
人材定着率を上げるために経営者がすべき環境整備と施策の優先順位
「採用してもすぐに辞めてしまう」「定着率が低く、常に人手不足のまま」――中小企業の経営者にとって、人材定着は売上や資金繰りと並ぶ経営課題です。
この記事では、人材定着率を上げるために経営者が優先的に取り組むべき環境整備と具体施策を、優先順位を付けて解説します。限られたリソースの中で何から着手すべきかを整理し、従業員が安心して働き続けられる組織づくりのヒントをお伝えします。
人材定着率が低い中小企業に共通する課題
中小企業庁の調査によると、中小企業では大企業に比べて離職率が高い傾向が続いています。その背景には、いくつかの構造的な課題があります。
まず「待遇面の不満」です。同業他社や大企業と比較して給与・賞与が見劣りする場合、従業員は転職を考えやすくなります。中小企業では人件費の原資が限られるため、賃金だけで大企業と張り合うのは現実的でないケースも多くあります。
次に「キャリアの見通しが立たない」ことです。評価制度が不明確で、昇給や昇進の基準が属人的な企業では、従業員は将来のビジョンを描きにくくなります。
そして「人間関係・コミュニケーション不全」です。少人数の職場ほど上司との関係が仕事の満足度を大きく左右します。相談しにくい雰囲気や、フィードバックがない環境は、離職の直接的な引き金になります。
これらの課題は、経営者が意識的に環境を整備しなければ自然には改善されません。次章では、具体的にどこから手を付けるべきかを見ていきます。
経営者が最初に取り組むべき環境整備
賃金・待遇の競合リサーチと見直し
定着率改善の第一歩は、自社の賃金・待遇が同業他社と比べてどの水準にあるかを客観的に把握することです。「うちは中小だから仕方ない」と思い込んでいるケースでも、求人媒体の募集条件や地域の賃金データと比較すると、微調整で改善できるポイントが見つかることがあります。
基本給だけでなく、通勤手当、住宅手当、資格手当、福利厚生(休暇制度・時短勤務など)を含めた総合的な待遇パッケージとして見直してください。賃金を大幅に上げなくても、福利厚生の充実で従業員満足度が上がることは珍しくありません。
長時間労働の是正と休暇制度の整備
慢性的な長時間労働や休暇が取りにくい環境は、従業員の心身を消耗させ、離職の主因になります。経営者がまず行うべきは、実態の把握です。勤怠データをもとに部署別・時期別の残業時間を可視化し、業務の偏りがないかを確認します。
業務プロセスの見直しやITツールの導入で削減できる残業は意外と多いものです。「休みが取りやすい」という評判が社内に広がるだけで、定着率は目に見えて改善する場合があります。
社内コミュニケーションの仕組み化
「うちは少人数だからコミュニケーションは取れている」と考える経営者は少なくありません。しかし実際には、業務連絡はあっても本音で話せる場がなく、不満が蓄積しているケースが多くあります。
定期的な1on1ミーティング、匿名のアンケート調査、月次のチームミーティングなど、仕組みとして対話の機会をつくることが大切です。特に1on1は、上司と部下が15〜30分程度で業務上の悩みやキャリアの希望を共有する場として、中小企業でも導入しやすい施策です。
こうした施策を「何から始めるべきか」「どのように仕組みに落とし込むか」を社外の専門家と一緒に整理するのも有効な手段です。
採用・定着の戦略と仕組みづくりをまるごとサポート
V-Spiritsの採用定着支援サービスでは、給与・条件の競合リサーチ、求人原稿の改善、応募後24時間以内の初動対応など、採用がうまくいく会社が実践している型を全国2,000社超の支援実績をもとに採用定着士が伴走で組み立てます。「なぜ採れないのか」「なぜ辞めるのか」を現場目線で診断し、5ステップで仕組み化します。
定着率を上げるための具体施策と優先順位
環境整備の土台が固まったら、次は定着率を直接改善する施策に取り組みます。以下の順番で着手するのが効率的です。
優先度1:オンボーディング体制の整備
入社後3か月間が定着の勝負期間です。この時期に「放置された」と感じた社員は、早期離職に直結します。
入社初日の歓迎体制、業務マニュアルの整備、メンター(相談役)の配置、1週間・1か月・3か月の面談スケジュールなど、入社直後のフォロー体制を仕組みとして用意してください。
オンボーディングは「やったほうがいい」ではなく、定着率を左右する最重要施策です。現在フォロー体制が整っていないなら、最優先で取り組む価値があります。
優先度2:評価制度とキャリアパスの明確化
「頑張っても評価されない」「何をすれば昇給できるのか分からない」という不透明さは、従業員のモチベーションを下げる大きな要因です。
評価制度は大がかりなシステムである必要はありません。まずは「何を評価するか(成果・行動・スキル)」「評価の頻度と方法」「昇給・昇格の基準」を紙1枚にまとめ、全従業員に公開するだけでも効果があります。
キャリアパスについても、「3年後にこういう役割を任せたい」という見通しを上司から言葉にして伝えるだけで、従業員の会社に対する信頼度は変わります。
優先度3:教育研修とスキルアップの機会提供
成長機会がないことは、特に若手社員の離職理由として上位に挙がります。中小企業では研修予算が限られがちですが、外部セミナーへの参加補助、資格取得支援制度、先輩社員による勉強会など、低コストで実施できる施策は多くあります。
「この会社にいれば成長できる」という実感が、待遇面だけでは引き留められない人材の定着につながります。
施策を定着させるための経営者の役割
ビジョンの共有と浸透
制度や仕組みを導入しても、経営者自身が「なぜこの施策をやるのか」「会社がどこに向かっているのか」を語らなければ、形だけで終わってしまいます。
全社ミーティングや朝礼の場を使って、会社の方向性と定着施策の関連を従業員に伝えてください。「人を大切にする会社にしたい」という経営者の意志が言葉として発信されることで、従業員の会社への帰属意識が高まります。
現場の声を拾い続ける仕組み
施策を導入した後こそ、効果測定と改善が重要です。半年に1回の従業員アンケート、退職時のヒアリング(退職面談)、1on1で吸い上げた声の集約など、現場のフィードバックを経営判断に反映させる回路を用意してください。
定着率の改善は一朝一夕では実現しません。四半期ごとに離職率と従業員満足度を確認し、施策の効果が出ているかを検証するサイクルを回すことが大切です。
よくある質問(FAQ)
定着率の計算方法を教えてください
定着率は「一定期間の終了時点で在籍している人数 ÷ 期間開始時点の人数 × 100」で算出します。たとえば年度初めに20人いて年度末に18人残っていれば、定着率は90%です。離職率(100% − 定着率)とセットで把握すると、改善効果を測りやすくなります。
賃上げ以外で効果が大きい施策は何ですか?
オンボーディング体制の整備と1on1ミーティングの導入は、コストをほとんどかけずに効果が出やすい施策です。特に入社3か月以内の早期離職が多い企業では、オンボーディング体制の見直しだけで目に見えた改善が期待できます。
従業員数10人以下の企業でもできる施策はありますか?
あります。むしろ少人数だからこそ、経営者と従業員の距離が近く、施策の効果が浸透しやすいのが強みです。月1回の1on1、半年に1回の評価面談、入社時のオンボーディングチェックリストの3つだけでも、定着率の改善に十分な効果があります。
外部の専門家に相談するメリットは何ですか?
社内だけでは「何が課題なのか分からない」「施策を始めても続かない」というケースが多くあります。採用定着に特化した専門家は、他社の成功事例やデータに基づいて優先順位を提案できるため、限られたリソースを最も効果の高い施策に集中させることができます。
まとめ
人材定着率を上げるために経営者がすべきことは、大きく分けて「環境整備」と「具体施策の実行」の2つです。
まずは賃金・待遇の客観的な把握、長時間労働の是正、コミュニケーションの仕組み化といった土台を固めたうえで、オンボーディング体制、評価制度、教育研修の順に施策を導入していくのが効率的な進め方です。
施策を形だけで終わらせないためには、経営者自身がビジョンを語り、現場の声をフィードバックとして拾い続ける姿勢が欠かせません。自社だけでの取り組みに限界を感じたら、採用定着の専門家に相談することも選択肢の一つです。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
起業コンサルタント(R)、経営コンサルタント、税理士、特定社会保険労務士、行政書士、サーティファイドファイナンシャルプランナー・CFP(R)、1 級FP技能士。大正大学招聘教授(起業論、ゼミ等)
V-Spiritsグループ創業者。税理士法人V-Spiritsグループ代表。東京池袋を本拠に全国の起業家・経営者さんを応援!「ベストセラー起業本」の著者。著書20冊、累計25万部超。経済産業省後援「DREAMGATE」で12年連続相談件数日本一。
【まるごと起業支援(R)・経営支援】
起業コンサル(事業計画+融資+補助金+会社設立支援)+起業後の総合サポート(経理 税務 事業計画書 融資 補助金 助成金 人事 給与計算 社会保険 法務 許認可 公庫連携 認定支援機関)など
【略歴】
経営者である父の元に生まれ、幼き頃より経営者になることを目標として過ごす。バブル崩壊の影響を受け経営が悪化。一家離散に近い貧婚状況を経験し、「経営者の支援」をライフワークとしたいと決意。それに役立ちそうな各種資格を学生時代を中心に取得。
同じく経営者であるメンターの伯父より、単に書類や手続を追求する専門家としてではなく、視野を広げ「ビジネス」の現場での経験を元に経営者の「経営そのもの」を支援できるような専門家を目指すようアドバイスを受け、社会人生活をスタート。
大手、中小、ベンチャー企業、会計事務所等で営業、経理、財務、人事、総務、管理職、経営陣等、ビジネスの「現場」での充実した修行の日々を送ったあと、2007年に独立。
ほかにはない支援スタイルが起業家・経営者に受け入れられ、数々の実績を残しています。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。
- 経済産業省「DREAM GATE」にて、面談相談12年連続日本一
- 補助金・助成金支援実績600件超
- ベストセラー含む起業・経営本20冊を出版(累計25万部超)
- 無料相談件数は全国から累計3,000件超
この記事を書いた人
坂井 優介(Yusuke Sakai)
起業コンサルタント® / 採用定着士 / 行政書士法人V-Spirits 補助者
1988年東京都生まれ。転勤族の父の影響で幼少期を愛知・長野・岩手・埼玉で過ごす。転入するたびに方言や文化の違いをからかわれつつも、1週間もあれば現地に溶け込む適応力を身につける。
大学在学中に公認会計士試験にチャレンジするも挫折し、アルバイト先だった埼玉の大手学習塾に就職。塾業界特有の過酷な労働環境の中でも10年間勤務を続けるが、成果を上げても給与が変わらない状況に限界を感じ、在職中に会計士試験に再挑戦。再び挫折するも、学んだ会計知識を活かせる職場を求めて転職活動を開始。2021年にV-Spiritsグループに参画し、2022年よりV-Spirits総合研究所の常務取締役に就任。
現在は、中小企業の経営者向けに補助金・助成金の支援から採用定着の仕組みづくりまで幅広く担当。「制度を使いこなす中小企業を増やす」をテーマに、現場に寄り添ったサポートを行っている。
役職:V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役 / 税理士法人V-Spirits 業務部長 / 社会保険労務士法人V-Spirits 業務部長
担当業務:経済産業省系補助金支援・厚生労働省系助成金支援・マーケティング・人事労務・採用定着支援




























