
フランチャイズ加盟後に後悔しないための事業計画書の作り方
「本部がモデルケースをくれるから、自分で事業計画書を作る必要はない」――フランチャイズ加盟を検討している方からよく聞く言葉です。ですが、これは大きな誤解です。本部が出してくる収益モデルは販促資料であり、あなたの店舗・あなたの立地・あなたの自己資金状況に合った計画ではありません。加盟金を払ったあとに「思っていたのと違った」と気づいても、契約は戻りません。
この記事では、起業直後の個人事業主や中小企業経営者がフランチャイズ加盟前に自分で作るべき事業計画書の構成と、後悔しないための数字の置き方を整理します。
なぜフランチャイズでも自分の事業計画書が必要なのか
フランチャイズ加盟は「他人のビジネスモデルに乗る」だけのものではありません。加盟するのも、借入をするのも、店舗を運営するのも、すべてあなた自身です。本部のサポートは受けられますが、赤字になっても本部が補填してくれるわけではありません。
事業計画書を自分で作る目的は3つあります。
- 加盟判断のため。本部のモデルケースを自分の立地・自己資金・働き方に置き換えて計算し、現実的に成り立つかを判断するためです。
- 融資審査のため。日本政策金融公庫や信用金庫から開業資金を借りる場合、事業計画書の提出が必須です。本部の資料をそのまま出しても審査は通りません。
- 開業後の運営の指針にするため。計画と実績を比較することで、軌道修正が早くできます。計画書がなければ「うまくいっているのか、いっていないのか」の判断もつきません。
本部モデルケースを「自分の数字」に置き換える
本部資料の「年商1,000万円・営業利益200万円」というモデルは、ある条件下での平均または上位店の数字です。あなたの店舗の数字を作るには、次の作業が必要です。
- ・立地条件:本部モデルの想定立地(駅前一等地、ロードサイド、住宅街など)と、あなたが出店する立地の差を、客数・客単価で調整する。
- ・初期投資:自分の店舗面積・内装グレード・設備グレードで、加盟金・保証金・内装工事費・什器・運転資金を再計算する。
- ・人件費:自分が現場に立つか、スタッフを何人雇うか、時給・社員給与・社会保険料を地域実勢で計算する。
- ・家賃:実際に候補となる物件の賃料・共益費・更新料で計算する。
- ・自己資金と借入:自己資金の額、借入額、借入金利、返済期間で月々の返済額を計算する。
この置き換え作業をやらずに本部資料の数字をそのまま信じると、初年度の資金繰りで詰まります。
事業計画書の構成項目
フランチャイズ加盟・融資申請の両方で通用する事業計画書の構成は、おおむね次の通りです。
- 事業の概要
何の事業をするのか、どこで、いつから、誰がやるのか。フランチャイズ加盟であれば、加盟する本部名、業態、店舗所在地、開業時期を明記します。 - 経営者の経歴と動機
自分の職歴、これまでの業務経験、なぜこの事業を選んだのか、なぜこの本部を選んだのか。融資審査では特に重視される項目です。 - 取り扱う商品・サービス
フランチャイズで提供する商品・サービスの内容、価格帯、特徴。本部資料を参考にしつつ、自分の言葉で書きます。 - 市場・競合分析
出店エリアの人口動態、競合店舗の有無、立地の特性。本部が立地調査を行っている場合は、その内容を踏まえます。 - 売上計画
月別・年別の売上計画。客数×客単価×営業日数で算出します。最低でも初年度(月別)と2〜3年目(年別)を作ります。 - 損益計画
売上から原価・人件費・家賃・水道光熱費・ロイヤリティ・販促費・減価償却費を引いて、営業利益を出します。 - 資金繰り計画
月別の現金の入出金。売上は2〜3ヶ月後の入金、仕入は月末締め翌月払いなど、実際のキャッシュフローで計算します。借入返済もここに入ります。 - 開業資金と資金調達計画
加盟金、保証金、内装工事費、什器、運転資金などの内訳と、自己資金・借入の配分。
売上計画の作り方
売上計画はもっとも数字を盛りやすい項目です。次の手順で根拠を持って作ります。
- ステップ1:客単価を決める
本部メニューの価格構成と、想定客層の購入パターンから1回あたりの客単価を出します。 - ステップ2:1日の客数を見積もる
本部から提供される業態別の標準客数、近隣同業態の客入り観察、商圏人口、競合店の状況から推計します。「希望」ではなく「観察」で数字を作ります。 - ステップ3:営業日数を確定する
定休日、年末年始、繁忙閑散の差を考慮します。 - ステップ4:3つのシナリオを作る
最も重要なのが、保守・標準・楽観の3シナリオを作ることです。本部資料の数字は「楽観」または「標準」レベルです。「保守」シナリオでも資金繰りが回るかを確認してください。
損益計画で必ず入れるべき項目
漏れがちな費用項目を挙げます。
- ・ロイヤリティ(売上または粗利連動)
- ・本部システム利用料
- ・本部広告分担金、販促費
- ・店舗ローン返済の利息部分
- ・減価償却費(内装・什器)
- ・損害保険料
- ・水道光熱費(業態によって大きく変動)
- ・通信費、消耗品費
- ・銀行振込手数料、決済手数料
- ・税金(事業税、固定資産税、消費税)
これらを抜くと、計画上は黒字なのに実際は赤字、という事態になります。
資金繰り計画は「売上があっても倒産する」を防ぐ
損益計画と資金繰り計画は別物です。会計上の利益が出ていても、入金が遅れて支払いができなければ倒産します。フランチャイズの場合、本部への支払い(仕入代金・ロイヤリティ)は早く、お客様からの入金(特にBtoBや法人取引が混じる業態)は遅いケースが多いです。
最初の3〜6ヶ月は売上が立ち上がらないことを前提に、運転資金を厚めに確保してください。一般に、月の固定費の3〜6ヶ月分を運転資金として手元に持つことが推奨されます。
借入計画は無理のない返済額に収める
開業資金を借りるなら、月々の返済額が営業利益を圧迫しないように設計します。目安として、月々の借入返済額は月間営業利益の3分の1以下に収めるのが安全圏です。
返済期間は長めにとったほうが資金繰りは楽になります。ただし利息総額は増えるので、軌道に乗ったら繰上返済を検討する設計が現実的です。
後悔しないためのストレスシナリオ
事業計画書を作るとき、必ず次の問いに答えてください。
- ・売上が想定の70%しか立たなかったら、何ヶ月生き残れるか
- ・客単価が想定の80%に下がったら、損益はどうなるか
- ・人件費が想定より20%高くなったら、利益は残るか
- ・本部の販促支援が想定より少なかったら、自前で集客できるか
- ・契約期間中に撤退したら、違約金と原状回復費はいくらか
これらに答えられない計画書は、希望的観測の集まりです。最悪シナリオを織り込んでも続けられる、と納得できて初めて加盟判断ができます。
事業計画書を融資審査で通すコツ
日本政策金融公庫や信用金庫の融資審査では、事業計画書と面談で次の点が見られます。
- ・経営者の業界経験や類似事業の経験
- ・自己資金の準備度合い(目安:開業資金の3割程度)
- ・売上計画の根拠の具体性
- ・本部のサポート内容の理解度
- ・返済財源(営業利益)の安定性
特に「なぜこの本部を選んだのか」「自分は何を強みに勝負するのか」を自分の言葉で語れることが重要です。本部の資料を読み上げるだけでは審査担当者の心は動きません。
まとめ:事業計画書は「加盟してよいか」を自分に問う作業
フランチャイズ加盟は、本部にとっては量産可能なビジネスモデルですが、あなたにとっては一度きりの大きな投資です。本部の資料に書かれた数字を鵜呑みにせず、自分の立地・自己資金・働き方に置き換えた事業計画書を、加盟契約の前に必ず作ってください。
事業計画書は融資審査のための書類であると同時に、「本当にこの加盟は自分にとって合っているのか」を自分に問う作業でもあります。3つのシナリオを作り、ストレスシナリオに耐えられると納得できたとき、初めて加盟金を払う判断が現実的になります。
加盟後に後悔する人の多くは、計画書を作っていないか、本部資料の数字をそのまま使っているかのどちらかです。自分の数字で計画を作る手間を惜しまないことが、加盟後の安定経営につながります。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























