
整骨院が運転資金の融資を申請する手順と、必要額を逆算する考え方
患者さんは来ているのに、口座の残高が思ったほど増えない。スタッフを1人増やしたら、翌月から資金繰りが急に苦しくなった——。開業して数年の整骨院・接骨院で、こうした相談は少なくありません。
整骨院の運転資金の話題は、開業前の「創業融資」として語られることがほとんどで、すでに営業している院が運転資金をどう申請するかを扱った情報は多くありません。この記事では、開業1〜3年目の個人事業の整骨院・接骨院を想定して、運転資金が不足しやすい構造、必要額の逆算のしかた、申請先の選び分け、そして申請の段取りを整理します。
金利や制度の内容は2026年8月時点で公表されている情報にもとづくものです。制度も金利も見直されるため、実際の申請時は必ず最新の情報を確認してください。
整骨院で運転資金が不足しやすい構造
整骨院の資金繰りが読みにくい最大の理由は、売上が立つタイミングと、お金が入るタイミングがずれることです。
保険請求分の入金には時間差があります
窓口で受け取る一部負担金はその日のうちに現金やキャッシュレスで入りますが、療養費の保険請求分は施術した月にまとめて請求し、審査を経てから入金されます。そのため、施術した月と入金される月の間に数か月単位の差が生まれます。
この時間差は、院の規模が大きくなるほど、また保険施術の比率が高いほど、必要な手元資金を押し上げます。売上が伸びている局面ほど資金が足りなくなる、といういわゆる増加運転資金の状態が起きやすいのが整骨院の特徴です。
固定費は毎月同じ額で出ていきます
一方で、家賃・スタッフの給与・リース料・広告費といった固定費は、入金の時期に関係なく毎月出ていきます。入金が数か月遅れる売上と、毎月出ていく固定費。この差を埋めるのが運転資金の役割です。
必要額を逆算する3つのステップ
「いくら借りればよいか」は、感覚ではなく手順で出せます。次の3ステップで組み立ててみてください。
ステップ1:毎月の固定費を洗い出す
家賃、スタッフの給与、社会保険料、リース料、水道光熱費、広告費、消耗品費などを1か月あたりで集計します。法人の場合、代表者への役員報酬は事業活動に必要な経費として運転資金の対象になります。個別の支出が資金使途として認められるかどうかの判断に迷う場合は、申請先や専門家に確認しながら整えるのが安全です。
ステップ2:入金までの空白期間を月数で置く
保険請求分が入金されるまでの月数を、直近の実績から確認します。ここは院ごとに条件が違うため、想像ではなく自院の入金実績で数えるのが重要です。
ステップ3:固定費 × 空白期間+余裕分で算出する
ステップ1の月額固定費に、ステップ2の月数を掛けたものが、最低限手元に置いておきたい金額の目安になります。そこに、季節変動や設備の急な故障に備えた余裕分を上乗せします。スタッフ増員や分院展開を予定しているなら、その分の人件費も見込んでおきます。
この積み上げは、そのまま申込時に説明する資金使途の根拠になります。「なんとなく500万円」ではなく「月◯◯万円の固定費 × ◯か月分+増員分」と説明できる状態が、審査の場でも通りやすい形です。
申請先は大きく3つ。性格がそれぞれ違います
日本政策金融公庫
政府系金融機関で、民間金融機関では対応が難しいケースにも積極的に取り組むのが特徴です。創業期向けの主力制度である新規開業・スタートアップ支援資金の融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)で、同資金を利用する場合の運転資金の返済期間は原則10年以内、元金返済の据置期間は5年以内で設定できます。据置期間中は利息のみの支払いになるため、入金の谷を越えるための時間を確保しやすくなります。
金利は2026年6月1日現在で、税務申告を2期終えていない時期の基準利率が年3.45〜5.15%、無担保で2期以上を終えている場合が年3.50〜5.20%です。創業期の方が利用する場合は、原則0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)の引下げが適用される可能性がありますが、適用可否は利用する制度や審査・条件により異なるため、必ず下がると考えず申請先で確認してください。
制度融資(自治体の融資あっせん)
自治体・金融機関・信用保証協会の三者が連携する仕組みです。ここを誤解している記事が多いのですが、お金の出し手は民間金融機関で、信用保証協会は保証を付ける役割、自治体は利子補給や預託などで関与します。信用保証協会から直接借りるわけではありません。自治体によって利子補給や保証料補助の内容が異なるため、院の所在地の制度を確認する価値があります。
マル経融資(小規模事業者経営改善資金)
商工会議所・商工会などの経営指導を受けていることが前提となる、小規模事業者向けの制度です。金利は特別利率Fが適用され、2026年6月1日現在で一律2.60%の固定と、ほかの選択肢と比べて低い水準に設定されています。地域の商工会議所・商工会に加入し、経営指導を受けている整骨院であれば、運転資金の調達手段として検討する価値があります。
「税務申告2期」が条件の分かれ目になります
見落とされやすいのが、税務申告を2期終えているかどうかで扱いが変わる点です。
公庫が案内する「創業期の方」とは、新たに事業を始める方、または事業開始後に税務申告を2期終えていない方を指します。この時期であれば、原則として無担保・無保証人で各種融資制度を利用でき、前述の利率引下げの対象にもなります。なお、この引下げは担保の有無によって対象が変わるものではありません。
逆に2期を終えた後は、通常の融資として決算の内容が本格的に見られる領域に入ります。開業から2年前後の院であれば、どちらの区分に自院がいるのかを先に確認してから動くと、選ぶ制度も準備する書類も変わってきます。
なお、創業期であっても決算書をまったく見ないわけではありません。一期でも決算が締まっていればその決算書が確認されますし、代表者が別に会社を経営している場合はその会社の決算書も確認の対象になります。
申請の流れとスケジュールの目安
運転資金の申請は、次のような流れで進みます。
1. 必要額と資金使途を固める
前述の3ステップで金額の根拠を整理します。ここが曖昧なまま面談に進むと、金額の妥当性を説明できずに時間を使うことになります。
2. 書類を準備する
事業計画書や資金繰りの見通し、確定申告書・決算書、試算表、自己資金や入出金の状況が分かる資料などが中心になります。審査では、事業計画書と自己資金などをもとに総合的に判断されます。自己資金については、制度上の額や割合の要件が決まっているわけではありませんが、審査の重要な判断材料になります。
3. 面談と審査を受ける
面談では、患者数の推移、保険施術と自費施術の割合、増員や設備投資の計画などを、数字で説明できるようにしておくと話が早く進みます。
4. 融資実行
書類提出後、おおむね3週間から1か月程度が実行までの目安です。書類の準備期間を含めると、合計で2か月程度を見ておくと安全です。資金が尽きてから動き始めると間に合いません。手元資金が数か月分を切ったあたりが、動き出す目安になります。
よくあるご質問
Q. 開業のときに借りた融資が残っていても、追加で運転資金を借りられますか
返済中でも追加の申込みは可能です。ただし、既存の借入の返済状況と、追加後の返済総額を事業が支えられるかが見られます。直近の試算表や資金繰りの見通しをそろえて、返済しながら回せる根拠を示せるように準備してください。結果は個別の状況によって変わるため、早めに申請先へ相談することをおすすめします。
Q. 一度審査に落ちると、次回の審査に影響しますか
日本政策金融公庫は個人信用情報機関に加盟していますが、審査に落ちたこと自体が信用情報公庫内には審査に落ちた記録が残ります。そのため次の審査では、落ちたことを考慮に入れた形になるため、慎重に扱われる可能性があります。
Q. 否決された直後にすぐ再申請してもよいですか
原因を潰さずに再申請しても、結果は変わりません。自己資金不足、事業計画の説得力不足、資金使途の根拠不足など、否決の理由を具体的に特定し、そこを改善したうえで再申請することが必要です。
Q. 設備の導入もあわせて考えています。融資とリースはどちらがよいですか
リースには初期費用を抑えられるメリットがある一方で、次のようなデメリットもあります。
- 連帯保証人が必要になる
- 機器の所有権が持てない
- 契約期間中の中途解約が難しい
- 故障時の修理負担が借主側になる契約が多い
融資とリースのどちらが有利かは、資産計上の考え方や資金繰りの状況によっても変わるため、賃貸借費用の負担も含めて税理士や金融機関に相談しながら判断することをおすすめします。
まとめ
整骨院の運転資金は、保険請求分の入金に時間差があるという構造上、売上が伸びている局面でこそ足りなくなりがちです。だからこそ、必要額は感覚ではなく「月額固定費 × 入金までの月数+余裕分」で逆算し、その根拠をそのまま申請時の説明に使うのが近道になります。
申請先は、日本政策金融公庫・制度融資・マル経融資という性格の違う3つの選択肢があり、税務申告を2期終えているかどうかで使える条件も変わります。申請から実行までは準備を含めて2か月程度かかるため、手元資金に余裕があるうちに動き始めてください。金利や制度の内容は変わりやすいので、検討を始める段階で最新の情報を確認し、判断に迷う部分は専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
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融資を受けるには何から始めればいいの?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























