務所は信頼できそう」という感覚が大きく変わります。以下はシンプルな評価基準の開示例です。
【評価制度の記載例(求人票・採用ページ用)】
■ 給与・昇給制度
基本給:月○○万円〜(スキル・経験により決定)
賞与:年2回(7月・12月)/業績に応じ月1〜3ヶ月分
昇給:年1回(4月)
【昇給の基準(3要素で評価)】
① 担当顧問先の満足度・継続率
② 担当件数・難易度
③ 税理士科目合格数・関連資格の取得状況
【モデル年収】
入社1年目:○○○万円(アシスタント)
入社3年目:○○○万円(担当者・税理士試験2科目合格)
入社5年目:○○○万円(担当者・税理士登録後)
面接でも「昇給の判断はこの3つで評価しています。昨年は平均○万円の昇給でした」と具体的に話すことで、候補者の信頼と入社意向が高まります。
原因2:働き方の「実態」が求人票から伝わっていない
求職者が最も気にする情報のひとつが「残業とリモートワークの実態」です。しかし多くの税理士事務所の求人票は、この点が曖昧なまま記載されています。
口コミデータで目立ったのは「制度と実態のギャップ」への不満です。
- 「フレックスタイム制とあったが、実態は出退勤を1時間ずらすだけ」
- 「リモート可と書いてあったが、入社後に聞いたら繁忙期は禁止だった」
- 「残業ほとんどなしと言われたが、12月〜3月は毎日終電」
これらのギャップが退職理由になり、口コミに書かれ、次の求職者が応募を見送る——という負のサイクルを生みます。逆に評価が高い事務所の共通点は「繁忙期と閑散期を分けて正直に記載している」ことです。
✅ 対策:繁忙期・閑散期を分けた「実態記載」を求人票に入れる
【働き方の実態記載例(求人票用)】
【通常期(7〜11月)】
定時:9:00〜18:00
平均残業:月10〜15時間
リモートワーク:週2日まで可
【繁忙期(12〜6月、特に1〜3月が集中)】
定時:9:00〜19:00(変形労働制)
平均残業:月30〜40時間
土曜出勤:月1〜2回(代休取得可)
リモートワーク:週1日まで
【有給休暇】
取得率:○○%(昨年度実績)
繁忙期(2〜3月)は取得制限あり
「正直に書いたら応募が減るのでは」と心配する方もいますが、実態と合った情報開示は早期退職の防止と口コミ評価の向上に直結します。実態に合う人が応募してくるため、採用の質と定着率が上がります。
原因3:「資格取得支援」が言葉だけになっている
税理士法人・会計事務所の求人票には「資格取得支援あり」「勉強との両立可能」という記載が頻繁に登場します。しかし求職者は、この言葉をほぼ信用していません。
口コミデータからは、以下のような声が確認されています。
- 「資格取得支援制度はあるが、繁忙期は残業が多く勉強時間が取れない」
- 「研修は業務時間外の扱いで、実質的に自己負担」
- 「合格しても昇給につながらなかった」
一方で成長環境として高い評価を得ている事務所の特徴は、支援制度の具体性と実績の開示です。「専門学校費用補助あり」「社内試験で優秀者を評価」「科目合格で昇給○万円」など数字が示されている事務所は、税理士試験勉強中の求職者から強い支持を受けています。
✅ 対策:資格取得支援の「中身」を具体的に記載する
【資格取得支援の記載例(求人票・採用ページ用)】
税理士試験受験者向けの支援
・専門学校費用補助:年間○○万円まで(TACまたは大原)
・試験直前期(8月):残業免除制度あり
・試験休暇:年2日(有給とは別途)
昇給への反映
・科目合格1科目:月○,○○○円加算
・5科目合格(税理士登録):月○○,○○○円加算
・科目合格者数(昨年度):○名
社内勉強環境
・毎週月曜:税務勉強会(30分、業務時間内)
・法改正速報:随時Slackで共有
「昨年度の科目合格者数○名」という実績の一言が、他事務所との大きな差別化になります。
原因4:「どんな職場か」がまったく見えない
求職者が応募前に最も知りたいのは「この事務所で実際に働いている人はどんな人で、どんな雰囲気か」です。しかし税理士事務所の採用ページや求人票は、業務内容の羅列に終始しているケースがほとんどです。
口コミデータで「職場の雰囲気」に関する批判として多かったのは「個人主義でチームとして機能していない」「入社前に聞いていたことと全然違った」「誰に相談すればいいか、入ってみないとわからなかった」という声です。逆に評価が高い事務所はコミュニティの具体的なイメージを先に伝えていることが共通しています。
✅ 対策:採用ページに「人の情報」を3つ追加する
① スタッフプロフィール(簡易版でOK)
田中 ○○(入社4年目・税理士試験2科目合格)
前職:一般企業の経理担当。未経験でこの事務所に入社。
担当業務:中小企業の月次決算・申告補助
一言:「繁忙期は大変だけど、先輩にすぐ聞けるのが助かってます」
② 1日の仕事の流れ(繁忙期・閑散期どちらも)
繁忙期と閑散期の1日スケジュールを並べて掲載。正直に違いを見せることが信頼感を生みます。
③ 面談・コミュニケーションの仕組み
「月1回の1on1面談あり」「入社後3ヶ月は週1でメンターと確認」など、入社後の不安を解消する情報を明記します。
原因5:女性が「長期で働けるか」が見えない
税理士事務所・会計事務所の求職者の半数以上は女性です。しかし多くの事務所の採用情報は「産休・育休制度あり」の一行で済まされており、それだけでは現在の求職者には響きません。
口コミデータで女性の評価が高かった事務所に共通するのは「実績」の開示です。「育休後に復帰した女性先輩の存在」「担当者として活躍する女性の存在」「時短でも担当を持ち続けられた事例」が具体的に示されているかどうかが分岐点になっています。
✅ 対策:数字と事例で女性キャリアを可視化する
【女性活躍情報の記載例(採用ページ用)】
■ 女性スタッフの活躍状況(○年度実績)
スタッフ全体に占める女性比率:○○%
担当者(顧問先を持つポジション)の女性比率:○○%
育休取得者数:○名(昨年度)
育休後職場復帰率:○○% 時短勤務利用中のスタッフ:○名
「子供が2歳のとき復帰しました。現在は時短(15:30退社)で担当顧問先8社を持っています。繁忙期の残業は旦那と交代して乗り切っています」(在籍6年目)
採用に強い税理士事務所がやっていること——チェックリスト
自社の求人票・採用ページと照らし合わせてみてください。
【求人票チェックリスト】
☐ 昇給の基準(何をすれば上がるか)を文字で記載している
☐ モデル年収を在籍年数・資格取得状況別に記載している
☐ 残業時間を繁忙期・閑散期に分けて記載している
☐ リモートワークの頻度と条件(適用される時期・職種)を明記している
☐ 資格取得支援の具体的な内容と実績(合格者数)を記載している
☐ 産休・育休の取得率・復帰率の実績を数字で示している
☐ スタッフの顔・声が採用ページに掲載されている
☐ 繁忙期と閑散期の違いを正直に説明している
8項目中5項目以上に✅がついていれば、採用の土台は整っています。3項目以下の場合、採用がうまくいかない構造的な原因が求人票にある可能性が高いです。
チェックが3つ以下だった事務所へ
どの項目から優先して改善すべきか、採用コンサルタントが無料で診断します。
「わかってはいるが、実行できない」の壁
ここまで読んで「なるほど、やってみよう」と思ったとしても、実際に動き始めると壁に直面します。
評価基準の言語化には、所長や代表者が「自分の評価の考え方」を棚卸しして文字にする作業が必要です。多くの事務所で「暗黙知」になっているこの部分は、半日〜1日かけても言語化しきれないケースがあります。
求人票の改善は書き直すだけで1〜2時間かかり、掲載先の設定・運用まで含めると片手間では進みません。
採用ページへの在職者インタビュー追加は、社内調整・撮影・ライティングを含めると早くても2〜3週間かかります。
さらに、採用がうまくいったとしても「入社後に早期退職される」問題は、求人票とは別の対策(入社後フォロー・評価フィードバックの仕組み・OJT設計)が必要です。
採用・定着の課題を一気に解決したい事務所へ
V-Spiritsでは、税理士事務所・会計事務所の
採用から定着まで一貫してサポートするコンサルティングを提供しています。
全国2,000社超の支援実績 / 税理士・社労士・行政書士がワンチームで対応
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よくある質問
Q. 税理士事務所の採用がうまくいかない一番の原因は何ですか?
口コミデータの分析では「評価基準の不透明さ」「働き方の実態と求人票のギャップ」の2つが最も多く退職・応募見送りの理由として挙げられています。求職者は入社前に口コミサイトで徹底的に調べるため、求人票と実態が一致していない事務所は応募段階で脱落します。
Q. リモートワークを導入していない事務所は採用で不利ですか?
完全に不利とは言えませんが、現状では不利な要因になっています。完全リモートでなくとも「閑散期は週2回在宅可」などの柔軟性を示すだけで印象が大きく変わります。リモートができない場合は「その理由と、代わりに何を提供するか」を明確に伝えることが重要です。
Q. 採用しても3ヶ月以内に辞めてしまいます。採用の問題ですか?定着の問題ですか?
両方です。入社後3ヶ月以内の退職の主な原因は「期待と現実のギャップ」と「入社後のフォロー不足」に分かれます。前者は求人票の実態開示で改善でき、後者は入社後の1on1面談・OJT設計・評価フィードバックの仕組みで改善できます。
Q. 求人票を改善するだけで採用が変わりますか?
求人票の改善だけで応募数が増えるケースは多いですが、採用数・定着率を根本的に改善するには、面接の設計・入社後のフォロー体制まで含めた見直しが必要です。求人票はあくまで「接触の入口」であり、採用活動全体の設計が重要です。
Q. 小規模(スタッフ3〜5名)の税理士事務所でも採用できますか?
できます。むしろ少人数事務所ならではの「早く担当を持てる」「所長との距離が近い」「幅広い業務を経験できる」という強みは、大手税理士法人にはない訴求軸です。これを言語化して伝えられている事務所は、規模が小さくても採用に強い傾向があります。
本記事の分析は、エン カイシャの評判(https://en-hyouban.com/)に掲載された都内税理士法人・会計事務所 5社、口コミ総数約900件のデータをもとに作成しています(分析実施:2026年4月)。各事務所の現状を保証するものではありません。
この記事を書いた人
坂井 優介(Yusuke Sakai)
起業コンサルタント® / 採用定着士 / 行政書士法人V-Spirits 補助者
1988年東京都生まれ。転勤族の父の影響で幼少期を愛知・長野・岩手・埼玉で過ごす。転入するたびに方言や文化の違いをからかわれつつも、1週間もあれば現地に溶け込む適応力を身につける。
大学在学中に公認会計士試験にチャレンジするも挫折し、アルバイト先だった埼玉の大手学習塾に就職。塾業界特有の過酷な労働環境の中でも10年間勤務を続けるが、成果を上げても給与が変わらない状況に限界を感じ、在職中に会計士試験に再挑戦。再び挫折するも、学んだ会計知識を活かせる職場を求めて転職活動を開始。2021年にV-Spiritsグループに参画し、2022年よりV-Spirits総合研究所の常務取締役に就任。
現在は、中小企業の経営者向けに補助金・助成金の支援から採用定着の仕組みづくりまで幅広く担当。「制度を使いこなす中小企業を増やす」をテーマに、現場に寄り添ったサポートを行っている。
役職:V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役 / 税理士法人V-Spirits 業務部長 / 社会保険労務士法人V-Spirits 業務部長
担当業務:経済産業省系補助金支援・厚生労働省系助成金支援・マーケティング・人事労務・採用定着支援
この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
起業コンサルタント(R)、経営コンサルタント、税理士、特定社会保険労務士、行政書士、サーティファイドファイナンシャルプランナー・CFP(R)、1 級FP技能士。大正大学招聘教授(起業論、ゼミ等)
V-Spiritsグループ創業者。税理士法人V-Spiritsグループ代表。東京池袋を本拠に全国の起業家・経営者さんを応援!「ベストセラー起業本」の著者。著書20冊、累計25万部超。経済産業省後援「DREAMGATE」で12年連続相談件数日本一。
【まるごと起業支援(R)・経営支援】
起業コンサル(事業計画+融資+補助金+会社設立支援)+起業後の総合サポート(経理 税務 事業計画書 融資 補助金 助成金 人事 給与計算 社会保険 法務 許認可 公庫連携 認定支援機関)など
【略歴】
経営者である父の元に生まれ、幼き頃より経営者になることを目標として過ごす。バブル崩壊の影響を受け経営が悪化。一家離散に近い貧困状況を経験し、「経営者の支援」をライフワークとしたいと決意。それに役立ちそうな各種資格を学生時代を中心に取得。同じく経営者であるメンターの伯父より、単に書類や手続を追求する専門家としてではなく、視野を広げ「ビジネス」の現場での経験を元に経営者の「経営そのもの」を支援できるような専門家を目指すようアドバイスを受け、社会人生活をスタート。大手、中小、ベンチャー企業、会計事務所等で営業、経理、財務、人事、総務、管理職、経営陣等、ビジネスの「現場」での充実した修行の日々を送ったあと、2007年に独立。ほかにはない支援スタイルが起業家・経営者に受け入れられ、経済産業省「DREAM GATE」にて、面談相談12年連続日本一。補助金・助成金支援実績600件超。ベストセラー含む起業・経営本20冊を出版。累計25万部超。無料相談件数は全国から累計3000件を超す。




























