
食品製造の営業許可とHACCP対応は創業融資にどう関わる?並行して進める段取り
惣菜や菓子、パンなどの食品製造で開業を目指すとき、多くの方が最初に調べるのは保健所の営業許可です。施設基準を満たした厨房を用意し、食品衛生責任者を置き、HACCPに沿った衛生管理の体制を整える——ここまでは開業準備の情報としてよく整理されています。
一方で、その許可の準備が創業融資とどうつながるのかは、ほとんど語られていません。実務では、「許可を取ってから融資を申し込もう」と順番に進めた結果、開業予定日が2か月以上後ろにずれてしまう例が起きています。逆に、許可業種を決めないまま融資額だけ先に固めようとして、見積書と計画がかみ合わなくなることもあります。
この記事では、食品製造業の開業を前提に、営業許可・食品衛生責任者・HACCP対応という3つの準備が創業融資にどう関わるのかを整理し、両方を並行して進めるための段取りをお伝えします。制度や金利は変わりやすいため、本文の数字は執筆時点(2026年7月)のものとしてお読みいただき、申請時には必ず最新の公式情報をご確認ください。
食品製造の開業で押さえる3つの前提
まず、融資の話に入る前に、食品製造業の開業に必要な衛生関係の準備を確認しておきます。融資の計画は、この3点が決まらないと数字が固まりません。
1. 営業許可(業種の区分を確定させる)
食品を製造して販売する場合、食品衛生法にもとづいて保健所の営業許可が必要です。許可は「菓子製造業」「そうざい製造業」「漬物製造業」など、扱う食品に応じた業種区分ごとに取得します。どの区分になるかで施設基準が変わるため、作る商品と販売方法を先に決めることが、実は資金計画の出発点になります。
2. 食品衛生責任者の設置
許可業種・届出業種では、施設ごとに食品衛生責任者を置く必要があります。営業許可申請時または営業届出時に、あわせて届け出る流れです。資格を持つ人がいない場合は講習の受講が必要になるため、開業スケジュールに受講のタイミングを織り込んでおきます。
3. HACCPに沿った衛生管理
食品衛生法の改正により、原則としてすべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が求められています。小規模な事業者は業界団体の手引書に沿った簡略化された運用が認められる場合がありますが、いずれにしても衛生管理計画を作り、記録を残す体制が前提になります。
この3つは「許可を取るための手続き」として語られがちですが、融資の視点で見ると意味が変わります。次章で見ていきます。
許可業種が決まらないと融資額は固まらない
創業融資の申請では、設備資金の額を見積書で裏づけます。そして食品製造の設備見積は、許可業種の施設基準に左右されます。
食品製造では、何を製造するかによって必要な営業許可や施設基準が異なります。そのため、図面や設備内容、工事費も変わり、創業融資で必要となる設備資金も変わってきます。
つまり順番としては、次のようになります。
- 作る商品を決める
- 該当する許可業種の区分と施設基準を保健所に確認する
- その基準を満たす図面・仕様で工事と設備の見積を取る
- 見積をもとに設備資金を積み、運転資金と合わせて融資申請額を決める
「まず融資でいくら借りられるか知りたい」という気持ちは自然ですが、②を飛ばすと④の数字が動いてしまいます。保健所への事前相談は、衛生の手続きであると同時に、資金計画の前提を固める作業だとお考えください。
HACCP対応の費用は融資の資金使途になるのか
衛生管理体制を整えるための支出は、事業に必要な支出であれば設備資金・運転資金として資金使途に組み込めます。具体的には、施設の区画整備や手洗い設備、温度管理ができる保管設備、記録を残すための温度計・記録管理システムなどが検討対象になります。
ここで押さえておきたいのは、公庫の主力である新規開業・スタートアップ支援資金の枠組みです。
- 融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)
- 返済期間は設備資金が20年以内、運転資金が原則10年以内
- 元金返済の据置期間は5年以内で設定でき、据置期間中は利息のみの支払い
食品製造は厨房設備・製造機械の初期投資が重くなりやすい業種です。設備資金の返済期間を長めに設定できること、据置期間を使って開業初期のキャッシュフローに余裕を持たせられることは、計画を組むうえで大きな要素になります。
なお、資金使途はあくまで「事業に必要な支出」であることが前提です。個別の支出が資金使途として認められるかどうか判断に迷う場合は、申請先や専門家に確認しながら計画を整えることをおすすめします。
金利と据置期間の目安(2026年6月1日現在)
日本政策金融公庫の基準利率は、無担保で創業期(税務申告を2期終えていない場合)に利用するとき年3.45〜5.15%です。創業期の方が無担保で利用する場合は、原則として0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)の引下げが適用される可能性があります。
「創業期の方」とは、新たに事業を始める方、または事業開始後に税務申告を2期終えていない方を指します。なお「雇用の拡大を図る場合」は対象者の区分ではなく、引下げ幅が大きくなる条件にあたります。実際の適用可否は利用する融資制度・審査・条件によって異なる可能性がありますので、詳細は申請先でご確認ください。
許可と融資を並行させる約2か月のスケジュール
創業融資は、書類提出後おおむね3週間〜1か月で実行されます。創業計画書・自己資金のエビデンス・見積書などを整える時間を含めると、準備に1か月、審査・実行に1か月、合計で2か月程度を見ておくと安全です。
ここで許可の取得を「終わってから」融資に着手すると、開業日はさらに後ろへずれます。実務では次のように並行させます。
- 1〜2週目: 作る商品と売り方を決め、保健所へ事前相談。該当する許可業種の区分と施設基準を確認する
- 2〜4週目: 施設基準を満たす図面をもとに、工事・設備の見積を取得。並行して食品衛生責任者の資格・講習の段取りをつける
- 4〜8週目: 見積を反映した創業計画書を作成して融資を申請。同時に工事を進め、営業許可の申請に向けた書類(申請書、施設の構造・設備を示す図面、食品衛生責任者の資格を証明する書類など)を揃える
- 8週目以降: 施設完成後の検査を受けて許可を取得。融資実行のタイミングと工事代金の支払時期を合わせる
この段取りの狙いは、「許可が下りる見込みが立った状態」で融資審査に臨むことです。許可が取れるかどうかが不確かなままでは、事業計画の実現性を説明しにくくなります。逆に、保健所への事前相談を済ませ、図面と見積が揃っていれば、計画の裏づけとしてそのまま使えます。
審査で見られるポイントをどう補うか
創業融資の審査では、事業として創業した実績がなくても、事業計画書と自己資金などをもとに判断されます。判断材料は複数あるため、この2つを揃えれば必ず通るというものではありませんが、食品製造の場合に特に説明しておきたい点があります。
1つは製造能力と売上計画の整合です。導入する設備で1日にどれだけ作れるのか、その量をどこに売るのか(自社店舗・卸・オンラインなど)が数字でつながっているかを確認されます。設備の能力と売上見込みが噛み合っていないと、計画の説得力が下がります。
もう1つは衛生管理体制です。HACCPに沿った衛生管理の計画と記録の仕組みを整えていることは、食品を扱う事業として当然の前提であると同時に、事業を継続的に回せる体制があることの説明にもなります。
また、業界未経験で食品製造を始める場合は、経験不足をどう補うかが論点になりやすいところです。より説得力を持たせるには、事業経験者を役員として迎えるなど、事業運営に直接関わる体制を整えることが有効です。
自己資金の考え方
公庫の創業融資では、制度上、自己資金の額や割合の要件は決まっていません。一方で自己資金の額は審査の重要な判断材料になり、多いほど有利になりやすい傾向があります。自己資金は面談時点で口座に確認できる形にしておきます。
創業前に自費で取得した資格・設備や備品の購入、テストマーケティング費用などは、「みなし自己資金」として一定範囲で評価されることがあります。試作の材料費や食品衛生責任者の講習受講料などが該当しうるため、領収書は必ず保管しておきましょう。
よくある質問
営業許可が下りる前に創業融資を申し込めますか
申し込みそのものはできますが、許可が取れる見込みが立っていない状態では、事業計画の実現性を説明しにくくなります。保健所への事前相談を済ませ、該当する許可業種と施設基準を確認し、その基準に沿った図面・見積を揃えたうえで申請するのが現実的な進め方です。
HACCP対応のためのシステム導入費も借りられますか
事業に必要な支出であれば、資金使途として計画に組み込むことが検討できます。温度記録や衛生管理記録を残すための機器・システムは、衛生管理体制を整えるための支出として説明しやすい部分です。ただし個別の支出がどこまで認められるかは案件によって異なるため、申請先や専門家に確認してください。
設備の調達はリースにした方がよいのでしょうか
リースには初期費用を抑えられるメリットがある一方で、次のようなデメリットもあります。
- 連帯保証人が必要になる
- 機器の所有権が持てない
- 契約期間中の中途解約が難しい
- 故障時の修理負担が借主側になる契約が多い
融資とリースのどちらが有利かは、資産計上の考え方や資金繰りの状況によっても変わるため、賃貸借費用の負担も含めて税理士や金融機関に相談しながら判断することをおすすめします。
飲食店営業許可も一緒に取る場合、融資の申請は変わりますか
製造した商品を店内で提供する形態を併せて行う場合、必要な許可が増え、施設の要件も変わります。その分だけ工事・設備の見積が変わるため、融資申請額の内訳も変わります。どの業態を組み合わせるかを先に決めてから、見積と計画を作る順番は同じです。
許可の申請書類は自分で作れますか
申請書や施設の図面などは事業者自身で準備することもできますが、業種区分の判断や施設基準の解釈で迷う場面は少なくありません。V-Spiritsグループには行政書士も在籍しており、許認可の準備と創業融資の申請を並行して進めるご相談に対応しています。
まとめ
食品製造業の開業では、営業許可・食品衛生責任者・HACCP対応の準備と、創業融資の準備を切り離さないことが要点になります。
- 許可業種の区分が施設基準を決め、施設基準が見積を決め、見積が融資申請額を決める。順番を逆にしない
- 衛生管理体制を整えるための施設・設備費は、事業に必要な支出として資金使途に組み込むことを検討できる
- 公庫の新規開業・スタートアップ支援資金は限度額7,200万円(うち運転資金4,800万円)、設備資金の返済期間20年以内、据置5年以内。初期投資が重い食品製造と相性がよい
- 融資は準備1か月+審査・実行1か月で合計約2か月。許可の取得と並行させて開業日から逆算する
本記事の数字は執筆時点(2026年7月/基準利率は2026年6月1日現在)の情報です。制度・金利・許可の運用は変わることがありますので、実際に進める際は保健所と日本政策金融公庫の最新情報をご確認いただき、許可と資金調達の段取りを専門家と一緒に組み立てることをおすすめします。
【無料相談のご案内】
融資を受けるには何から始めればいいの?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。
無料相談も行っているので、ぜひ一度、ご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























