
動画制作・映像制作で起業するときの創業融資|公庫の制度・自己資金・計画書のポイント
動画・映像制作の需要が広がるなか、フリーランスや会社員として経験を積んだ方が独立・会社設立を考えるケースが増えています。撮影・編集機材や当面の運転資金をどう用意するかは、起業の最初の関門です。手元資金だけでは足りないとき、選択肢のひとつになるのが創業融資です。
この記事では、動画制作・映像制作で起業する方に向けて、創業融資の基本的な仕組みと、自己資金・事業計画書のポイントを2026年(執筆時点)の情報をもとに整理します。金利や制度は変わりやすいため、申請前には日本政策金融公庫など公式の最新情報を必ずご確認ください。
動画・映像制作の起業で資金が必要になる場面
映像制作は「機材があれば始められる」と思われがちですが、実際にはまとまった初期費用と、案件が回り出すまでの運転資金が必要になります。
- 設備資金:カメラ・レンズ・ジンバル・照明・音声機材、編集用の高性能PCやソフト、スタジオを構える場合の内装など
- 運転資金:撮影・編集を外注する際の外注費、出演者・スタッフへの支払い、事務所家賃、機材のレンタル費など
とくに映像制作は、納品してから入金されるまでに時間差が生じやすい業態です。受注は順調でも、制作中の立て替えや入金待ちの間に手元資金が薄くなりがちなため、設備だけでなく運転資金まで含めて資金計画を立てることが大切です。
創業融資の主役:日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」
創業時の資金調達でまず候補になるのが、政府系金融機関である日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です。これは2024年4月から現在の名称になった制度で、それ以前は「新規開業資金」と呼ばれていました(かつての「新創業融資制度」は2024年3月に廃止され、現在は各融資制度に無担保・無保証の枠組みが組み込まれています)。
主なポイントは次のとおりです(いずれも2026年6月時点の情報です)。
- 融資限度額:7,200万円(うち運転資金4,800万円)
- 担保・保証人:創業期の方は、原則として無担保・無保証人で利用できます
- 基準利率:2026年6月1日現在、無担保で創業期(税務申告を2期終えていない場合)に利用するとき年3.45〜5.15%が目安です。税務申告を2期終えていない場合、原則0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)の引下げが適用される可能性があります。実際の利率や適用可否は制度・審査・条件により変わるため、申請先での確認が必要です
- 返済・据置期間:返済期間は設備資金で20年以内、運転資金で原則10年以内。元金の据置は最大5年以内で設定でき、据置中は利息のみの支払いとなるため、開業初期のキャッシュフローに余裕を持たせやすくなります
政府系金融機関のため、民間では対応が難しい創業初期のケースにも取り組みやすいのが特徴です。事業の実績がなくても、事業計画書と自己資金をもとに審査される点も、これから始める方にとって心強い仕組みです。
自己資金はいくら必要?「割合の決まりはない」が考え方の鍵
「自己資金は総額の何分の1が必須」と聞いたことがあるかもしれませんが、現行制度では自己資金の額や割合の要件は決まっていません。一方で、自己資金の額は審査の重要な判断材料であり、自己資金が多いほど計画の堅実さが伝わり、有利になりやすいのも事実です。
映像制作は機材を中古でそろえたり、案件をこなしながら少しずつ拡張したりできるため、比較的少ない自己資金で始めやすい面があります。だからこそ、これまでコツコツ準備してきた自己資金を、面談の時点で口座に確認できる形にしておくことが大切です。
「みなし自己資金」も整理しておく
創業前に自費で取得した資格や、すでに購入した撮影・編集機材、テストマーケティングにかけた費用などは、一定範囲で「みなし自己資金」として評価されることがあります。動画制作では起業前に機材を買いそろえているケースも多いので、領収書を必ず保管しておきましょう。
動画制作の創業計画書で見られるポイント
実績がない分、創業融資では事業計画書の説得力が結果を大きく左右します。映像制作の場合、次のような点を具体的に示せると計画の現実味が高まります。
- 受注の見込み:すでに取引が見込める企業・代理店、過去の制作実績やポートフォリオ、想定する単価と月あたりの本数など
- 機材投資の根拠:必要な機材の見積書をそろえ、なぜその投資が売上につながるのかを説明する
- 運転資金の使い道:人件費や役員報酬、外注費は事業に必要な経費として運転資金の対象になります。一方で、経営者個人の生活費は運転資金の対象にならない点に注意が必要です
なお、創業計画書では、敷金・礼金・仲介手数料・保証会社費用は記載しないのが実務上の扱いです。また、会社を設立して起業する場合の設立登記などの手続きは専門分野にあたるため、具体的な進め方は司法書士などの専門家に相談すると安心です。
申請から実行までの流れと、知っておきたい注意点
申請から融資実行までは、書類提出後おおむね3週間〜1か月が目安です。創業計画書・自己資金のエビデンス・機材の見積書などをそろえる準備期間を含めると、合計でおおむね2か月程度を見ておくと安心です。「今すぐ資金が必要」という状況には間に合いにくいため、早めの準備が肝心です。
審査が心配で申し込みをためらう方もいますが、日本政策金融公庫は個人信用情報機関に加盟しておらず、審査に落ちたこと自体が信用情報に記録されることはありません。ただし、過去の延滞や債務整理など別の事由による情報が登録されている場合は、それが審査に影響することがあります。
よくある質問(FAQ)
会社員からフリーランスの映像クリエイターになる場合でも創業融資は使えますか?
これから事業を始める方や、開業後に税務申告を2期終えていない方は「創業期の方」として対象に案内されています。個人事業として始める場合でも、事業計画書と自己資金をもとに審査を受けられます。詳しい対象や条件は申請先でご確認ください。
機材のリースと融資はどちらがよいですか?
一概には言えません。リースは初期負担を抑えやすい一方、融資は資産として手元に残り、運転資金もまとめて確保できます。機材の更新サイクルや手元資金の状況を踏まえ、全体の資金計画のなかで比較するのがおすすめです。
自己資金がほとんどなくても申し込めますか?
制度上、自己資金の割合の決まりはないため申し込み自体は可能ですが、自己資金が極端に少ないと計画の実現性を示しにくくなります。みなし自己資金になり得る支出を整理し、無理のない範囲で自己資金を準備しておくとよいでしょう。
まとめ
動画制作・映像制作の起業では、撮影・編集機材といった設備資金に加えて、入金までの時間差を埋める運転資金まで含めた資金計画が重要です。創業融資の主役となる日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」は、無担保・無保証人や据置期間といった創業者にやさしい設計で、これから始める方の強い味方になります。
自己資金は割合の決まりこそないものの審査の重要な判断材料であり、ポートフォリオや受注見込みを盛り込んだ説得力のある事業計画書づくりが採否を左右します。準備には2か月ほどを見込み、早めに動き出すことが成功への近道です。資金計画や計画書づくりに迷う場合は、創業融資にくわしい専門家に相談しながら進めると安心です。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























