
士業・コンサルの創業融資:行政書士に依頼して変わる準備と、変わらない審査材料
行政書士、税理士、社会保険労務士、中小企業診断士、あるいはフリーのコンサルタント。書類を作ることや、他人の申請を組み立てることを仕事にしてきた人が独立するとき、自分の創業融資まで外部に頼む必要があるのか、という迷いが出てきます。様式を埋める作業だけを見れば、確かに自分でできてしまいます。
ただ、他人の申請を作る立場と、自分が申請人になる立場は、同じ書類仕事でも性質が違います。この記事では、士業・コンサルタントが自分の創業融資を進めるときに、行政書士へ依頼することで変わる部分と、依頼しても変わらない部分を分けて整理します。数字は日本政策金融公庫の制度について、2026年6月1日現在の基準にもとづく執筆時点の情報です。
依頼しても変わらないもの:審査の材料そのもの
審査では、事業として創業した実績がなくても、事業計画書と自己資金などをもとに判断されます。ここで見落とされやすいのは、判断の材料が2つに限られるわけではないという点です。経験や資金使途、面談での説明も含めて総合的に見られます。
そして、その材料を用意するのは申請人本人です。売上の見込みをどの数字から立てるのか、自己資金をどう積んできたのか、これまでの経験がどの部分に効くのか。ここは代わりに作ってもらえる領域ではありません。依頼を検討するときに「頼めば通りやすくなるか」から考え始めると、この前提とずれます。
依頼しても変わらないもの:面談で話すのは本人
創業融資では面談があり、そこで話すのは本人です。書類の中身と面談での説明が食い違えば、書類の完成度が高いことがかえって不自然に見えます。士業・コンサルタントの方は、顧客の代わりに説明する場面には慣れていても、自分の事業の見通しを自分の言葉で説明する機会は、意外なほど少ないまま独立を迎えます。
顧客の申請では、こちらが説明の担い手になり、相手の事業を第三者の目で言い換えて伝えます。自分の事業になると、その第三者の目を自分で持つことになります。同じ内容を話しているつもりでも、聞き手が知らない前提が省かれるのは、慣れの問題ではなく立場の問題です。
依頼して変わるもの:前提の言語化と、説明の順序
依頼して実際に変わるのは、書類の出来栄えよりも前段にあたる部分です。自分の事業については、前提を持ちすぎているために、外から見て説明が必要な箇所ほど省略されやすくなります。どの顧客層から、どういう経路で仕事が来るのか。単価と件数をどこから置いたのか。同業が多い地域でなぜ選ばれるのか。
このあたりは、内容を知らない第三者に一度説明してみないと、抜けに気づけません。外部に依頼する価値は、代筆ではなく、この「聞かれる工程」を持てることにあります。
依頼して変わるもの:日程の組み立て
もう1つは日程です。創業融資は、書類提出後おおむね3週間から1か月で実行されるのが目安で、書類の準備期間を含めると合計で2か月程度を見ておくと安全な設計になっています。独立の準備は、登録や届出、事務所の契約、顧客への挨拶が同時に走ります。それらと融資の日程が別々のカレンダーで動いていると、資金が必要な時期と実行の時期がずれます。
依頼を決める前に確認しておく制度の前提
依頼の要否を考える前に、制度側の条件を一度並べておくと、相談の中身が具体的になります。日本政策金融公庫の主力である新規開業・スタートアップ支援資金の融資限度額は7,200万円で、うち運転資金は4,800万円です。元金返済の据置期間は5年以内で希望でき、据置の間は利息のみの支払いになります。
金利は、2026年6月1日現在の基準利率で、創業期(税務申告を2期終えていない時期)に無担保で利用する場合が年3.45から5.15%です。創業期の方が利用する場合は原則0.65%、雇用の拡大を図る場合は0.9%の引下げが適用される可能性がありますが、適用可否は利用する制度や審査・条件により異なるため、下がるものとして計算せず申請先で確認してください。この引下げは担保の有無で対象が変わるものではありません。
士業・コンサルタントの独立は、事務所の設備投資が小さく、運転資金の比重が高くなりやすい構成です。限度額の全体像より、据置と返済期間のほうが手元の資金繰りに効いてくる、という見方をしておくと、相談で聞くべきことが絞れます。

💬 執筆者の小峰から一言
信用金庫で融資を出す側にいたころから感じているのですが、審査の判断材料は事業計画書と自己資金などであって、この2つに限られるわけではありません。書類を整えることを目的にしてしまうと、経験や資金使途、面談での受け答えといった残りの材料が手つかずのまま当日を迎えます。依頼するかどうかを決める前に、材料の全体像を並べてみてください。
士業・コンサルに特有の見落とし:関与している会社の決算書
創業融資だから決算書は見ない、ということにはなりません。新しく設立した会社であっても、一期でも決算が締まっていれば、その決算書が確認されます。さらに、代表者が別に会社を経営している場合は、その会社の決算書も確認の対象になります。
この点が士業・コンサルタントの独立で効いてきます。独立前から別の法人の役員に入っている、共同で立ち上げた会社が残っている、副業として作った法人がある、といった状態は珍しくありません。申込む法人の中だけで話が完結しない可能性がある、と考えておくほうが準備は進めやすくなります。判断は個別の状況によって変わるため、詳細は申請先や専門家に確認してください。
自己資金は「割合」ではなく「積み上がった経緯」で見られる
制度上、自己資金の額や割合の要件は決まっていません。旧制度にあったような固定の割合要件は、現行の制度にはない、という整理です。一方で、自己資金の額が審査の重要な判断材料になることに変わりはなく、多いほど有利になりやすい関係にあります。用意した資金は、面談の時点で口座に確認できる形にしておきます。
あわせて知っておきたいのが、みなし自己資金という考え方です。創業前に自費で取得した資格や、設備・備品の購入、テストマーケティングにかけた費用などは、一定の範囲で自己資金として評価されることがあります。領収書を保管しておくことが前提になります。士業・コンサルタントの独立準備では、登録や研修、業務用ソフト、専門書といった支出が開業前に先行しがちです。手元の残高だけを自己資金と数えていると、この部分が計算から落ちます。

💬 執筆者の小峰から一言
当グループの創業融資支援は712件で、うちコンサルティング業は51件、構成比7.2%です(いずれも2026年6月時点)。飲食の135件と比べると件数は少ないほうですが、設備の見積で必要額を組み立てられない分、数字の置き方を相談される割合はむしろ高い、という感触があります。
依頼先を選ぶときに確認しておくこと
行政書士は許認可や書類作成を専門とする資格です。税務は税理士、労働・社会保険の手続きは社会保険労務士、登記は司法書士と、担当する領域が法律で分かれています。独立の準備では、この複数の領域が同時に発生します。どこまでを1つの窓口で受けてもらえるのか、他の資格が必要な部分はどう連携するのかを、最初の相談の時点で聞いておくと、後から窓口を探し直さずに済みます。
もう1点、融資の契約そのものは、申請人と金融機関の間で結ぶものです。交渉を代わってもらう類のサービスではない、という前提で内容を確認してください。
まとめ
士業・コンサルタントの独立で行政書士に依頼する価値は、書類を代わりに書いてもらうことではなく、自分の事業の前提を外から問われる工程と、日程の設計を手に入れることにあります。審査の材料そのものと、面談で話す役割は本人に残ります。この線を引いたうえで、自分の準備状況と照らして依頼の要否を決めると、判断が早くなります。制度の内容や金利は変わりやすいため、申し込みの際は日本政策金融公庫などの公式情報で最新の条件を確認してください。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























