
工場に機械を入れるときの創業融資は、いくらまで借りられるのか
製造業で独立を考えはじめた段階で、いちばん先に知りたくなるのが借りられる金額です。だいたいの額が分かれば、入れる機械の規模も工場の広さも決められるからです。ところが設備資金は、運転資金のように相場で答えられる性質のお金ではありません。この記事では、工場設備や機械の購入費を借りるときに金額がどう決まるのかを、3つの天井に分けて整理します。数字はいずれも2026年8月時点の社内資料にもとづく説明で、制度や金利は変わりますので、申請の際は日本政策金融公庫などの公式情報をご確認ください。
設備資金の「いくら」に相場で答えられない理由
創業融資の解説で見かける金額の目安は、多くが事業全体の借入額を扱ったものです。運転資金は日々の仕入や人件費といった性質の似た支出のまとまりなので、業種ごとの傾向で語ることができます。
設備資金はそうはいきません。何をいくらで買うのかという1件ごとの見積に紐づくお金で、同じ製造業でも入れる機械が違えば必要額は変わります。そこに平均を当てても、自分の計画の役には立ちません。
実際に金額を決めているのは、次の3つの天井です。制度として借りられる上限、資金使途として説明できる額、そして返していける額。この3つのうち、いちばん低いところが借りられる額になります。順番に見ていきます。
天井1 制度として設定されている限度額
日本政策金融公庫の主力となる創業融資は、新規開業・スタートアップ支援資金です。かつての新規開業資金が2024年4月に改称・拡充された制度で、これとは別枠だった新創業融資制度は2024年3月に廃止されています。旧名で覚えている方が多いので、資料を探すときは現行名で確認してください。
限度額は7,200万円で、そのうち運転資金は4,800万円という内枠が設けられています。ここで読み取っておきたいのは、設備資金には運転資金のような内枠の縛りがないという点です。機械や設備が投資の中心になる製造業は、そもそもの天井が高く取れる側にいます。
ただし限度額は上限であって目安ではありません。7,200万円という数字は、この制度で借りられる最大値を示しているだけで、申し込めば近い額が出るという意味を持ちません。天井1は、残りの2つを検討する前の外枠として押さえておく程度で足ります。
天井2 資金使途として説明できる額
設備資金は、買うものが決まって初めて額になります。機械の見積があるから、その額を設備資金として申し込める。この対応関係が崩れると、金額の根拠がなくなります。
ですから「まず総額を決めて、あとから中身を埋める」という進め方は、設備資金では成り立ちません。順番は逆で、入れる機械が決まり、見積が出て、その積み上げが申込額になります。独立の相談を受けるときに、機種がまだ決まっていない段階で借入額だけを固めようとする方がいらっしゃいますが、そこは急いでも先に進みません。
資金使途は事業に必要な支出であることが前提です。個別の支出が資金使途として認められるかどうか判断に迷う場面が出てきたら、申請先や専門家に確認しながら整えていくのが確実です。
天井3 返していける額
3つ目が、実際に金額を押し下げることが多い天井です。見積の額が説明できても、返済が事業の規模に対して重ければ、そこまでは出ません。
新規開業・スタートアップ支援資金を利用する場合の返済期間は、設備資金が20年以内、運転資金が原則10年以内です。据置期間はどちらも5年以内で設定でき、据置中は利息のみの支払いになります。
💬 執筆者の小峰から一言
返済額をご自分で試算される方は多いのですが、使っている金利が古いことがあります。固定金利で年2から3%台という目安がいまも出回っていますが、2026年6月1日現在の基準利率は、税務申告を2期終えていない時期に利用する場合で年3.45から5.15%です。金融機関側から見ると、この差は返済表の形を変えてしまいます。
この差は金額に直結します。同じ金額を借りても、返済期間を長く取れる設備資金のほうが、1か月あたりの返済は軽くなります。つまり設備資金は、返済という天井が運転資金より高い位置にある資金です。工場や機械を中心に組む計画で、思ったより大きな額が通ることがあるのは、この構造が効いているためです。
裏を返せば、機械を入れたあとに手元に残る現金が薄いと、返済が始まる前の段階でつまずきます。据置期間をどう置くかを含めて、返済の始まり方まで一緒に設計しておくと、金額の話が現実的になります。
利率の引下げは担保の有無で決まるものではありません
創業期にあたる方が利用する場合は、原則0.65%、雇用の拡大を図る場合は0.9%の引下げが適用される可能性があります。ここでいう創業期とは、新たに事業を始める方、または事業開始後に税務申告を2期終えていない方を指します。
この引下げは、無担保で借りる方だけの優遇と受け取られることがありますが、担保の有無によって対象が変わるものではありません。担保を入れて借りる場合も、創業期であれば対象になります。ただし適用の可否は利用する制度や審査、条件によって異なりますので、必ず下がるとは考えずに申請先でご確認ください。なお有担保の場合は基準利率の水準そのものが下がり、2026年6月1日現在で年2.50から4.80%です。
設備資金と運転資金を1本にまとめない
ここまでの3つの天井は、設備資金と運転資金で高さが違います。だからこそ、開業資金という1本の袋にまとめて申し込むと、話が通りにくくなります。
限度額の内枠が別に置かれていること、返済期間が20年以内と原則10年以内で分かれていることを考えれば、2つは別々に組むほうが自然です。機械にいくら、開業後の仕入や人件費にいくらと分けて出しておくと、返済の見通しも説明しやすくなります。
なお、人件費は事業活動に必要な経費として運転資金の対象になります。工場を回すために人を雇う計画であれば、そこも設備とは別立てで数字を置いておきます。
自己資金の額に決まりはありません
制度上、自己資金の額や割合の要件は決まっていません。かつての新創業融資制度にあった自己資金の割合要件が今も続いていると思われることがありますが、現行の制度にそうした固定要件はありません。
とはいえ自己資金の額は審査の重要な判断材料です。面談の時点で口座に確認できる形にしておきます。創業前に自費で取得した資格や、設備・備品の購入、テストマーケティングの費用などは、みなし自己資金として一定の範囲で評価されることがありますので、領収書は保管しておいてください。
審査では、事業として創業した実績がなくても、事業計画書と自己資金などをもとに判断されます。判断の材料は1つや2つではありませんので、金額だけを気にしすぎる必要はありません。
💬 執筆者の小峰から一言
相談の場でよく聞かれるのが、創業融資なら決算書は要らないのかという質問です。まったく見ないわけではありません。新しく設立した会社でも、一期でも決算が締まっていればその決算書を見ますし、代表者が別に会社を経営している場合はその会社の決算書も確認されます。工場を持つ計画では、関わっている会社が他にあるかどうかを先に整理しておくと話が早く進みます。
申し込みの前に整理しておくこと
- 入れる機械が決まっていて、見積が手元にあるか
- 設備資金と運転資金を、別々の金額として出せているか
- 返済期間と据置期間の置き方を、開業後の資金の流れと合わせて考えたか
- 自己資金が面談の時点で口座に確認できる形になっているか
- 他に経営している会社があれば、その決算の状況を説明できるか
書類を出してから融資の実行までは、おおむね3週間から1か月が目安です。準備を含めると合計で2か月ほど見ておくと、機械の納期や工場の契約と噛み合わせやすくなります。
まとめ
設備資金の金額は、相場ではなく3つの天井で決まります。制度の限度額という外枠があり、見積で説明できる額があり、返していける額がある。このうちいちばん低いところが実際の金額になり、製造業の場合は返済期間を長く取れる分だけ、天井が高い側に立てます。金額から逆算するのではなく、入れる機械を決めて見積を取り、そこから返済の形を組む。この順番であれば、話が前に進みます。制度や金利は変わりますので、申請の際は最新の情報をご確認ください。判断に迷う場面があれば、お気軽にご相談ください。
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融資を受けるには何から始めればいいの?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。
無料相談も行っているので、ぜひ一度、ご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
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