
弁当・惣菜のフランチャイズで法人顧客が抜けた月に、店に残る費用はどれか
弁当・惣菜のフランチャイズで、社員食堂の代わりに配達していた法人顧客が一社抜けた。翌月から入金は減るのに、口座から出ていく額はほとんど変わらない。数字を見ながら、どこから手を付ければいいのか決めきれない。この記事は、その状態にいる加盟店オーナーに向けて書いています。
検索して出てくる記事の多くは、これから弁当屋を始める人に向けた「儲かるのか」「利益率はどれくらいか」という話です。すでに開業していて、取引先を一社失った店が次に何をするかは、ほとんど書かれていません。ここでは、抜けた一社ぶんを数字で切り分け、埋めるべき金額を出すところまでを整理します。
「儲かるかどうか」の話と、一社抜けたあとの話は別物です
開業前の記事が扱っているのは、原価率や客単価から見た事業モデルの善し悪しです。判断の対象は、まだ始めていない事業そのものになります。
いま起きているのはそれとは違います。厨房も設備も人も、すでに動いている状態のまま、売上の一部だけが消えました。事業モデルの是非を問い直しても、来月の口座残高は変わりません。先に決めるのは、消えたものと残ったものの内訳です。
消えるのは売上ではなく、その一社ぶんの粗利です
法人向けの配達は、一食あたりの単価が抑えられているかわりに数量でまとまっている取引が多くなります。そのため、失った売上の大きさと、失った粗利の大きさは一致しません。
最初にやるのは、抜けた一社について次の三つを実額で出すことです。
- その先だけの月商(直近三か月から六か月の平均)
- その売上のためにかかっていた食材費・容器代・配達の燃料など、数量に連動して動く費用
- 差し引いて残る粗利
三つ目が、来月から実際に消える金額です。売上の数字だけを見て「これだけ落ちた」と考えると、実態より大きく見積もることになります。逆に、粗利が薄い先だったなら、失ったものは思ったより小さいという結論もあり得ます。
多くの店では、取引先ごとの粗利を日常的には持っていません。売上は本部への報告や請求書で先ごとに分かれていても、食材費は店全体でまとめて計上されているためです。ここは概算で構いませんので、その先の食数と一食あたりの材料費から逆算して出しておきます。
費用は「その一社専用」と「全体で共有」に分かれます
次に、店から出ていく費用を二つに分けます。分け方の基準は「その先が無くなったら、金額が動くかどうか」です。
共有していた費用は動きません。厨房の賃料、設備の借入返済やリース料、定額で設定されているロイヤルティ、水道光熱の基本料金などがこれにあたります。作る食数がゼロになっても、同じ額が同じ日に出ていきます。
その顧客専用に持っていた費用は動きますが、動く速さがばらばらです。専用の容器や資材は発注を止めれば翌月から減ります。配達のためだけに走らせていた便も、経路を組み替えれば下がります。一方で、その先の仕込みのために増やした人手は、後述のとおりその月には落ちません。
人に関わる費用は、その月には落ちません
受注が減ったからシフトを減らす、あるいは人員を見直すという判断をしても、現金の出方はすぐには変わりません。労働基準法に定めがあるためです。
雇用を終了する場合について、労働基準法第二十条は次のように定めています。
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。
つまり、予告してから三十日を待つか、三十日分以上の平均賃金を支払うかのどちらかになります。どちらを選んでも、その月に人件費が消えるわけではありません。
働く日数を減らす方向でも同じです。労働基準法第二十六条は、次のように定めています。
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。
受注が減ったことを理由に店の側から休ませる場合、この定めにあたることがあります。人件費は、動かせる費用の中でも金額が大きいぶん最初に目が向きますが、実際には落ちるまでに時間がかかる費用だと見ておいたほうが、資金繰りの読みは合います。
個別の事情でどう扱うかは条件によって変わりますので、進め方については社会保険労務士に確認してください。ここで押さえておきたいのは、削減を決めた月と、現金が減る月がずれるという一点です。
空いた製造能力を別の商品に回すときは、許可の区分を先に見ます
抜けた一社ぶんの仕込み枠が空いたので、別の商品を作って埋めたい。自然な発想ですが、食品の製造は営業の種類ごとに許可が分かれています。
食品衛生法施行令第三十五条は、許可が必要な営業を業種ごとに列挙しています。弁当や惣菜を作る「そうざい製造業」は第二十五号、それを凍らせて売る「冷凍食品製造業」は第二十七号、パンや菓子を作る「菓子製造業」は第十一号と、それぞれ別の号に置かれています。同じ厨房を使っていても、扱う商品が変われば別の許可の範囲に入る場合があります。
施設の基準そのものも全国一律ではありません。食品衛生法第五十四条は次のように定めています。
都道府県は、公衆衛生に与える影響が著しい営業(食鳥処理の事業を除く。)であつて、政令で定めるものの施設につき、厚生労働省令で定める基準を参酌して、条例で、公衆衛生の見地から必要な基準を定めなければならない。
基準を定めるのは条例なので、必要な設備の内容は地域によって差が出ます。設備を足す前提で商品を増やすと、埋めるつもりの金額より投資が先に出ていくことになりかねません。作るものを変える案が出た時点で、所轄の保健所に範囲を確認しておくのが先になります。
あわせて、加盟契約の側でも扱える商品や仕入先が決められていることがあります。本部にも同時に確認しておくと、動ける範囲が早く見えます。
埋めるべき金額は「失った売上」ではありません
ここまでの整理を、ひとつの金額にまとめます。埋める対象は、失った売上でも、失った粗利そのものでもありません。次の四つを順に出します。
- 抜けた一社の粗利(前述の三つ目の数字)
- 専用で持っていた費用のうち、来月から減らせる額
- 減らせない期間が残る費用(人に関わるもの)について、落ちきるまでの月数と、その間の月額
- 新しい取引先を開拓できるまでに見込む月数
一から二を引いた額が、毎月あらたに不足する金額です。それに三の期間ぶんを上乗せし、四の月数をかけると、立て直しの途中で必要になる資金の総額が出ます。感覚で「三か月ぶんくらい」と置くより、この形で出したほうが、あとの説明が短く済みます。
💬 監修者の元日本政策金融公庫の支店長の多胡から一言
立て直しの資金は、先に希望額を決めてから理由を後ろ足しすると、話が前に進みにくくなります。順序は逆にしてください。共有の固定費のうち抜けた先が負担していた分と、専用の費用が落ちきるまでの月数を積み上げ、その合計をそのまま申込額にする。吹っかけず、必要なものだけを緻密に見積もる。この順番で出した数字は、そのまま説明の材料になります。
数字が出てから、話をする順番を決めます
金額と期間が出たら、話をする相手と順番を決めます。
本部には、抜けた先の内訳と、空いた製造能力で何ができるかを持って相談します。商品の範囲や仕入の条件は本部側の判断が要る部分なので、こちらの数字がそろっているほど返事が早くなります。
取引のある金融機関には、赤字になった事実だけでなく、その原因が「取引先が一社抜けたこと」に特定できている点と、埋めるまでの月数の見込みを添えて相談します。原因が絞れていない状態で必要額だけを持ち込むと、確認のやりとりが増えて時間がかかります。
返済の負担が重い場合の条件見直しについても、相談は早いほど取れる選択肢が残ります。どの制度や条件が使えるかは、事業の状況と取引の経緯によって変わりますので、専門家を交えて整理してください。
まとめ
法人顧客を一社失ったときの立て直しは、新しい取引先を探すところから始めると、探している間の資金が足りなくなります。先にやるのは切り分けです。抜けた一社の粗利を出し、費用を専用と共有に分け、人に関わる部分は落ちるまでに時間がかかる前提で月数を置く。作るものを変える案が出たら、営業許可の区分と加盟契約の範囲を先に確認する。
ここまでが数字になれば、埋めるべき金額と、埋まるまでに必要な資金は自動的に出てきます。弁当・惣菜のフランチャイズが儲からないかどうかではなく、いまの店で何が残っているかから考えたほうが、次の一手は決めやすくなります。なお、本記事の法令の内容は執筆時点のものです。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























