
歯科医院の創業融資で事業計画書の説得力を失う5つの落とし穴と書き直し方
勤務医として十分な症例を積んできたのに、創業融資の事業計画書を書き始めた途端に手が止まる、という声をよく伺います。この記事では、歯科医院の創業融資で事業計画書の説得力が落ちてしまう典型的な5つの落とし穴を、「なぜそう見えてしまうのか」と「どう書き直すか」のセットで整理します。制度や金利は改定されるため、以下は2026年6月1日現在の情報として読んでください。
歯科医院の創業融資では「たどれる計画書」かどうかが見られます
日本政策金融公庫の創業融資の審査では、事業として創業した実績がなくても、事業計画書と自己資金などをもとに判断されます。臨床経験が長くても、医院という事業を自分で立ち上げて回した実績はこれから作るものなので、その空白を埋めるのが事業計画書という位置づけになります。
計画書が弱く見えるときの共通点は「数字が合っていない」ことではなく、その数字にたどり着いた経路が読み手側から追えないことにあります。歯科医院は、保険診療と自費診療という性質の違う収入があり、設備投資と運転資金が同時に必要になるため、経路が見えにくくなりやすい構造を持っています。
落とし穴1|勤務医時代の診療実績を、そのまま創業の実績として書いている
経歴欄に、勤務先での担当症例や年間の診療件数、認定資格を並べて終わっているケースです。臨床能力の証明にはなりますが、審査で問われているのは事業として創業した実績の有無であり、診療の腕前と医院経営の経験は別のものとして読まれます。腕は確かでも経営は未知数、という状態のまま計画書が進んでしまいます。
書き直し方
勤務医時代の経験のうち、経営に接していた部分を切り出して書きます。スタッフの教育や配置に関わっていた、材料や技工物の発注を担当していた、リコール率や予約枠の運用改善に関与していた、といった内容です。加えて、不足している経営面をどう補うかを体制として示します。相談相手がいるという書き方は関与として弱く、事業経験のある方を役員や共同経営者に迎えるなど、運営に直接関わる形にすると説明が通ります。
落とし穴2|保険診療と自費診療をひとまとめにして売上を説明している
月商をひとつの数字で置き、その内訳を診療単価と稼働日数だけで説明している状態です。歯科医院は、保険診療と自費診療で単価も、必要な設備も、入金までの流れも異なります。保険診療分は請求から実際の入金までに時間差があるため、売上が立った月とお金が入る月がずれます。両者を混ぜた一本の数字にすると、この時間差が計画から消えてしまいます。
書き直し方
保険診療と自費診療を分けて記載し、それぞれ根拠を別立てで書きます。自費の比率を高めに置くのであれば、その比率を支える裏づけ、たとえば導入する設備や、これまで扱ってきた自費症例の分野を添えます。あわせて、保険診療分の入金の時間差を運転資金の必要額に反映させておくと、収支計画と資金計画が一本の線でつながります。
落とし穴3|設備資金と運転資金が混ざったまま「必要な資金」を書いている
ユニットや内装の工事費と、開業後の人件費や材料費を一枚の表にまとめて総額だけを示している状態です。歯科は設備投資の比重が大きいため総額が膨らみやすく、混ざったままだと何にいくら使うのかが追えません。資金使途の区分は体裁の問題ではなく、返済条件に直結します。新規開業・スタートアップ支援資金を利用する場合の返済期間は、設備資金が20年以内、運転資金が原則10年以内と分かれており、据置期間はいずれも5年以内です。混ざった状態では、この期間の置き方を説明できません。
書き直し方
見積書や契約書という裏づけ書類が付くもの(設備資金)と、開業後に継続的に出ていくもの(運転資金)を分けて記載します。資金使途は事業に必要な支出であることが前提となるため、判断に迷う項目は自己判断で寄せずに申請先や専門家に確認しながら整えます。融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)で、2026年6月1日現在の基準利率は、創業期(税務申告を2期終えていない時期)に利用する場合で年3.45〜5.15%です。創業期の方が利用する場合は、原則0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)の引下げが適用される可能性がありますが、適用可否は利用する制度や審査・条件により異なるため、必ず下がると考えず申請先で確認してください。元金返済の据置期間は5年以内で設定でき、据置中は利息のみの支払いとなります。
落とし穴4|開業立地の説明が「駅から近い」で止まっている
候補地の説明が、駅からの距離や人通りの多さ、周辺の世帯数といった一般的な情報だけで構成されている状態です。この書き方だと、その土地を選んだのではなく、たまたま見つかった物件に合わせて計画を作ったように読まれてしまいます。歯科医院は競合の密度に地域差が大きい業種でもあるため、周辺情報を並べるだけでは選定理由になりません。
書き直し方
他にどの候補地を検討し、なぜそこを外してこの物件にしたのか、という選定の経緯を書きます。周辺の歯科医院がどのような診療内容を主にしているのか、自院がそれとどう違う位置に立つのかまで踏み込むと、立地の説明が診療方針の説明とつながります。
落とし穴5|自己資金は金額だけを書き、貯めてきた経緯を書いていない
自己資金の欄に残高だけを記載しているケースです。公庫の創業融資では、制度上、自己資金の額や割合の要件は決まっていません。旧「新創業融資制度」にあったような固定の割合要件は現行制度にはないため、「総額の何分の1が必須」という前提で計算する必要はありません。一方で自己資金の額は審査の判断材料になり、多いほど有利に働きやすいとされています。だからこそ、金額だけの欄は情報量が乏しく見えます。
書き直し方
自己資金は、面談の時点で口座に確認できる形にしておきます。そのうえで、開業前に自費で購入した機材や備品、取得した資格の費用、テストマーケティングにかかった費用などは「みなし自己資金」として一定範囲で評価されることがあるため、領収書を保管しておきます。歯科の場合、開業準備の過程で研修や機材に相応の支出をしていることが多く、ここが計画書から抜け落ちたままになりがちです。

💬 執筆者の小峰から一言
直す順番としては、設備資金と運転資金の切り分けから手を付けると話が早いです。ここが決まると、返済期間の置き方も自己資金の説明も後から筋が通ります。自己資金は金額そのものより、面談の時点で口座から入金の経緯をたどれるかを見られます。書類を出してから実行までおおむね3週間から1か月、準備を含めると2か月ほどを見込んで逆算してください。
歯科医院の創業融資でよくある質問
Q. 事業計画書はいつまでに仕上げておけばよいですか
A. 書類提出後、融資実行までおおむね3週間から1か月程度が目安です。創業計画書や自己資金のエビデンス、設備の見積書などを整える時間を含めると、準備に1か月、審査と実行に1か月で、合計2か月程度を見込んでおくと計画に無理が出にくくなります。
Q. 創業融資なので決算書は関係ありませんか
A. 創業融資だからといって、決算書をまったく見ないわけではありません。新しく設立した法人であっても、一期でも決算が締まっていればその決算書が確認されます。また、代表者が別に会社を経営している場合は、その会社の決算書も確認の対象になります。
Q. 医療法人での開業を考えていますが、計画書の作り方は変わりますか
A. 事業計画書で説明すべき筋道そのものは変わりませんが、法人格によって整理の仕方が変わる部分があります。設立の手続きや税務上の判断は専門領域にあたるため、詳細は司法書士や税理士などの専門家にご確認ください。
まとめ
歯科医院の創業融資で事業計画書の説得力が落ちるのは、数字そのものより、その数字にたどり着いた経路が読み手から追えなくなっているときです。今回挙げた5つは、混ざっているものを分けて、経緯を一行添えるだけで印象が変わる箇所です。
- 勤務医時代の経験は、臨床ではなく経営に接した部分を切り出す
- 保険診療と自費診療は分けて、それぞれ別の根拠で説明する
- 設備資金と運転資金を分け、返済期間の置き方まで説明できる状態にする
- 立地は周辺情報ではなく、他候補を外した選定の経緯で語る
- 自己資金は金額に加えて、貯めてきた経緯と裏づけを添える
なお、本記事の制度・金利に関する記述は2026年6月1日現在の情報です。制度内容や利率は改定されることがあり、適用可否も個別の審査や条件によって変わるため、実際の申請にあたっては日本政策金融公庫の公式情報や申請先でご確認ください。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























