
搬送ライン自動化に使える補助金|対象になる投資とならない投資の境界線
工程間の運搬に人手を取られ、加工や検査に人を回せない。そんな状態を解消するために、コンベアや無人搬送車(AGV)を入れて搬送ラインを自動化したい、という相談が増えています。
結論から申し上げると、搬送ラインの自動化に使える補助金はあります。ただし「搬送機を1台買うので、その費用を補助してほしい」という組み立て方のままでは、要件に届かず対象外と判断されやすいのが実情です。制度の側が求めているのは機器そのものではなく、現場をどう作り替えて生産性を上げるかという設計だからです。
この記事では、搬送ライン自動化で候補になる補助金を整理したうえで、対象になる投資とならない投資の境界線、制度の選び分け方、申請でつまずきやすい落とし穴を解説します。なお本文の内容は2026年7月時点の公募要領等に基づくものです。制度は改定されることがあるため、申請時には必ず最新の公募要領をご確認ください。
搬送ラインの自動化で候補になる補助金は主に3つ
搬送・運搬工程の自動化投資で検討対象になるのは、次の3制度です。まずは全体像を押さえてください。
中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型)
公的に登録された省力化製品のカタログから選んで導入するタイプです。補助上限は1,500万円(大幅賃上げ計画を盛り込む場合)で、汎用性と省力化効果が認められた既製の搬送機器を、スピード重視で導入したいときに向いています。
入口の条件として、中小企業等が販売事業者と共同で申請することが求められ、単独申請は原則できません。ここを知らずに自社だけで準備を進めてしまい、締切間際に慌てるケースがあります。
中小企業省力化投資補助金(一般型)
カタログにない設備・システムを、自社の事業内容やレイアウトに合わせて導入するタイプです。補助上限は1億円と大きく、搬送だけでなく前後の工程を含めて作り替えるような投資に向いています。搬送ライン自動化では、実務上この一般型が本命になるケースが多い制度です。
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 革新的新製品・サービス枠
2026年度から「ものづくり補助金」と「新事業進出補助金」は統合され、正式名称は「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」になりました。そのうち革新的新製品・サービス枠は、自社の技術力等を活かして新製品・新サービスを開発する取組を支援する枠です。
補助上限は従業員規模別で、1〜5人が750万円、6〜20人が1,000万円、21〜50人が1,500万円、51人以上が2,500万円です(大幅賃上げ特例の適用時は順に850万円・1,250万円・2,500万円・3,500万円)。補助下限は100万円、補助率は中小企業者が2分の1、小規模企業・小規模事業者・再生事業者は3分の2です。
コンベアやAGVを1台入れるだけでは対象にならない理由
ここが多くの記事で触れられていない、最も重要な分かれ目です。省力化投資補助金(一般型)で対象になるのは「オーダーメイド性のある設備」であり、ICT・IoT・AI・ロボット等を活用した専用設備等が想定されています。
ただし、汎用設備が一律に排除されるわけではありません。次のいずれかに該当すれば、汎用設備であってもオーダーメイド設備とみなされて対象になります。
- 省力化に資する汎用設備を複数組み合わせることで、より高い省力化効果や付加価値を生み出す場合
- 事業者の導入環境に応じて、周辺機器や構成する機器の数、搭載する機能等が変わる場合
逆に言えば、単に汎用設備を単体で導入する事業は対象外です。一般型には「単価50万円(税抜)以上の機械装置等を最低1つ入れる」という設備投資要件がありますが、この金額要件を満たしていても、それだけでは足りません。複数設備の組み合わせなどでオーダーメイド性を示す事業計画が必要になります。
つまり「カタログで見つけたAGVを1台導入する」という計画は、金額の大小にかかわらず一般型では通りにくいということです。搬送機に加えて、昇降・移載の機構、位置検知のセンサー、生産管理システムとの連携までを一体で設計し、自社の動線に合わせて構成が変わることを示せるかどうかが判断の軸になります。
カタログ注文型と一般型はどちらで申請すべきか
同じ搬送設備でも、投資の組み立て方によって適する制度が変わります。次の3つの軸で切り分けてください。
軸1:導入したい機器がカタログに登録されているか
カタログ注文型は、カタログに登録された省力化製品を導入することが前提です。カタログ製品以外の設備やオーダーメイド系の機器は、一般型の対象になります。
軸2:構成が自社の現場に合わせて変わるか
製品をそのまま設置して完結するなら注文型、周辺機器の数や機能が現場ごとに変わるなら一般型が筋です。前述のオーダーメイド性の判定基準が、そのまま線引きになります。
軸3:生産性・賃上げ要件の重さを許容できるか
カタログ注文型は、労働生産性(付加価値÷従業員数)を年平均成長率3.0%以上向上させる計画が必要で、計画未達時には減額規定があります。一般型は3〜5年の事業計画で労働生産性を年平均4.0%以上伸ばす計画が必要となり、賃上げ目標が要件で、未達の場合は達成率に応じて返還が発生しうる設計です。
搬送の自動化は、人を減らすのではなく空いた人手を付加価値の高い工程へ回す投資になりがちです。人数を維持したまま付加価値額をどう伸ばすかを数字で描けないと、要件が重い一般型はかえってリスクになります。
投資の中身で選び分ける3つのパターン
実際の相談で多い3パターンに当てはめて整理します。
パターンA:既製の搬送機を1台導入し、まず現場の負担を減らしたい
カタログ注文型が第一候補です。メリットは、製品が登録済みで要件の見通しが立てやすく、生産性要件も年平均3.0%以上と一般型より緩やかな点です。デメリットは補助上限が1,500万円にとどまること、そして販売事業者と共同で申請する必要があるため、組む相手を先に決めなければ動き出せないことです。
パターンB:搬送に前後工程と管理システムを組み合わせて作り替えたい
一般型が本命になります。メリットは補助上限1億円という規模と、自社の動線に合わせた構成をそのまま計画にできる点です。デメリットは、労働生産性年平均4.0%以上という要件の重さと、賃上げ未達時に返還が発生しうる点です。オーダーメイド性を説明する材料が揃っているかを、計画づくりの前に確認してください。
パターンC:新製品の量産体制づくりの一部として搬送を自動化したい
革新的新製品・サービス枠が候補になりますが、条件は厳しめです。この枠は新製品・新サービスの開発を伴わない単なる設備・システム導入は対象外とされており、既存製品・サービスの生産プロセス改善も本枠では対象外です。さらに、同業で既に相当程度普及している新製品・新サービスの開発も対象になりません。
したがって「今の製品をもっと速く安く作るために搬送を自動化する」という組み立てでは、この枠は成立しません。新しい製品そのものが主役で、その量産に不可欠な設備として搬送設備が位置づけられる場合に限られると考えてください。
搬送ライン自動化の補助金申請でつまずく4つの落とし穴
1.交付決定前に発注・契約してしまう
交付決定前の発注・契約・購入は対象外です。搬送ラインはレイアウト設計から据付まで工程が長いため、「早く着工したい」という現場の要請に押されて内示や仮発注に踏み切ってしまう事故が起きやすい領域です。見積取得までは進めてよいものの、発注は交付決定の後というルールを社内で共有しておいてください。
2.工事費をどこまで含められるか読み違える
一般型の対象経費は機械装置・システム構築費が必須の柱で、ここには専用機械・装置、検査工具、専用ソフト・情報システムのほか、導入と一体の軽微な据付・改良等が含まれます。あわせて運搬費、技術導入費、知的財産権等関連経費、専門家経費、クラウドサービス利用費(補助事業専用の利用が前提)も対象になり得ます。
一方、搬送ラインを通すための建屋の基礎工事や大規模な建物改修は、設備そのものの費用とは性質が異なります。見積書の段階で設備費と建物工事費を分けておかないと、後から対象経費が想定より小さくなり、補助下限や投資計画とかみ合わなくなります。
3.そもそも申請できる事業者かを確認していない
一般型では、みなし大企業に該当する、直近3年の課税所得年平均が15億円超である、実態が確認できない、従業員が0名である、外部任せで主体性がない、といったケースが対象外になりやすい例として挙げられています。親会社の出資比率など、資本関係の確認は早い段階で済ませておくのが安全です。
4.要件と数字の設計を後回しにする
賃上げと労働生産性の要件は、採択後も数年にわたって効き続けます。未達時に減額や返還が生じる制度である以上、「取れたら嬉しい」ではなく「達成できる計画か」を先に検証する必要があります。搬送自動化で削減できる工数を、どの工程の増産や新規受注に振り替えて付加価値額に変えるのかまで描けて初めて、計画として成立します。
よくある質問
Q.中古の搬送設備でも補助金の対象になりますか
制度や公募回によって扱いが異なり、中古品には別途の条件が付くことが一般的です。搬送設備は中古流通も多い分野ですので、検討している機器が対象になるかは、申請予定の公募要領の対象経費の項で個別にご確認ください。
Q.複数の補助金を同じ設備に使えますか
国・公的制度との二重受給は認められていません。同じ設備・同じ経費を複数の制度に計上することはできませんので、投資全体をどの制度でどこまでカバーするかを、申請前に切り分けておく必要があります。
Q.申請までにどれくらいの準備期間が必要ですか
電子申請にはGビズIDプライムが必須で、アカウント取得には一定の期間がかかります。参考として、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の第1回公募集は2026年6月29日に開始され、締切は2026年9月30日18時、採択発表は2026年12月頃とされています。設備の仕様確定と見積取得の時間も見込むと、締切の2〜3か月前には動き出しておきたいところです。
まとめ
搬送ラインの自動化は、補助金と相性のよい投資テーマです。ただし対象になるかどうかは、機器の種類ではなく投資の組み立て方で決まります。
- 既製品をそのまま入れるならカタログ注文型(上限1,500万円・販売事業者との共同申請が原則)
- 周辺機器や構成が現場ごとに変わるなら一般型(上限1億円・オーダーメイド性の説明が必須)
- 新製品の開発が主役なら革新的新製品・サービス枠(生産プロセス改善だけでは対象外)
そして共通の注意点は、交付決定前に発注しないこと、設備費と建物工事費を分けておくこと、賃上げと労働生産性の要件を先に検証しておくことの3点です。どの制度で組むべきか判断に迷う段階でこそ、投資計画と一緒に相談していただくのが結果的に近道になります。
【無料相談のご案内】
弊社では、補助金専門行政書士法人V-Spiritsが補助金支援を行っております。元補助金審査員の三浦を中心とした各種専門家チームが全面的にサポートいたします。このケースは補助金の対象になるのか?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。無料相談も行っているので、ぜひいちどご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
三浦高/Takashi Miura
元創業補助金(経済産業省系補助金)審査員・事務局員
中小企業診断士、起業コンサルタント®、
1級販売士、宅地建物取引主任者、
融資・資金調達コンサルタント
行政書士法人V-Spirits 補助者
産業能率大学 兼任教員
2024年現在、各種補助金の累計支援件数は300件を超える。
融資申請のノウハウも蓄積し、さらに磨きを掛けるべく日々事業計画書に向き合っている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























