
起業を考えたらまず損益分岐点|仮のカフェで赤字の境目を手計算
「計画のない目標は、ただの願い事にすぎない」。サン=テグジュペリの言葉とされるこの一文は、起業の話にそのまま当てはまります。「2年後にカフェを開きたい」は目標のようで、いくら売れば成り立つのかが分からなければ、まだ願い事のままです。
そこで役に立つのが損益分岐点です。むずかしそうな名前ですが、中身は「赤字にならない最低ラインの売上」のことです。この記事では、会計の知識がなくても読めるように、仮のカフェの数字で一緒に手計算してみます。電卓があれば、昼休みに終わります。
損益分岐点とは「ちょうどトントンになる売上」のこと
お店のお金の出入りは、2種類に分けると見通しがよくなります。
ひとつは、売れるたびに増えるお金です。コーヒー豆、牛乳、紙コップなどがこれにあたります。もうひとつは、1杯も売れなくても毎月出ていくお金です。家賃、水道光熱費、通信費などが代表です。
売上から「売れるたびに増えるお金」を引くと、1杯あたりの手元に残る額が出ます。この残りで「毎月出ていくお金」を全部まかなえた瞬間が、損益分岐点です。これを超えれば黒字、届かなければ赤字になります。
仮のカフェで手計算してみよう
ここからの数字はすべて、計算のために私が置いた仮の数字です。実在のお店のデータでも、業界の平均でもありません。自分の店を考えるときは、自分の数字に置き換えてください。
仮の条件は次のとおりです。
- コーヒー1杯の値段は600円
- 1杯あたりの材料などは200円
- 毎月出ていくお金は、家賃が15万円、水道光熱費や通信費などが5万円で、合計20万円
- お店を開ける日は月に25日
まず、1杯売るごとに手元に残る額を出します。600円から200円を引いて、400円です。
次に、毎月出ていく20万円を400円で割ります。20万円割る400円で、500杯です。月に500杯売れば、ちょうどトントンになります。
営業日の25日で割ると、1日あたり20杯です。「1日20杯」と聞くと、売上の目標がぐっと現実的な大きさに見えてきます。
足し忘れやすい2つ。毎月の返済と、自分の取り分
先ほどの20杯で安心するのは、まだ早いです。初心者がよく足し忘れる項目が2つあります。
借りたお金の毎月の返済
開業の資金を借りた場合、返済は売上から毎月まかなっていくことになります。仮に毎月の返済を5万円とすると、毎月出ていくお金は25万円になります。25万円割る400円で625杯、1日あたり25杯です。返済を忘れていたときより、1日5杯多く売る必要があります。
なお、実際の利率や返済期間などは、審査のうえ金融機関が決めるもので、申込者が自由に選べるものではありません。ここでの5万円は、あくまで計算の練習用の仮の数字です。
自分の毎月の取り分
もうひとつは、自分に残したい金額です。会社員時代は毎月お給料が入っていましたが、自分の店では、売上から自分の取り分を確保しない限り、手元には何も残りません。
仮に、毎月最低20万円は自分の取り分として欲しいとします。先ほどの25万円に20万円を足すと45万円です。45万円割る400円で1,125杯、25日で割ると1日あたり45杯になります。
ここまでの計算を並べてみます。
- 家賃などだけ見た場合は、1日20杯
- 返済を足すと、1日25杯
- 自分の取り分まで足すと、1日45杯
同じお店でも、何を数えるかで必要な売上は2倍以上に変わります。ここを見落としたまま計画を立てると、「毎日忙しいのに、なぜか手元にお金が残らない」という事態になりかねません。
分岐点が分かったら、何を動かすか
1日45杯がきつそうなら、動かせるものを順番に試します。分岐点は、動かせる数字を変えるたびに計算し直せます。
たとえば、1杯の値段を700円にして材料などを200円のままにすると、1杯あたり500円が残ります。45万円割る500円で900杯、1日あたり36杯です。値段を100円上げるだけで、1日9杯分の負担が軽くなります。
別の動かし方として、家賃を15万円から12万円にできる物件を選ぶ方法もあります。毎月出ていくお金が3万円減るので、42万円割る400円で1,050杯、1日あたり42杯です。
どの数字を動かすかによって、店のコンセプトまで変わってきます。値段を上げるなら、それに見合うこだわりが必要です。家賃を抑えるなら、立地を見直すことになります。この作業が、まさに計画を立てるということです。
そしてこの計算は、お金を借りて起業するときにも役に立ちます。創業融資の審査では、事業計画の具体性、つまり売上や原価、人件費の根拠や返済原資などが見られます。審査の判断材料はほかにもあり、これだけで決まるわけではありません。ただ、売上の数字の根拠を自分の言葉で説明できる状態は、計画を伝えるうえで大きな土台になります。
💬 監修者の元日本政策金融公庫の支店長の多胡から一言
融資の相談では、設備や投資の効果をどう示すかが大きな論点になります。効果を示すとは、この投資でどれだけ売上が上がり、収益がどれだけ出るのかまで書くことです。製造業は機械の生産能力から示しやすい一方、店舗や小売は示しにくいと言われます。だからこそ、お店では1日あたり何杯、何人という数字に落とした計算が、説明の足場になります。
今日からやること。紙に3つの数字を書いてみる
難しい準備は要りません。今日できるのは、次の3つを紙に書き出すことです。
- 自分が売りたいものの、1つあたりの値段
- それを1つ売るのにかかる材料などの金額
- 毎月確実に出ていきそうなお金(家賃、光熱費、通信費など)
まずは調べた数字でなく、思いつきの仮の数字で構いません。値段から材料などを引いて残る額を出し、毎月出ていくお金をその額で割れば、最初の損益分岐点が出ます。そこに、いずれ借りるかもしれない返済額と、自分の取り分を足した計算まで、ぜひ一度やってみてください。
数字を置いて計算した時点で、「願い事」は少しだけ「計画」に近づきます。サン=テグジュペリの言葉とされるあの一文のとおり、2年後の自分に渡す最初のメモは、この計算用紙で十分です。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
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- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
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