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コラム

飲食店の新事業進出補助金|対象になる条件と選び方をプロが解説

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飲食店が新事業進出補助金の「新規性」判定で見落としがちな条件

複数店舗を運営していると、「セントラルキッチンを作って自社の味を冷凍食品として売り出したい」「新しい業態の店を出したい」といった新業態への進出を考える場面が出てきます。そんなとき候補に挙がるのが、経済産業省系の新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 新事業進出枠です。ただしこの補助金は「新しいことを始めれば何でも対象」という制度ではなく、公募要領上の「新規性」の判定が想像以上に厳しいという特徴があります。この記事では、飲食店が新事業進出枠を使うときに対象になる条件、上限額、他の補助金との使い分け、申請でつまずきやすいポイントまでを実務目線で整理します。数字・要件は公募要領(1.0版・令和8年6月)にもとづく執筆時点の情報のため、実際の申請前には必ず最新の公募要領を確認してください。

新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 新事業進出枠とは

2026年度(令和8年度)から、これまで別制度だった「ものづくり補助金」と「新事業進出補助金」が統合され、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金という1つの制度になりました。このうち「新事業進出枠」は、既存事業とは異なる新しい市場・高付加価値な事業へ進出する取り組みを支援する枠です。飲食店であれば、店舗運営とは別に食品製造業(冷凍食品・惣菜の卸売など)へ進出するようなケースが典型的な想定にあたります。

飲食店が対象になるための「新規性」の判定基準

この枠でもっとも見落とされがちなのが、「新規性」の判定基準です。公募要領では、新たに製造・提供する製品等が申請者にとって新規性を持ち、かつその市場が申請者にとって新たな市場であることが求められます。日本初・世界初である必要はありませんが、「自社にとって初めてか」がシビアに見られます。

特に次のようなケースは、新規性が無いと判断されて対象外になりやすい典型例です。

  • 既存メニューに新メニューを追加しただけ(同一事業の延長)
  • 単に商圏(出店エリア)が違うだけの多店舗展開
  • 既存の調理方法・提供方法を少し変えただけの改良

「新しい取り組み」であることと、「新規性の要件を満たす新事業」であることは別物です。冷凍食品事業やセントラルキッチンを核とした食品製造業への進出のように、既存の飲食店運営とは異なる市場・顧客層に踏み出す設計になっているかどうかが、採択の分かれ目になります。

補助上限額・補助率

新事業進出枠の補助上限額は、従業員規模によって次のように区分されています(金額はいずれも大幅賃上げ特例を適用しない場合の通常上限です)。

  • 従業員1〜20人:上限2,500万円
  • 従業員21〜50人:上限4,000万円
  • 従業員51〜100人:上限5,500万円
  • 従業員101人以上:上限7,000万円

給与支給総額を年平均+6.0%以上、事業場内最低賃金を地域別最低賃金+50円以上引き上げる「大幅賃上げ特例」を満たすと、それぞれ3,000万円・5,000万円・7,000万円・最大9,000万円まで上限が引き上がります。よく「新事業進出補助金は上限9,000万円」と紹介されますが、これは最大規模の企業が大幅賃上げ特例まで満たした場合の最大値であり、無条件の上限ではありません。補助下限額は750万円で、補助率は中小企業者1/2(地域別最低賃金引上げ特例適用時は2/3)です。

対象経費と対象外の線引き

新事業進出枠では、機械装置・システム構築費、または建物費のいずれかが必須経費になります。セントラルキッチンの厨房設備や急速冷凍機、包装ラインなどの導入費がこれにあたります。加えて技術導入費・知的財産権関連経費(各1/3上限)、外注費(1/4上限)、専門家経費(1/5上限・1日1人5万円)、運搬費やクラウドサービス利用費、原材料費、広告宣伝・販売促進費なども対象になり得ます。

一方で、建物の単純な購入・賃貸そのものや、既存事業の増産・再製造だけを目的にした投資、交付決定前に発注・契約・購入してしまった経費は対象外です。「先に設備を発注してから補助金を探す」という順番は事故のもとになるため、必ず交付決定を待ってから動く必要があります。

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持続化補助金・省力化投資補助金(一般型)との使い分け

新事業進出枠は投資規模が大きく、審査のハードルも相応に高い制度です。飲食店の取り組み内容によっては、次のような別の補助金の方が実情に合うこともあります。

  • 小規模事業者持続化補助金(上限250万円、特例適用時):新業態の立ち上げというより、既存店の販路開拓(新メニューのPR・Web集客・チラシなど)が中心の場合に向きます。商工会・商工会議所の伴走支援が前提になる点も特徴です。
  • 中小企業省力化投資補助金(一般型)(上限1億円):新しい市場に出るのではなく、既存店舗の人手不足解消・工程の自動化が主目的の場合はこちらが筋になりやすい制度です。労働生産性を年平均+4.0%以上伸ばす計画が必要です。
  • 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 新事業進出枠:既存の飲食店運営とは異なる新市場・新事業(食品製造業への進出など)に踏み出す場合に検討します。

「やりたいことが販路開拓なのか、省力化なのか、新事業への進出なのか」を先に整理してから制度を選ぶと、計画に無理が出にくくなります。

申請の流れとスケジュール

2026年度第1回公募は、公募開始2026年6月29日、申請受付は2026年8月31日から、締切は2026年9月30日18時、採択発表は2026年12月頃が目安とされています(電子申請システムを利用し、GビズIDプライムの取得が必要です)。事業計画は原則として申請者自身が作成する必要があり、外部への丸投げは不採択・交付取消の対象になり得るとされています。公募回ごとにスケジュール・要件が変わるため、申請時は必ず最新の公募要領で確認してください。

飲食店が申請でつまずきやすいポイント

1. 創業1年未満の店舗は対象外
新規に設立・開業したばかりで決算を1期終えていない事業者は、新事業進出枠の対象外とされています。1号店の実績を積んでから新業態に進出する、という順番を前提に計画する必要があります。

2. 交付決定前に発注・契約してしまう
採択の通知と交付決定は別物です。厨房機器や冷凍設備を「採択されたから」とすぐ発注すると、その分の経費が対象外になることがあります。

3. 補助金は後払い(精算払い)
いったん全額を自己資金や借入で支払い、事業完了後の実績報告を経てから補助分が入金される流れです。現金商売の飲食店ほど、つなぎ資金の準備を怠ると資金繰りが苦しくなります。補助金と合わせて創業融資や制度融資を組み合わせて資金計画を立てる店舗も少なくありません。

4. 補助金の税務処理は税理士に確認する
受け取った補助金は会計・税務上の取り扱いが必要になりますが、具体的な処理は事業の状況によって異なるため、詳細は税理士に相談するのが安全です。

よくある質問(FAQ)

Q. 1店舗しか運営していない個人経営の飲食店でも申請できますか?

企業規模の要件を満たしていれば申請自体は可能です。ただし新規性の判定基準や、決算を1期終えている必要がある点は個人事業主でも変わりません。

Q. 新事業進出枠と持続化補助金はどちらが採択されやすいですか?

採択率は公募回や計画内容によって変わるため一概には言えません。取り組みの規模・内容と制度の趣旨が合っているかどうかが、採択率よりも先に確認すべき点です。

Q. セントラルキッチンの建物取得費も対象になりますか?

新事業進出枠では建物費も必須経費の対象になり得ますが、建物の単純購入・賃貸そのものは対象外とされています。どこまでが対象になるかは計画内容によって変わるため、公募要領の該当箇所を必ず確認してください。

まとめ

飲食店が新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 新事業進出枠を活用するうえでは、「新しい取り組みかどうか」ではなく「自社にとって新規性のある新市場への進出かどうか」という厳しい判定基準をクリアできるかが最初の関門になります。上限額は最大9,000万円まで引き上がりますが、これは大幅賃上げ特例まで満たした最大規模企業の数字であり、自店の規模でどこまで見込めるかは別途確認が必要です。持続化補助金・省力化投資補助金との使い分けを整理したうえで、創業1年未満は対象外であること、交付決定前の発注はできないこと、後払いに備えた資金繰りが必要であることを踏まえて計画を進めましょう。制度選びや事業計画の作り込みに迷ったら、早めに専門家へ相談しながら準備することをおすすめします。

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三浦高

この記事を書いた人

三浦高/Takashi Miura

元創業補助金(経済産業省系補助金)審査員・事務局員
中小企業診断士、起業コンサルタント®、
1級販売士、宅地建物取引主任者、
融資・資金調達コンサルタント
行政書士法人V-Spirits 補助者

産業能率大学 兼任教員
2024年現在、各種補助金の累計支援件数は300件を超える。

融資申請のノウハウも蓄積し、さらに磨きを掛けるべく日々事業計画書に向き合っている。

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この記事を監修した人


中野裕哲

中野裕哲/Nakano Hiroaki

税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授

税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。

経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。

【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。

中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。

【主な実績】

  • 起業支援・経営支援の豊富な実績
  • 起業相談件数3,000件以上
  • 資金調達支援1000件以上
  • 大企業Webサイト多数監修
  • 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)

V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。

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