
物販ビジネスを立ち上げて創業融資を申請するとき、日本政策金融公庫の「創業計画書」をどう書くかは融資の合否を大きく左右します。物販は店舗販売・ECサイト・卸など販売チャネルが多様で、仕入れ・在庫管理・販売単価の組み合わせを計画書に正しく反映する必要があります。本記事では、公庫書式の創業計画書を、物販業の開業を想定して項目別に記入例とともに解説します。
物販の創業計画書とは|公庫融資審査の核となる書類
日本政策金融公庫の創業融資を申請するときに必須となる「創業計画書」は、新たに事業を始める方が、どのような事業を、どう運営し、どう返済原資を生み出していくかを書面で示す書類です。物販ビジネスは仕入資金・在庫資産・販売チャネル開拓費が中心的な支出となり、サービス業に比べて「お金がモノに変わる」業態のため、資金繰りを正しく描けるかどうかが審査の重要ポイントになります。
計画書は公庫公式サイトからフォーマットがダウンロードでき、A3用紙1枚に9項目が並ぶシンプルな構成です。本記事執筆時点(2026年5月)の情報をもとに解説しますが、書式は公式サイトの最新版を必ず確認してください。
物販の創業計画書 記入例|公庫書式の項目別書き方
公庫の創業計画書は、次の9項目で構成されています。それぞれ物販業の開業を想定した記入例を順に解説します。
1. 創業の動機
なぜ物販ビジネスを始めるのか、その背景を具体的に書きます。「商品が好きだから」だけでは弱く、業界経験・取扱商材の市場・販売チャネルの戦略をセットで記載するのがポイントです。
記入例:「家電メーカーの営業として8年間勤務し、後半3年間は越境ECの企画責任者を担当。Amazon US/楽天海外モール向けに年間2,000万円の売上を構築した。出店予定の○○エリアにはアウトドアブランド愛好者が多いが、専門知識を持って提案できる店舗が少ない。これまで培った商品調達ルートとEC運営ノウハウを活かし、店舗とECサイトの両軸でアウトドア用品の物販ビジネスを開業する。」
2. 経営者の略歴等
勤務先・在籍期間・役職・売上規模を時系列で書きます。物販経験(営業職・バイヤー・店長・EC担当)と取扱商材の知識、取扱金額の規模を数字で示すと説得力が増します。
3. 取扱商品・サービス
主力商品カテゴリ・想定単価帯・粗利率・売上構成比を記入します。セールスポイント欄では、他店との差別化要素(仕入ルートの独自性・専門特化・体験型ショップ・自社ブランド開発など)を明記します。
4. 取引先・取引関係等
物販は販売先と仕入先の両方が重要です。販売先には「一般個人」「法人」「ECモール経由顧客」など、想定客層を記載します。仕入先には、メーカー名・代理店名・問屋名を具体的に書き、回収条件(クレジット・代金引換・後払い)と支払条件(月末締め翌月末払いなど)を明記します。
5. 従業員
開業時の人員構成を記載します。本人+パート1名(店舗担当)+EC運用1名など、販売チャネルに応じた体制を示します。家族従業員を入れる場合も役割と就業時間を明確に書きます。
6. お借入の状況
個人としての住宅ローン・カーローン・カードローンの残高を正直に記入します。虚偽記載が発覚すると審査は通りません。
7. 必要な資金と調達方法
物販の開業資金は店舗併用なら500万〜1,500万円、EC専業なら200万〜700万円が目安です。「設備資金」と「運転資金」に分けて記入します。
記入例(設備資金):店舗内装費 300万円/店舗保証金 100万円/POSレジ・什器 80万円/PC・物流機材 40万円/ECサイト構築費 60万円
記入例(運転資金):初回仕入資金 300万円/家賃・人件費・広告費 計200万円(3か月分)/ECモール出店料・広告予算 60万円
調達方法は、自己資金・親族からの援助・公庫融資の内訳を明記します。物販は「仕入資金」が運転資金の中で最大項目になるため、これを設備資金と混同しないよう注意してください。
8. 事業の見通し(売上計画)
販売チャネル別に売上を分けて試算します。粗利率と販管費の関係も明確にします。
例(店舗):客単価7,500円 × 1日10名 × 25日 = 月商187.5万円
例(EC):月150件 × 6,000円 = 月商90万円
合計月商:277.5万円/想定粗利率35% = 粗利97万円/月
9. 自由記述欄
セールスポイント・差別化戦略・補足したい事業計画があれば記入します。物販なら「販売チャネル別の売上構成(店舗60%/自社EC25%/モール15%)」「在庫回転率」「シーズン別の売上変動」など、より細かい設計を書くアピール欄として有効活用しましょう。
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物販の創業計画書を書くときのポイント
1. 仕入と売上のサイクルを資金計画に反映する
物販は仕入が先・売上が後の業態です。「仕入から販売までのリードタイム」「在庫期間」を加味した運転資金計画を立てないと、開業初月に資金ショートします。仕入を月初、売上を月末と仮定し、最低3か月分の仕入資金を運転資金に組み込みます。
2. 物販キャリアと取扱金額を定量化する
「商品知識がある」ではなく「メーカー営業として年間2億円の取引を担当」「ECで年間2,000万円販売」など数字で示します。前職での取扱金額・取扱SKU数・粗利率は、開業後の運営能力を示す重要な指標です。
3. 販売チャネル別の売上構成を示す
店舗売上だけで成立するのか、ECサイト・モール販売・卸を組み合わせるのか、チャネル別に売上を分解して書きます。「店舗60%/自社EC25%/Amazon15%」のような構成があれば集客リスクが分散していると評価されます。
4. 粗利率と販管費率を明示する
物販は粗利率(売上から仕入を引いた割合)で利益構造が大きく変わります。アパレル30〜50%、家電・PC関連15〜25%、雑貨40〜60%など、業種別の現実的な粗利率を踏まえた計画を示します。
物販の創業計画書 売上計画の記入例
創業当初(1〜3か月)の売上計画:
- 店舗:客単価6,500円 × 1日5名 × 25日 = 81万円
- EC(自社サイト):月40件 × 5,500円 = 22万円
- 月商:103万円/粗利率35% = 粗利36万円
軌道に乗った後(12か月以降)の売上計画:
- 店舗:客単価7,500円 × 1日12名 × 25日 = 225万円
- EC(自社サイト):月180件 × 6,000円 = 108万円
- EC(モール):月80件 × 5,500円 = 44万円
- 月商:377万円/粗利率35% = 粗利132万円
物販はチャネル多角化で売上の安定性を高められるビジネスです。創業当初は単一チャネルで始め、軌道に乗った段階で複数チャネル展開を計画に書くと、成長ストーリーが伝わりやすくなります。
物販の創業計画書でよくある失敗例
1. 在庫資金を運転資金に含めていない
「在庫=資産」と考えがちですが、現金化されるまでは寝かせている資金です。仕入資金は運転資金として計上し、初回仕入+3か月分の補充仕入を運転資金に組み込みます。
2. 粗利率を高めに設定しすぎる
「粗利率50%」のような楽観的設定は、メーカー・商社経由の仕入実態とかけ離れているケースが多いです。仕入ルートと商品別の粗利率を裏付けとともに示しましょう。
3. ECサイト集客コストの試算が抜けている
ECは「作れば売れる」業態ではなく、広告・SEO・SNSへの継続投資が必要です。月10〜20万円の広告費・モール手数料を販管費に組み込まないと収益構造が崩れます。
物販の創業計画書に関するFAQ
Q1. 物販の開業に必要な許認可は何ですか?
A. 取扱商品によります。古物の販売は古物商許可、食品販売は食品衛生法に基づく営業許可、酒類販売は酒類販売業免許など。創業計画書には許可取得状況または取得予定時期を必ず記載します。
Q2. EC専業でも公庫の創業融資は受けられますか?
A. 受けられます。むしろ近年はEC専業の創業案件が増えています。ただし、実店舗のない事業は信用補完として「販売チャネル戦略」「集客導線」「物流体制」を計画書内で具体的に示す必要があります。
Q3. 物販は黒字化までどれくらいかかりますか?
A. チャネル構成や商品単価によりますが、開業から6〜18か月で単月黒字化、1〜3年で累計黒字化が目安です。資金計画では運転資金(特に仕入資金)を6か月分以上確保しておくと安心です。
まとめ
物販の創業計画書は、「仕入から販売までのサイクルを反映した資金計画」と「販売チャネル別の売上設計」がそろって初めて評価される書類です。物販キャリアを活かし、客単価・販売件数・粗利率・チャネル構成を地に足のついた数字で示すことが、融資成功の第一歩です。書類作成に不安がある場合は、創業融資に強い専門家への相談を活用しましょう。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























