
工場の新設・増設で使える補助金|投資規模で変わる4つの選択肢と注意点
「工場を建てたい」「今の工場を増設したい」——製造業を数年経営してきた中小企業が生産能力の壁にぶつかったとき、多くの経営者がまず頭に浮かべるのが補助金の活用です。ただし工場建設・増設に使える補助金は1つではなく、投資額の規模によって候補になる制度がまったく異なります。数千万円の設備投資のつもりで大型補助金を調べても要件が合わず、逆に数億円規模の投資に小規模な補助金を当てはめようとしても上限額が足りません。
この記事では、工場の新設・増設を検討する中小企業向けに、投資規模別に使える補助金を整理し、特に見落とされがちな「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 新事業進出枠」の対象外条件について詳しく解説します。
工場建設・増設の補助金は「投資規模」で使う制度が変わる
工場の新設・増設をテーマにした情報を探すと、複数の補助金が横並びで紹介されているケースが目立ちます。しかし実際には、投資額のケタが1つ違うだけで対象になる制度も、審査で問われるポイントもまったく別物になります。まず全体像を押さえておきましょう。
- 数千万円規模の投資(既存工場内の省力化・自動化):中小企業省力化投資補助金(一般型)
- 数千万円〜9,000万円規模で、新市場・新製品への進出を伴う投資:新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 新事業進出枠
- 数億円規模(売上高100億円超を目指す成長投資):中小企業成長加速化補助金
- 数十億円規模(工場新設・拠点拡張の大型投資):大規模成長投資補助金
ここから、それぞれの制度がどんな工場投資に向いているのかを見ていきます。
数千万円規模:中小企業省力化投資補助金(一般型)が向くケース
「工場を新設するほどではないが、既存工場内の生産ラインを自動化・省力化したい」というケースでは、中小企業省力化投資補助金(一般型)が候補になります。補助上限は1億円で、人手不足の解消や生産性向上を目的とした設備投資が対象です。労働生産性の向上や賃上げに関する要件が設けられており、未達成の場合は補助金の返還を求められる可能性がある点は事前に押さえておく必要があります。
工場「建設」そのものではなく、既存の建物内での自動化ライン導入・省力化機器の設置が主目的であれば、こちらの制度の方が要件に合致しやすい傾向があります。
新事業進出枠は「単なる増産」だと対象外になる(見落としやすい注意点)
工場の新設・増設と聞いて多くの経営者がまず候補に挙げるのが、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 新事業進出枠です。補助上限は最大9,000万円(従業員規模別に1〜20人2,500万円、21〜50人4,000万円、51〜100人5,500万円、101人以上7,000万円。大幅賃上げ特例を適用した場合はそれぞれ3,000万円・5,000万円・7,000万円・9,000万円)で、対象経費に建物費(工場の新設・増改築)が含まれる点が大きな特徴です。
しかし、この枠でもっとも誤解されやすいのが「新規性」の要件です。新事業進出枠は、既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出を支援する制度であり、新たに製造・提供する製品等が申請者にとって新規性を有し、その市場が申請者にとって新たな市場であることが条件になります。裏を返せば、既存製品の増産や再製造を目的とした単純な工場増設は、新事業進出には該当せず対象外になります。「工場を増やして今と同じ製品をもっと作りたい」というだけの計画では、この枠を通すのは難しいということです。
新事業進出枠を使うなら、増設した工場で「これまで作っていなかった製品」「参入していなかった市場」に踏み出す計画に組み立て直す必要があります。既存事業の延長・改善色が強い場合は、革新的新製品・サービス枠の方が自然なことも多いため、どちらの枠が自社の計画に合うかを事業計画の段階で見極めることが重要です。
補助下限は750万円、補助率は中小企業者1/2(地域別最低賃金引上げ特例適用時は2/3)です。基本要件として付加価値額の年平均成長率+4.0%以上、給与支給総額の年平均成長率+3.5%以上、事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上に保つことなどが求められ、未達成の場合は返還対象になります。
数億円規模:中小企業成長加速化補助金が向くケース
売上高100億円超を目指すような成長志向の投資であれば、中小企業成長加速化補助金が候補になります。補助上限は5億円で、建物費(事務所・生産施設・倉庫等の新設・増改築・中古取得)、機械装置費、ソフトウェア費などが対象経費に含まれます。単なる老朽化設備の更新投資は対象外とされており、審査では「売上高100億円を目指す」という成長の方向性が明確に示されているかが重要な評価軸になります。
賃上げ要件は、補助事業完了後3事業年度における従業員1人あたり給与支給総額の年平均上昇率が、直近5年間の最低賃金年平均上昇率(4.5%)以上であることが求められ、未達成の場合は返還対象です。新事業進出枠と違い「新規性」そのものは必須要件ではありませんが、その分「なぜ100億円規模の成長につながるのか」という事業計画の説得力が問われます。
数十億円規模:大規模成長投資補助金が向くケース
工場の新設や拠点拡張が数十億円規模になる場合は、大規模成長投資補助金が対象になります。補助上限は50億円と大きい一方、最低投資額が20億円以上(100億宣言企業は15億円以上)という条件があり、対象は従業員数2,000人以下の中堅・中小・スタートアップ企業です。人手不足などの課題に対応しながら成長する大型設備投資を支援する制度で、工場新設・拠点拡張、大規模設備の導入、生産能力増強に向けた投資が対象経費になります。
賃上げ要件は補助事業終了後3年間で従業員1人あたり給与支給総額の年平均上昇率5.0%以上(100億宣言企業は4.5%以上)と、他の制度より厳しめに設定されています。未達成時の返還リスクも大きいため、数十億円規模の投資を検討する場合でも、賃上げ計画を事業計画の初期段階から織り込んでおく必要があります。多くの中小企業にとっては投資額のハードルが高い制度ですが、生産能力を一段階引き上げる局面では検討に値します。
補助金選びで失敗しないための3つのチェックポイント
投資規模別の候補が見えてきたところで、実際に制度を選ぶ際に押さえておきたいポイントを整理します。
1. 「新設・増設」の目的を明確に言語化する
同じ工場投資でも、「既存製品の生産能力を増やしたい」のか「新しい製品・新しい市場に踏み出したい」のかで対象になる制度が変わります。事業計画を作り始める前に、この目的を経営者自身の言葉で明確にしておくと、制度選びで迷いにくくなります。
2. 賃上げ要件と返還リスクを投資規模と照らし合わせる
紹介した4つの制度はいずれも賃上げに関する要件があり、未達成時には補助金の返還を求められる可能性があります。特に大規模成長投資補助金は年平均5.0%以上と要件が厳しく、投資規模が大きいほど返還時の負担も大きくなります。補助金を「もらえる前提」で資金計画を組まず、返還リスクも織り込んだうえで検討することが重要です。
3. 交付決定前の発注・契約は対象外になる
いずれの制度も、交付決定前に発注・契約・購入した経費は補助対象になりません。工場の建設や設備の発注を急ぐあまり、交付決定を待たずに契約を進めてしまうと、その部分は補助対象外になってしまいます。スケジュールに余裕を持って申請準備を進めることが欠かせません。
まとめ
工場の新設・増設に使える補助金は、投資規模とその投資が「既存事業の延長」か「新市場への進出」かによって候補が絞られます。数千万円規模の省力化投資なら中小企業省力化投資補助金(一般型)、新市場・新製品への進出を伴う投資なら新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 新事業進出枠(ただし単なる増産は対象外)、数億円規模の成長投資なら中小企業成長加速化補助金、数十億円規模の大型投資なら大規模成長投資補助金が候補になります。それぞれ賃上げ要件・返還リスク・対象経費の細部が異なるため、自社の投資規模と事業計画の方向性を照らし合わせたうえで、詳細な要件は最新の公募要領で確認することをおすすめします。
よくある質問
Q. 工場の土地取得費も補助対象になりますか?
A. 制度によって扱いが異なります。新事業進出枠では建物費が対象経費に含まれますが、建物の単純購入・賃貸や不動産購入費そのものは対象外とされています。土地取得費の扱いは制度ごとに条件が細かく分かれるため、該当する制度の最新の公募要領で個別に確認してください。
Q. 複数の補助金を同時に申請できますか?
A. 国の制度・公的制度との二重受給は認められないケースが一般的です。同じ工場投資に対して複数の補助金を重ねて申請することはできないため、投資内容ごとに最も適した制度を1つ選ぶ必要があります。
Q. 創業したばかりでも工場建設の補助金は使えますか?
A. 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 新事業進出枠は、新規設立・創業後1年に満たない事業者は対象外とされており、最低1期分の決算書が必要です。創業直後の工場投資は、まず他の資金調達手段と組み合わせて検討することをおすすめします。
【無料相談のご案内】
弊社では、補助金専門行政書士法人V-Spiritsが補助金支援を行っております。元補助金審査員の三浦を中心とした各種専門家チームが全面的にサポートいたします。このケースは補助金の対象になるのか?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。無料相談も行っているので、ぜひいちどご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
三浦高/Takashi Miura
元創業補助金(経済産業省系補助金)審査員・事務局員
中小企業診断士、起業コンサルタント®、
1級販売士、宅地建物取引主任者、
融資・資金調達コンサルタント
行政書士法人V-Spirits 補助者
産業能率大学 兼任教員
2024年現在、各種補助金の累計支援件数は300件を超える。
融資申請のノウハウも蓄積し、さらに磨きを掛けるべく日々事業計画書に向き合っている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























