
起業して間もない時期は、売上づくり、資金繰り、採用、日々の業務対応など、やるべきことが一気に増えます。その中で、従業員の教育や研修は「大事だとはわかっているけれど、今はなかなか時間や費用をかけにくい」と感じる経営者も多いのではないでしょうか。
人材開発支援助成金は、簡単にいうと、従業員に仕事で必要な知識やスキルを身につけてもらうための訓練・研修を行う事業主を支援する制度です。
たとえば、新しく採用した従業員に業務の基本を学んでもらう場合や、新しい事業を始めるために必要な知識を身につけてもらう場合などに、制度の活用を検討できる可能性があります。
ただし、研修であれば何でも対象になるわけではありません。研修内容、対象者、実施方法、申請の流れなどは制度ごとに確認が必要です。この記事では、起業して間もない個人事業主・中小企業の経営者向けに、人材開発支援助成金の基本的な考え方をわかりやすく解説します。
目次
人材開発支援助成金とは?
人材開発支援助成金は、事業主が従業員に対して、仕事に必要な訓練や研修を実施する際に活用を検討できる制度です。
ここでいう「訓練」や「研修」とは、特別に難しいものだけを指すわけではありません。接客、営業、事務、製造、ITツールの操作、新規事業に必要な知識など、業務に関係する学び全般を指します。
人材開発支援助成金は、設備を買うための制度ではなく、人を育てるための制度です。たとえば、新しいシステムを導入する場合、システムそのものは別の補助金が関係することがあります。一方で、そのシステムを従業員が使いこなすための研修は、人材育成の取り組みとして整理できる可能性があります。
ただし、助成金は「申請すれば自動的に支給されるもの」ではありません。事前の計画、書類の準備、訓練の実施記録、支給申請など、必要な手続きがあります。起業直後の忙しい時期ほど、早めに全体像を確認しておくことが大切です。
人材開発支援助成金の対象になりやすい取り組み
人材開発支援助成金では、従業員が現在の仕事や今後担当する仕事に必要な知識・技能を身につけるための訓練が検討対象になります。
「技能」とは、仕事を行うために必要な技術や実務能力のことです。たとえば、接客の方法、営業の進め方、製造現場での作業手順、業務システムの使い方などが考えられます。
| 取り組みの例 | 内容のイメージ |
|---|---|
| 新入社員向け研修 | 業務の基本、社内ルール、接客や営業の基本を学ぶ |
| ITツール研修 | 会計ソフト、予約管理、顧客管理システムなどを学ぶ |
| 専門スキル研修 | 製造、技術、デザイン、マーケティングなどを学ぶ |
| 新規事業向け研修 | 新しいサービスや販売方法に必要な知識を学ぶ |
| OJT・実習 | 実際の業務を通じて、仕事の進め方を学ぶ |
最近よく使われる言葉に「リスキリング」があります。リスキリングとは、これから必要になる新しい知識やスキルを学び直すことです。たとえば、店舗販売を中心にしていた事業者がオンライン販売を始める場合、ECサイトの運営、商品ページの作成、SNSでの発信、顧客対応などの知識が必要になることがあります。
また、紙や手作業で行っていた業務をデジタル化する場合も、従業員が新しいツールを使えるようになる必要があります。システムを導入しても、現場で使いこなせなければ、期待した効果が出にくいからです。
オンライン講座やeラーニングを活用するケースもあります。eラーニングとは、パソコンやスマートフォンを使って、インターネット上で学ぶ方法です。ただし、受講状況を確認できるか、業務との関係を説明できるか、必要な記録を残せるかなどは事前に確認しておきましょう。
対象となる事業主・労働者の基本イメージ
人材開発支援助成金は、基本的には従業員を雇用している事業主が検討する制度です。法人だけでなく、個人事業主であっても、従業員を雇用している場合には確認の余地があります。
ここでいう「事業主」とは、会社やお店を運営し、従業員を雇っている人や法人のことです。起業して間もない事業者であっても、従業員を雇用し、仕事に必要な教育訓練を計画的に行う場合には、制度の内容を確認してみる価値があります。
確認したいポイントは、次のとおりです。
| 確認項目 | 内容のイメージ |
|---|---|
| 従業員を雇用しているか | 研修を受ける対象者がいるか |
| 雇用保険に関係する事業所か | 制度上、雇用保険が関係する場合がある |
| 訓練を計画的に行う予定があるか | 誰に、何を、なぜ学んでもらうか整理できるか |
| 書類を準備できるか | 計画書、研修資料、受講記録などをそろえられるか |
「雇用保険」とは、従業員の雇用を守るための公的な制度の一つです。助成金の中には、この雇用保険に関係する条件が設けられているものがあります。ただし、自社がどう扱われるかは個別の状況によって変わるため、管轄の労働局や専門家に確認することが大切です。
対象となる労働者については、正社員だけでなく、有期契約労働者や非正規雇用の従業員が関係する場合もあります。有期契約労働者とは、働く期間が決まっている契約で働く人のことです。非正規雇用とは、一般的に正社員以外の働き方を指し、パート、アルバイト、契約社員などが含まれることがあります。
一方で、個人事業主本人の学習費用を支援する制度とは性質が異なります。個人事業主本人が経営セミナーを受ける場合や、業務委託先に研修を受けてもらう場合などは、対象者の扱いを個別に確認する必要があります。
主なコースの考え方
人材開発支援助成金には、いくつかのコースがあります。コースとは、簡単にいうと「どのような人材育成を支援するか」という制度上の区分です。
起業直後の事業者がまず押さえたいのは、従業員の基本的なスキルアップを支援する考え方です。新入社員に業務の基本を覚えてもらう、営業担当者がお客様への提案力を高める、店舗スタッフの接客品質をそろえる、といった研修が考えられます。
また、新規事業や事業展開に関係する学び直しも重要です。DX化やデジタル化に取り組む場合、従業員が新しいツールや業務フローを理解していなければ、現場に定着しにくくなります。
DXとは、デジタル技術を使って、業務やサービスの進め方をより良く変えていくことです。難しく考えすぎる必要はありません。紙で管理していたものをシステムで管理する、手作業だった業務を効率化する、といった身近な改善も、デジタル活用の一歩です。
また、教育訓練休暇に関する制度が関係する場合もあります。教育訓練休暇とは、従業員が研修や学習を受けるために取得する休暇のことです。ただし、休暇制度の導入や運用には、就業ルールや社内規程が関係する場合があります。ここは労務上の個別判断が必要になりやすいため、専門家や窓口に確認しながら進めると安心です。
起業直後の会社で考えられる活用例
起業して間もない会社や個人事業主の場合、最初は少人数で事業を回していることが多いです。代表者が営業、現場対応、事務、採用、教育まで担当しているケースも珍しくありません。そのような状況では、従業員を育てる仕組みを少しずつ整えることが、事業を安定させる大切な一歩になります。
たとえば、新しく採用した従業員に基本業務を教える場面が考えられます。接客業であれば、お客様への声かけ、予約対応、クレーム対応、レジ操作などを学ぶ研修が考えられます。営業職であれば、商品説明、商談の流れ、見積書の作成、顧客管理の方法などが研修内容になります。
また、デジタルツール導入に合わせて社員を育成するケースもあります。
| 導入するツール | 従業員に必要な学び |
|---|---|
| 会計ソフト | 入力方法、書類管理、基本操作 |
| 顧客管理システム | 顧客情報の登録、履歴管理、対応記録 |
| 予約管理システム | 予約受付、変更対応、キャンセル処理 |
| ECサイト管理ツール | 商品登録、注文管理、問い合わせ対応 |
| SNS運用ツール | 投稿管理、分析、反応の確認 |
新規事業に必要なスキルを身につける場合も、人材育成の大切な場面です。店舗販売に加えてネット販売を始める、飲食店が冷凍食品や通販を始める、美容サロンがオンライン相談を始めるなど、事業の方向性が変わると、従業員にも新しい知識が必要になります。
さらに、パート、アルバイト、契約社員などの非正規雇用の従業員を育てたい場合にも、人材育成の考え方が役立ちます。たとえば、接客だけを担当していた人に在庫管理や発注業務も学んでもらう、事務補助を担当していた人に顧客管理の流れを学んでもらう、といった形です。
ただし、助成金を受けること自体を目的にしないことが大切です。まずは、自社で「誰に、何を、なぜ学んでもらいたいのか」を整理し、そのうえで制度を確認する流れが自然です。
申請の大まかな流れ
人材開発支援助成金を検討するときは、研修を実施することだけでなく、事前にどのような準備が必要かもあわせて考えることが大切です。
大まかな流れは次のようになります。
| 流れ | 内容 |
|---|---|
| 育成目的を整理する | 誰に、何を、なぜ学んでもらうのかを考える |
| 訓練計画を作る | 研修内容、対象者、時期、方法を整理する |
| 事前手続きを確認する | 必要書類や提出時期を確認する |
| 訓練を実施する | 計画に沿って研修を行う |
| 記録を残す | 受講記録、出席状況、費用関係の書類を保存する |
| 支給申請を行う | 訓練終了後に必要書類を提出する |
| 審査を受ける | 提出内容をもとに支給可否が判断される |
最初に行いたいのは、自社の育成目的を整理することです。単に「助成金があるから研修を受ける」のではなく、自社の課題や今後の事業に必要な学びを明確にすることが大切です。
その後、訓練計画を作成します。訓練計画とは、誰に、いつ、どのような内容の研修を行うのかをまとめた計画のことです。難しく聞こえるかもしれませんが、要するに「研修の設計図」のようなものです。
研修を実施した後は、受講記録や出席状況、研修資料、支払い関係の書類などを残します。「受けたことは間違いない」と思っていても、後から確認できる資料がないと困ることがあります。特にオンライン講座やeラーニングの場合は、受講時間や修了状況を確認できるかを事前に見ておくと安心です。
最後に支給申請を行います。支給申請とは、訓練を実施した後に、助成金の支給を受けるために行う申請のことです。ただし、申請した時点で支給が確定するわけではありません。提出した書類をもとに審査が行われ、その結果によって支給の可否が判断されます。
申請前に確認したい注意点
人材開発支援助成金で特に注意したいのが、研修を始める前の手続きです。制度やコースによっては、訓練を開始する前に計画書などを提出する必要があります。先に研修を申し込んだり、受講を始めたりしてしまうと、制度の対象として扱いにくくなる場合があります。
また、研修内容が自社の業務や今後の事業に関係しているかも重要です。現在の仕事に必要な知識を学ぶ研修、新しい業務を担当するための研修、事業展開に向けて必要なスキルを身につける研修などは、制度を検討する際の材料になります。
申請前には、次のような点を確認しておきましょう。
| チェック項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 研修の目的は明確か | 誰に、何を、なぜ学んでもらうのか |
| 業務との関係は説明できるか | 自社の仕事や事業展開とつながっているか |
| 対象者は整理できているか | 受講者の立場や雇用状況を確認しているか |
| 事前手続きは確認したか | 研修開始前に必要な提出があるか |
| 記録を残せるか | 受講記録、出席状況、支払い書類などを保存できるか |
| 最新情報を確認したか | 古い情報ではなく、現在の制度内容を見ているか |
税務・法律・労務に関係する内容は、個別の判断が必要になることがあります。たとえば、研修中の勤務時間の扱い、教育訓練休暇の整備、就業ルール、助成金の会計処理などは、事業者ごとの状況によって確認すべき内容が変わる可能性があります。
そのため、記事を読んだだけで判断するのではなく、必要に応じて管轄の労働局、ハローワーク、社会保険労務士、税理士などに相談することが大切です。
人材開発支援助成金を検討するメリット
人材開発支援助成金は、単に研修費の負担を軽くできるかもしれない制度というだけではありません。従業員の成長を通じて、会社やお店の業務を安定させるきっかけにもなります。
起業直後は、代表者に業務が集中しやすいです。営業も代表者、現場対応も代表者、経理や事務の確認も代表者、従業員への教育も代表者という状態になると、どうしても時間が足りなくなります。
従業員のスキルアップは、こうした代表者への業務集中を少しずつ減らすためにも大切です。顧客対応、見積・提案、事務作業、ツール操作、新人教育などを少しずつ任せられるようになれば、代表者は経営や営業活動、新しいサービスづくりに時間を使いやすくなります。
また、従業員にとっても、学べる環境があることは安心につながります。何を学べばよいのか、どのように成長していけるのかが見えることで、働く意欲につながる可能性があります。
もちろん、研修を行えば必ず定着する、というものではありません。職場の雰囲気、業務量、働き方、評価の仕組みなど、さまざまな要素が関係します。その中の一つとして、人材育成の機会を整えることが大切です。
FAQ
個人事業主でも人材開発支援助成金を使えますか?
個人事業主であっても、従業員を雇用している場合には確認する余地があります。ただし、個人事業主本人の学習費用を支援する制度とは性質が異なります。誰に研修を受けてもらうのか、その人がどのような立場で働いているのかを整理したうえで、最新情報を確認しましょう。
研修を受けた後でも申請できますか?
人材開発支援助成金では、研修を始める前の手続きが重要になる場合があります。すでに研修を受けた後に申請を検討しても、制度の流れに合わない可能性があります。研修を申し込む前、または開始する前に、必要な手続きや提出書類を確認しておくことが大切です。
オンライン講座やeラーニングも対象になりますか?
オンライン講座やeラーニングが関係する場合もあります。ただし、講座内容が業務に関係しているか、受講状況を確認できるか、必要な記録が残せるかなどを確認する必要があります。受講前に、講座の資料やカリキュラム、受講履歴の出し方などを確認しておくと進めやすくなります。
まとめ:人材開発支援助成金は「人を育てる仕組みづくり」に役立つ制度
人材開発支援助成金は、従業員の職業能力を高めるための訓練や研修を支援する制度です。起業して間もない個人事業主や中小企業にとっては、教育体制を整え、代表者だけに頼らない組織づくりを進めるきっかけになります。
人材育成は、すぐに売上として見えにくい取り組みかもしれません。しかし、従業員が成長し、任せられる仕事が増えていくことは、事業を安定させるうえで大きな力になります。
まずは、助成金ありきで考えるのではなく、自社で「誰に、何を、なぜ学んでもらいたいのか」を整理することから始めましょう。そのうえで、人材開発支援助成金を活用できる可能性があるかを、最新情報や専門家の意見を確認しながら検討していくと安心です。
【無料相談のご案内】
弊社では、元補助金審査員の三浦を中心とした各種専門家チームが補助金支援を行っております。このケースは補助金の対象になるのか?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。無料相談も行っているので、ぜひいちどご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
三浦高/Takashi Miura
元創業補助金(経済産業省系補助金)審査員・事務局員
中小企業診断士、起業コンサルタント®、
1級販売士、宅地建物取引主任者、
融資・資金調達コンサルタント
行政書士法人V-Spirits 補助者
産業能率大学 兼任教員
2024年現在、各種補助金の累計支援件数は300件を超える。
融資申請のノウハウも蓄積し、さらに磨きを掛けるべく日々事業計画書に向き合っている。
この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
起業コンサルタント(R)、経営コンサルタント、税理士、特定社会保険労務士、行政書士、サーティファイドファイナンシャルプランナー・CFP(R)、1 級FP技能士。大正大学招聘教授(起業論、ゼミ等)
V-Spiritsグループ創業者。税理士法人V-Spiritsグループ代表。東京池袋を本拠に全国の起業家・経営者さんを応援!「ベストセラー起業本」の著者。著書20冊、累計25万部超。経済産業省後援「DREAMGATE」で12年連続相談件数日本一。
【まるごと起業支援(R)・経営支援】
起業コンサル(事業計画+融資+補助金+会社設立支援)+起業後の総合サポート(経理 税務 事業計画書 融資 補助金 助成金 人事 給与計算 社会保険 法務 許認可 公庫連携 認定支援機関)など
【略歴】
経営者である父の元に生まれ、幼き頃より経営者になることを目標として過ごす。バブル崩壊の影響を受け経営が悪化。一家離散に近い貧困状況を経験し、「経営者の支援」をライフワークとしたいと決意。それに役立ちそうな各種資格を学生時代を中心に取得。同じく経営者であるメンターの伯父より、単に書類や手続を追求する専門家としてではなく、視野を広げ「ビジネス」の現場での経験を元に経営者の「経営そのもの」を支援できるような専門家を目指すようアドバイスを受け、社会人生活をスタート。大手、中小、ベンチャー企業、会計事務所等で営業、経理、財務、人事、総務、管理職、経営陣等、ビジネスの「現場」での充実した修行の日々を送ったあと、2007年に独立。ほかにはない支援スタイルが起業家・経営者に受け入れられ、経済産業省「DREAM GATE」にて、面談相談12年連続日本一。補助金・助成金支援実績600件超。ベストセラー含む起業・経営本20冊を出版。累計25万部超。無料相談件数は全国から累計3000件を超す。





























