
歯科ユニットの増設に補助金は使えるか|金額と法人格で決まる対象判定
チェアをもう1台増やしたい、古くなったユニットを入れ替えたい。歯科医院の設備投資で相談が集中するのがユニット(歯科診療台)です。「補助金が使えるなら今年度のうちに」と考えたくなりますが、ユニットは補助金ともっとも相性が悪い設備のひとつです。
理由は制度の設計にあります。保険診療にかかる経費・機器は、国が助成するほかの制度である公的医療保険(診療報酬)と重複するため、経済産業省・中小企業庁系の補助金では原則として補助対象外とされているからです。この記事では、2026年度に検討しうる制度の補助上限・補助下限・補助率という「数字」から、自院のユニット増設がそもそも土俵に乗るのかを判定していきます。数字は2026年8月時点の公募要領および社内リファレンスに基づくもので、公募回ごとに変わります。
出発点は「原則対象外」。例外は2制度だけ
歯科医院向けの補助金記事は「使える制度一覧」の形で書かれていることが多く、そこにはたいてい複数の制度が並びます。ただ、一覧に載っている制度がユニットにも使えるかというと、そうではありません。
保険診療にかかる経費・機器は、経済産業省・中小企業庁系の補助金では原則として補助対象外です。新事業進出・ものづくり商業サービス補助金、中小企業成長加速化補助金、小規模事業者持続化補助金は、いずれもこの原則が働きます。そのなかで例外的に対象になり得るのは、中小企業省力化投資補助金(一般型)とデジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)の2つに絞られます。
ここで注意したいのが、中小企業省力化投資補助金にはカタログ注文型と一般型の2つがあり、例外として挙がるのは一般型だけという点です。既製品をカタログから選んで導入するカタログ注文型は例外に含まれないため、保険診療で使うユニットの増設を前提に検討する制度ではありません。「省力化投資補助金は歯科でも使える」という説明を見かけたときは、どちらの型を指しているのかを必ず確認してください。
数字で見る|ユニット増設で名前が挙がる制度の上限・下限・補助率
制度の可否を感覚で判断すると迷いが残るので、金額の数字で並べます。
| 制度 | 補助上限 | 補助下限 | 補助率 | 保険診療にかかる経費・機器 |
|---|---|---|---|---|
| 中小企業省力化投資補助金(一般型) | 従業員5人以下750万円〜101人以上8,000万円(大幅賃上げ特例適用時は最大1億円) | 単価50万円(税抜)以上の機械装置等を最低1つ | 中小企業1/2(賃上げ特例適用時2/3)、小規模事業者2/3 | 例外的に対象になり得る |
| デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金) | 通常枠は最大450万円(下限5万円) | 通常枠5万円 | 通常枠1/2以内(最低賃金近傍の事業者は2/3以内) | 業務効率化なら保険・自費を問わず対象。診療機器そのものは対象になりにくい |
| 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 革新的新製品・サービス枠 | 5人以下750万円/6〜20人1,000万円/21〜50人1,500万円/51人以上2,500万円(大幅賃上げ特例で最大3,500万円) | 100万円 | 中小企業1/2(小規模・再生事業者等は2/3) | 原則対象外。誓約書で保険診療に使う機械設備は申請しないと誓約する |
| 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 新事業進出枠 | 20人以下2,500万円/21〜50人4,000万円/51〜100人5,500万円/101人以上7,000万円(大幅賃上げ特例で最大9,000万円) | 750万円 | 中小企業1/2(小規模・再生事業者等は2/3) | 原則対象外 |
| 小規模事業者持続化補助金 | 250万円 | ― | 公募回・枠による | 公募要領(第20回)で「保険適用診療にかかる経費」を対象外と明記 |
上限額として広く知られている3,500万円・9,000万円という数字は、最大の従業員規模に大幅賃上げ特例を適用した場合の最大値です。無条件の上限ではないため、従業員10名前後の歯科医院が革新的新製品・サービス枠を見るなら、実際に視野に入るのは1,000万円の側です。
補助下限が、ユニット1〜2台の投資をふるいにかける
上限額よりも先に効いてくるのが補助下限です。新事業進出・ものづくり商業サービス補助金には枠ごとに補助下限が設定されており、革新的新製品・サービス枠は100万円、新事業進出枠は750万円です。補助率が1/2であれば、新事業進出枠に乗せるには単純計算で1,500万円規模の投資が必要になります。ユニット1〜2台の増設を想定した投資額で、この枠の土俵に上がるのは現実的ではありません。
逆に、投資額が小さい側では小規模事業者持続化補助金(上限250万円)が候補に見えますが、こちらは公募要領で「保険適用診療にかかる経費」が対象外と明記されています。保険診療で使用する機械はもちろん、保険診療の宣伝を兼ねるチラシなども、経費区分を問わず対象外です。金額の下側からも上側からも、保険診療のユニットは制度の隙間に落ちる構造になっています。
省力化投資補助金(一般型)を見るときの3つの数字
例外の本命である中小企業省力化投資補助金(一般型)は、医療機関にとって扱いが変わった制度です。2026年3月の第6回公募要領改訂で「診療報酬・介護報酬との重複がある事業は補助対象外」という規定が撤廃され、診療報酬を受けていること自体は申請の障壁ではなくなりました。
そのうえで、この制度を検討するときに見る数字は3つあります。
- 単価50万円(税抜)以上の機械装置等を最低1つ導入すること
- 3〜5年の事業計画で労働生産性を年平均+4.0%以上伸ばすこと
- 事業実施期間は交付決定日から18か月以内
金額だけを見ればユニットは1つ目の条件を満たしやすい設備です。ところが、この制度でつまずくのは金額ではなく設備の性質のほうです。
「オーダーメイド性」がユニット単体の増設をはじく
一般型の対象は、ICT・IoT・AI・ロボット等を活用した専用設備など、オーダーメイド性のある設備です。汎用設備であっても、導入環境に応じて周辺機器や構成する機器の数、搭載する機能等が変わる場合や、複数の汎用設備を組み合わせてより高い省力化効果・付加価値を生む場合には、オーダーメイド設備とみなされて対象になります。
逆に、単に汎用設備を単体で導入する事業は対象になりません。単価50万円以上という要件を満たしていても、それだけでは足りないということです。カタログから選んだユニットを1台そのまま増設するという計画は、この判定にもっとも引っかかりやすい形になります。ユニットを起点にするのではなく、診療の動線と工程をどう作り替えるのか、周辺機器やシステムとどう組み合わせて人手を減らすのかを、事業計画の側から組み立てる必要があります。
あわせて、労働生産性の目標には賃上げ要件が伴い、未達の場合は達成率に応じて返還が発生しうる制度です。補助額の大きさだけで選ぶと、制度選択そのものがリスクになります。
法人格で可否が変わる。歯科は「例外の例外」がある
もうひとつ、金額と同じくらい結論を左右するのが法人格です。中小企業省力化投資補助金(一般型)では、第7回公募から歯科医業を営む医療法人が補助対象に追加されました(従業員300人以下等の要件があります)。歯科医業以外の医療法人は引き続き対象外で、個人開業医(個人事業主)は従来から要件を満たせば対象です。
つまり、同じユニット増設でも、個人開業医・歯科医業の医療法人・それ以外の医療法人で入口の可否が分かれます。小規模事業者持続化補助金については、そもそも医療法人は対象者に含まれません。「歯科は対象」「医療法人は対象外」という短い言い切りはどちらも正確ではないため、法人格×診療科×公募回の組み合わせで、最新の公募要領の「補助対象者」と「補助対象外となる事業」の両方を確認してください。
なお、個人開業医が採択後に医療法人へ法人成りすると、処分制限期間中に補助対象者の要件を満たさなくなり、補助金の返還リスクが生じます。法人化を数年内に考えている医院は、この点も含めて時間軸を整理しておくと判断しやすくなります。
💬 執筆者の三浦から一言
機種を先に決めてから使える制度を探す順番だと、間に合わないことがあります。どの制度も交付決定より前の契約・発注は対象外になるため、見積りを取って発注まで進めた時点で選択肢が消えます。投資額と目的で制度を絞る、公募回の締切を確認する、そのうえで機種と見積りを固める。この順で動くと話が早いです。
ユニット増設の資金を実際にどう組むか
ここまでの数字を踏まえると、ユニット増設そのものに補助金を当てる前提で資金計画を組むのは危うい、というのが実務的な結論になります。現実的な組み立ては次の順序です。
- ユニット本体は自己資金と融資で組むことを基本線に置く。補助金は精算払いで、交付決定から入金までの資金は先に用意する必要があります
- 省力化できる工程を切り出す。受付・会計・予約・滅菌など、ユニット増設に伴って人手が足りなくなる工程を洗い出し、中小企業省力化投資補助金(一般型)の事業計画としてまとまるかを検討する
- ITツール側はデジタル化・AI導入補助金を見る。レセコン・電子カルテ・予約管理などの業務効率化は保険・自費を問わず活用でき、通常枠は最大450万円・補助率1/2以内です(ハードウェア単体購入は対象外)
- 自治体の医療設備整備の制度も併せて確認する。保険診療で使う医療機器そのものを対象にする制度は、経済産業省系ではなく厚生労働省・自治体の系統にあります。制度名・対象機器・要件は所在自治体で異なるため、都道府県・市区町村の担当課に確認してください
よくある質問
自費診療専用のユニットなら対象になりますか
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金では、保険診療に使用する機械設備は申請しないという誓約が求められ、利用できるのは個人事業主かつ自由診療に限られます。したがって自費診療専用という整理は入口としては成立し得ます。ただし、補助金で導入した機器を後から保険診療に流用すると目的外使用となり、返還リスクが生じます。運用まで含めて分けきれるかが判断の分かれ目です。
いつまでに動けば2026年度の公募に間に合いますか
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の第1回公募は2026年6月29日から2026年9月30日18時締切、採択発表は2026年12月頃です(公募要領1.0版)。制度ごとに回次と締切が異なるため、検討している制度の最新の公募要領で確認してください。
ユニットを複数台まとめて入れ替えるなら対象になりますか
台数が増えれば投資額は上がりますが、中小企業省力化投資補助金(一般型)の判定は金額ではなくオーダーメイド性です。同じ設備を単体で複数台入れるだけでは、汎用設備の単体導入という評価から抜け出せない可能性があります。周辺機器やシステムとの組み合わせで省力化効果をどう説明できるかが実質的な論点になります。
まとめ
歯科医院のユニット増設は、保険診療にかかる機器という性格から、経済産業省・中小企業庁系の補助金では原則として対象外の側に置かれています。例外として検討できるのは中小企業省力化投資補助金(一般型)とデジタル化・AI導入補助金の2制度で、カタログ注文型はこの例外に含まれません。
そのうえで、革新的新製品・サービス枠の補助下限100万円、新事業進出枠の補助下限750万円、持続化補助金の上限250万円と保険適用診療の経費除外という数字を並べると、ユニット単体の投資は制度の隙間に落ちやすいことが見えてきます。省力化投資補助金(一般型)を狙うなら、単価50万円以上・労働生産性年平均+4.0%以上・交付決定日から18か月以内という3つの数字に加えて、オーダーメイド性の判定を越えられる事業計画が必要です。
法人格によって入口が変わり、公募回によって要件も動く領域です。ユニットの機種選定より前に、自院の法人格と投資額で使える制度があるのかを整理しておくと、遠回りせずに済みます。判断に迷う段階でご相談いただければ、制度の当てはめから資金の組み方まで一緒に整理します。
【無料相談のご案内】
弊社では、補助金専門行政書士法人V-Spiritsが補助金支援を行っております。元補助金審査員の三浦を中心とした各種専門家チームが全面的にサポートいたします。このケースは補助金の対象になるのか?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。無料相談も行っているので、ぜひいちどご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
三浦高/Takashi Miura
元創業補助金(経済産業省系補助金)審査員・事務局員
中小企業診断士、起業コンサルタント®、
1級販売士、宅地建物取引主任者、
融資・資金調達コンサルタント
行政書士法人V-Spirits 補助者
産業能率大学 兼任教員
2024年現在、各種補助金の累計支援件数は300件を超える。
融資申請のノウハウも蓄積し、さらに磨きを掛けるべく日々事業計画書に向き合っている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























