
学習塾のタブレット・ICT機器は創業融資に含められる?資金使途の分け方から整理します
ICT教材を軸にした学習塾を開こうとすると、タブレットを何台そろえるか、電子黒板を入れるか、学習アプリの月額をどう見積もるかで、資金計画がなかなか固まりません。「教室の内装や物件費は融資の対象になると聞くけれど、タブレットやアプリの費用まで借りられるのだろうか」という疑問は、開業準備でよく出てくるところです。
結論から言えば、ICT機器の購入費は創業融資の資金使途に含められます。ただし、ひとまとめに「ICT導入費」として申請するのは得策ではありません。同じICT関連の支出でも、設備資金として扱われるものと運転資金として見込むものに分かれ、そこで返済期間が変わってくるからです。
この記事では、これから個別指導塾・ICT教材中心の学習塾を開業する個人事業主の方に向けて、ICT関連の費用を資金使途にどう振り分けるか、台数の根拠をどう示すか、開業前に自分で買った機器はどう扱われるかを整理します。なお、制度・金利は変わりやすいため、本記事は2026年8月時点で確認できた情報にもとづいています。申請時は必ず日本政策金融公庫等の公式情報をご確認ください。
ICT関連の費用は3つに分けると資金使途が決まります
創業融資の資金使途は、大きく設備資金と運転資金に分かれます。ICT関連の支出を1行で書かず、次の3つに分けて考えると、どちらに乗せるべきかがはっきりします。
①機器本体(タブレット・電子黒板・PC・プリンター)
形のある機器を購入する費用は、設備資金として整理するのが自然です。生徒用のタブレット、講師用のノートPC、電子黒板やプロジェクター、複合機などがここに入ります。見積書を添えて、台数と単価を明示できる状態にしておきます。
②学習アプリのライセンス料・クラウド利用料・通信費
月額や年額で継続的に発生する支出は、開業後に毎月出ていくランニングコストです。これは設備の購入ではないため、運転資金として見込むのが基本の考え方になります。生徒1人あたりの月額ライセンスであれば、想定生徒数に応じて金額が動く費用として扱います。
③Wi-Fi工事・電源増設・什器の据付
ICT機器を使える教室にするための工事は、内装工事と一体で設備資金に整理されることが一般的です。タブレットを20台同時に充電する電源容量や、無線LANのアクセスポイント設置は、後から追加すると割高になりやすい部分でもあります。開業時の見積に含めておくほうが資金計画は安定します。
なお、資金使途はあくまで「事業に必要な支出」であることが前提です。個別の支出が資金使途として認められるかどうか判断に迷う場合は、申請先や専門家に確認しながら計画を整えることをおすすめします。
設備資金と運転資金では返済期間が変わります
費目を分ける実利は、返済期間の設計にあります。日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金を利用する場合の返済期間は、次のとおり案内されています。
- 設備資金:返済期間20年以内/据置期間5年以内
- 運転資金:返済期間 原則10年以内/据置期間5年以内
たとえばタブレット30台と電子黒板で200万円を借りる場合、これを設備資金として整理できれば、運転資金より長い期間で返済を組める余地があります。逆にICT関連費をすべて「運転資金」でまとめてしまうと、本来長期で返せたはずの機器代まで短い返済期間に押し込まれ、開業直後の月々の返済負担が重くなります。
据置期間は元金の返済を待ってもらえる期間で、据置中は利息のみの支払いです。生徒が集まるまでの数か月をここで吸収する設計ができます。
制度と金利の前提(2026年8月時点)
個人事業主・中小企業の創業時の代表的な選択肢は、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です。融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)で、学習塾の開業規模であれば十分にカバーできる設計になっています。
2026年6月1日現在の基準利率は、創業期(税務申告を2期終えていない時期)に利用する場合で年3.45〜5.15%です。創業期の方が利用する場合は、原則0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)の引下げが適用される可能性がありますが、適用可否は利用する制度や審査・条件により異なるため、必ず下がると考えず申請先で確認してください。元金返済の据置期間は5年以内で設定でき、据置中は利息のみの支払いとなります。
ひとつ注意したいのが、いまも解説記事で見かける「新創業融資制度」です。この制度は2024年3月に廃止されており、現在は各融資制度に無担保・無保証人の枠組みが組み込まれています。また主力制度の名称も、2024年3月までの「新規開業資金」から、2024年4月に「新規開業・スタートアップ支援資金」へ改称・拡充されました。古い制度名で情報を集めていると、要件も金利も現在とかみ合わないので気をつけてください。
台数の根拠をどう示すか
ICT機器で審査上つまずきやすいのは、金額そのものより「なぜその台数なのか」が説明できていないケースです。タブレット30台と書いてあっても、生徒が同時に何人まで入る教室なのかが示されていなければ、根拠のない金額に見えてしまいます。
台数は、次の順序で組み立てると説明しやすくなります。
- 教室の席数を先に決める:坪数とレイアウトから、同時に指導できる最大人数を出します。
- コマ数と稼働を掛ける:同時最大人数がそのまま必要台数の上限になります。全生徒分ではなく、同時稼働ベースで必要数を出すのが基本の考え方です。
- 予備と講師用を上乗せする:故障時の予備、講師用の管理端末を加えます。
- 見積書で単価を裏づける:機種と単価が入った見積書を取得し、申請書の金額と一致させます。
「生徒が増えたら買い足す」という前提であれば、初期に全台数を借りる必要はありません。開業時に必要な最小構成と、増設のタイミングを分けて説明できると、計画としての説得力が上がります。
審査では、事業として創業した実績がなくても、事業計画書と自己資金などをもとに判断されます。ICT機器の台数と金額は、その事業計画書の中で「この教室規模ならこの投資額になる」と筋が通っているかを見られる部分だと考えてください。
開業前に自分で買ったタブレットはどうなりますか
準備段階で先にタブレットや教材ソフトを自費で購入している方は少なくありません。この場合、すでに支払い済みの費用を融資でもう一度借りることはできませんが、別の形で評価される可能性があります。
みなし自己資金になる支出を整理する
創業前に自費で取得した資格・設備や備品の購入・テストマーケティング費用などは、「みなし自己資金」として一定範囲で評価されることがあります。領収書を必ず保管しておきましょう。
自己資金については、制度上の額や割合の要件は決まっていません。一方で自己資金の額は審査の重要な判断材料になりますので、多いほど有利になりやすいという理解で準備を進めてください。自己資金は面談時点で口座に確認できる形にしておきます。
融資で購入するか、リースにするか
タブレットや複合機は、リース契約という選択肢もあります。初期費用を抑えられる点は魅力ですが、比較する際は次のデメリットも踏まえて判断してください。
リースのデメリット
リースには初期費用を抑えられるメリットがある一方で、次のようなデメリットもあります。
- 連帯保証人が必要になる
- 機器の所有権が持てない
- 契約期間中の中途解約が難しい
- 故障時の修理負担が借主側になる契約が多い
融資とリースのどちらが有利かは、資産計上の考え方や資金繰りの状況によっても変わるため、賃貸借費用の負担も含めて税理士や金融機関に相談しながら判断することをおすすめします。
学習塾の場合、タブレットは生徒の使用頻度が高く落下や破損も起こりやすい機器です。中途解約が難しい点と修理負担の所在は、契約前に確認しておきたいところです。
よくある質問
Q. 中古のタブレットを買う場合も融資の対象になりますか
中古品であっても、事業に使う設備の購入であれば見積書を用意して資金使途に含めることを検討できます。ただし個人間売買など見積書や領収書が整えにくい形での購入は、金額の裏づけが取りにくくなります。判断は個別の状況で変わりますので、申請先に確認しながら進めてください。
Q. 学習アプリの初期導入費用も運転資金になりますか
月額のライセンス料や通信費は継続的な支出として運転資金で見込むのが基本ですが、初期導入費用の扱いは契約内容によって変わります。見積書の内訳を「初期費用」と「月額費用」に分けて出してもらうと、資金使途の整理がしやすくなります。
Q. 融資の申込みから実行までどのくらいかかりますか
申請から融資実行までは、書類提出後おおむね3週間〜1か月程度が目安です。創業計画書・自己資金エビデンス・見積書などの書類を整える時間を含めると、申請準備に1か月、審査・実行に1か月、合計2か月程度を見ておくと安全です。機器の納期が長い場合は、そこからさらに逆算して開校日を決めてください。
Q. 借りた機器代の会計処理はどうすればよいですか
設備の購入費をどう会計処理するかは、取得価額や事業年度によって扱いが変わります。個別の処理については税理士にご相談ください。
まとめ
学習塾のタブレット・ICT機器の購入費は、創業融資の資金使途に含めることができます。大切なのは、ICT関連の支出をひとまとめにせず、機器本体(設備資金)/ライセンス・通信費(運転資金)/工事費(設備資金)の3つに分けて整理することです。設備資金は20年以内、運転資金は原則10年以内と返済期間が異なるため、この振り分けが月々の返済負担を左右します。
そのうえで、台数の根拠を教室の席数と同時稼働から積み上げ、見積書の金額と申請額を一致させておけば、計画としての説得力は大きく変わります。開業前に自費で購入した機器がある方は、領収書を保管してみなし自己資金として整理できないか確認してみてください。判断に迷う部分は、申請先や専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























