
季節変動の資金繰りは谷の深さと動く時期で決まる|閑散期を借入で埋める判断と、繁忙期に貯めて越える判断の分かれ目
閑散期に資金が薄くなる業態が、谷を越えるために先に決めておくこと
売上に季節の波がある業態では、年間の数字が計画どおりでも、特定の月だけ手元が薄くなります。かき氷や海の家のように波が分かりやすい業態だけでなく、学習塾、造園、リフォーム、観光地の飲食など、繁忙と閑散がはっきり分かれる商売は珍しくありません。
この谷を越える方法は、大きく2つです。閑散期に借入で埋めるか、繁忙期のうちに貯めて越えるか。どちらが正しいという答えはなく、谷の深さと繰り返しの有無、そして動き出す時期で分かれます。ここでは、店舗を数年運営してきて毎年同じ月に資金が細るのを経験している経営者を想定して、判断の前に潰しておきたい4つの落とし穴と、分け方の材料を整理します。数字は執筆時点の情報です。
落とし穴1:年間平均の月商で資金繰りを見ている
年商を12で割った平均月商は、季節変動のある業態では実際の1か月をほとんど表しません。平均で見ると通年で黒字に見えるのに、谷の3か月だけを取り出すと固定費が売上を上回っている、という形はよく起きます。
先に手を付けるのは、月ごとの入金と出金を並べ直すことです。家賃、人件費、リース料、借入の元金と利息といった、売上に関係なく毎月出ていくものを一列に置き、そこに月ごとの入金を重ねます。すると、谷が何か月続き、その間に月あたりいくら不足するのかが金額で出ます。「閑散期がきつい」という感覚が、「7月から9月まで、毎月80万円足りない」という具体の数字に変わったところが判断の出発点になります。
この作業を1年分やっておくと、翌年からは前年の実績を横に置くだけで済みます。季節変動のある業態は、谷の来る月と深さが年によって大きくは動きません。前年の同じ月にいくら不足したかが分かっていれば、今年の見込みは前年比で調整するだけになります。
落とし穴2:谷に入ってから動き始める
資金が細ってきた実感が出てから金融機関に相談すると、間に合わないことがあります。日本政策金融公庫の場合、書類を提出してからおおむね3週間から1か月で融資が実行されます。書類の準備を含めると、合計で2か月程度は見ておく必要があります。
つまり、9月に資金が底を打つと分かっているなら、動き出すのは7月です。しかも7月がまだ繁忙期の中にあるなら、直近の試算表は良い数字を示しています。谷に入って残高が減ってから相談するのと、繁忙期の数字を持って「毎年この時期に谷が来るので、その分をあらかじめ手当てしたい」と説明するのとでは、同じ会社でも見え方が変わります。
落とし穴3:毎年来る谷を、毎年その場の借入で埋めている
季節の谷には、毎年決まって来るものと、その年だけの事情で深くなったものがあります。この2つを分けずに、来るたびに短い借入を足していくと、返済が重なって固定の出金そのものが増えます。谷を埋めるために借りたお金の返済が、次の谷をさらに深くする形です。
毎年繰り返す谷であれば、それは資金繰りの問題というより、事業の構造として織り込むべきものです。繁忙期の利益のうちどれだけを谷のために残しておくのかを先に決め、残せる額が谷の不足額に届かない部分だけを借入で補う、という順番になります。一方、その年だけの落ち込みであれば、原因を説明できる分、借入で埋める判断は取りやすくなります。
短期の借入を重ねると返済が重なるという点は、金額でも見ておくと分かりやすくなります。たとえば谷を埋めるために300万円を1年で返す条件で借りると、元金だけで毎月25万円の出金が新たに乗ります。翌年もう一度同じ額を借りれば、返済中の分と合わせて毎月の元金が50万円になります。谷の不足額が毎月80万円だったはずが、返済が重なることで実質的にもっと深くなっていく形です。
💬 執筆者の小峰から一言
信用金庫で融資を出す側にいたころ、季節の谷の相談で先に聞いていたのは、いつ返す想定かという点でした。制度上は元金返済の据置が5年以内の範囲で認められることがあり、据置中は利息のみの支払いになります。ただ、据置期間も返済期間も審査のうえ金融機関が決めるもので、申込者が選べるものではありません。
落とし穴4:繁忙期の入金を、そのまま使える現金と見てしまう
繁忙期は入金が増えますが、同時に仕入も人件費も増えています。さらに、繁忙期の売上に対応する支払いは、月が変わってから出ていくことが少なくありません。通帳の残高が厚くなった時期に設備の入れ替えや採用を決めると、谷に入ってから両方の支払いが重なる場合もあります。
繁忙期に残す額を決めるときは、通帳の残高ではなく、谷の不足額から逆算します。落とし穴1で出した「毎月いくら足りないか」に谷の月数を掛けたものが、繁忙期に残しておきたい目安です。この額を先に別の口座に移してしまい、日常の残高から見えなくしている経営者もいます。
借入で埋めるか、貯めて越えるかを分ける3つの材料
ここまでを踏まえると、判断の材料は次の3つに整理できます。
- 谷の深さと長さ:不足額の合計が、繁忙期に残せる利益の範囲に収まるかどうか。収まるなら貯めて越える判断が取りやすく、収まらない部分は借入の検討対象になります
- 繰り返すかどうか:毎年同じ月に来る谷なら、構造として残す設計に寄せます。その年だけの落ち込みなら、原因と回復の見込みを添えて借入で埋める説明が組み立てられます
- 次の投資の予定:谷の直後に設備の更新や出店を考えているなら、手元を厚く保つ意味が変わります。谷の資金と投資の資金を同じ財布で考えないことです
借入で埋める場合、資金使途は運転資金にあたります。日本政策金融公庫の融資限度額は7,200万円で、そのうち運転資金は4,800万円が上限とされています。返済期間は制度上、運転資金で原則10年以内という枠がありますが、実際に適用される返済期間や利率、据置期間は審査のうえ金融機関が決定します。希望を申込のときに伝えることはできますが、こちらで選べるものではない点を前提に組み立ててください。
借入で埋める判断をした場合に、説明できるようにしておきたいのは返済の原資です。谷の資金は繁忙期の売上から返すことになりますので、「いつの売上で返すのか」を月単位で示せる形にしておくと話が早くなります。ここでも、前年の月別の入金実績がそのまま材料になります。試算表や月次の売上推移は、計画どおりに推移していれば計画の実現可能性の裏づけになり、計画との乖離が続いていれば説明を求められる、両方向に効く材料です。
まとめ
季節変動のある業態で資金が詰まるのは、閑散期そのものが原因ではなく、谷の深さを金額で把握していないことと、動き出す時期が遅れることの2つから起きます。月ごとの入金と出金を並べて不足額を出し、実行までに2か月程度かかる前提から逆算して動く時期を決める。そのうえで、繁忙期に残せる額と不足額を突き合わせ、届かない部分だけを借入で補う。この順番であれば、毎年の谷は繰り返し訪れる想定内の出来事として扱えます。制度や利率は改定されますので、実際の条件は申込先の金融機関に確認してください。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























