
店舗の収支シミュレーションはどう作るか|融資の申込で見られるのは金額ではなく数字の出どころです
既存店の試算表から収支の見通しを組み直す手順|月次で並べ、下振れまで併記する
店舗の収支シミュレーションは、テンプレートに数字を入れれば形にはなります。ところが、そのまま融資の申込に持っていくと、面談で聞かれるのは合計欄の利益ではなく、その手前の数字がどこから来たのかという話になります。
この記事は、開業から数年が経ち、試算表や月次の売上が手元にある店舗の経営者に向けて書いています。既に事業が動いている場合、その実績は計画の実現可能性を裏づける材料にもなれば、計画との乖離が続いていれば説明を求められる材料にもなります。実績は両方向に効くので、手元の数字をどう置き直すかで見え方が変わります。以下では、収支の見通しを作るときに分かれ道になる4か所を、置き方の違いとして並べます。なお制度や運用は変わりやすいため、本文は執筆時点の情報として読んでください。
金融機関が見ているのは、合計の利益より手前の部分です
融資の審査では、事業経験、自己資金、事業計画の具体性、資金使途と調達額の整合、信用情報などをもとに判断されます。このうち収支シミュレーションが関わるのは「事業計画の具体性」で、中身は売上・原価・人件費の根拠と、返済の原資をどこから確保するかです。
言い換えると、見られているのは金額の大きさではなく、その金額に至った筋道のほうです。利益の欄が大きく出ている表と、根拠の書かれた表が並んだとき、後者のほうが話が進みます。ここから先は、その筋道が切れやすい4か所を順番に見ていきます。
分かれ道1|売上を年商から逆算するか、客数と客単価に割るか
収支表でいちばん先に埋めたくなるのが売上です。ここで「年商これくらいは欲しい」という金額を先に置き、12で割って月次に流すと、表としては成立しますが根拠がありません。
もう一方の置き方は、客数×客単価×営業日数に分解する形です。既存店であれば、この3つはすべて手元の数字から取れます。直近12か月の平均客数、レジデータから出した客単価、実際の営業日数です。分解しておくと、伸ばす前提を置くときにも「客単価を上げるのか、客数を増やすのか、営業日を増やすのか」のどれで伸ばすのかが表の上に残ります。面談で説明を求められるのは、まさにこの部分です。
席数や施術枠のように上限がある業態では、満席や満枠に近い数字を置いていないかも見ておきます。物理的な上限を超える売上は、根拠として成立しません。
分かれ道2|原価と人件費を業界平均で置くか、自店の実績比率で置くか
原価率や人件費率は、業種ごとの目安が出回っています。手元に実績がない段階ではその目安を使うことになりますが、既に営業している店舗であれば、自店の試算表から出した比率のほうが根拠として強く働きます。
そのうえで、売上が伸びる前提を置いたときに費用がどう動くかを分けて考えます。原価は売上に連動して増えますが、家賃は増えません。人件費は、シフトを増やす分は連動し、社員の給与は連動しません。この連動する費用と連動しない費用の区別を表の上で分けておくと、売上の前提を動かしたときに費用が自動で追随し、計画全体の整合が崩れにくくなります。
分かれ道3|年計で1本引くか、月次で並べるか
年間の合計だけを1行で示した表は、季節の谷が平均に溶けて見えなくなります。閑散期に手元が細る業態でも、年計では黒字のまま表示されます。
月次で並べると、売上の谷と、支払いが重なる月と、返済が始まる月の位置関係が見えます。融資の申込では、借りた資金がどの月にどう使われ、返済の原資がどの月の利益から出るのかを説明することになります。年計の1行からは、この説明が組み立てられません。行を12本に増やす手間はかかりますが、増やしたぶんがそのまま説明の材料になります。
💬 執筆者の小峰から一言
信用金庫で融資を出す側にいたころ、収支表を作り込めばそれで審査は決まると受け取られている場面がよくありました。実際には、斯業経験、自己資金、事業計画の具体性、資金使途と調達額の整合、信用情報などをもとに判断されます。収支表はそのうちの一つを支える材料なので、表だけを厚くするより、資金使途や調達額との整合まで一続きで説明できる状態にしていただくほうが話が早く進みます。
分かれ道4|1本の計画で出すか、下振れを併記するか
収支シミュレーションを1本だけ作ると、その数字が実現する前提でしか話ができません。計画どおりに進まなかったときにどうするのかを聞かれた時点で、答える材料が表の中にない状態になります。
そこで、同じ表の隣にもう1本、客数が1割落ちた場合の列を置きます。そのとき月次の残高がどこまで薄くなるか、どの月が最も細るかを出しておくと、必要な運転資金の金額にも根拠がつきます。下振れを見せると印象が悪くなると考えて省く方がいますが、実務では逆で、下振れを織り込んだうえで手元が持つと説明できる計画のほうが、話が前に進みます。
下振れの列を作るときは、動かす数字を1つに絞ります。客数と客単価と原価率を同時に悪化させると、どの要因で手元が細ったのかが読めなくなり、対策の話にもつながりません。客数だけを落とした列、原価率だけを上げた列というように、要因ごとに1列ずつ作ると、どの数字が自店にとって効きやすいのかが見えます。効きやすい数字が分かれば、月次で追いかける指標もその1つに絞れます。
4か所の手前にある前提|収支表と申込額がつながっているか
ここまでの4か所は、収支表そのものの置き方の話でした。もう一つ、表の外側で切れやすいつなぎ目があります。借り入れる金額が何に使われ、その支出が表のどの行を動かすのか、という部分です。
たとえば厨房機器や什器の入れ替えで設備資金を借りるなら、その投資が入る月と、投資後に原価率や人件費がどう変わる想定なのかが、同じ表の上に載っている状態にします。運転資金であれば、どの月の資金の谷を埋めるための金額なのかが月次の行から読めるようにします。表と申込額が別々の紙に分かれていると、金額の根拠を口頭で補うことになり、説明の密度が落ちます。
逆に、この対応がついていれば、なぜその金額なのかという問いに表を指しながら答えられます。資金使途と調達額の整合は審査で見られる項目の一つでもあるため、収支シミュレーションを作る段階でここまで含めておくと、あとから資料を作り直す手間が減ります。
手元の数字から組み直す順番
ここまでを作業の順に並べます。
1. 直近12か月の試算表から、客数・客単価・営業日数、原価率、人件費のうち連動する部分と連動しない部分を取り出します。
2. 売上を客数×客単価×営業日数で組み直し、伸ばす前提を置くならどの要素で伸ばすのかを1行のメモとして残します。
3. 費用を連動する分と固定の分に分け、売上の前提に合わせて動くようにします。
4. 12か月ぶんを月次で並べ、返済が始まる月と支払いが重なる月を同じ表に載せます。
5. 客数を1割落とした列を作り、最も手元が細る月の残高を確認します。
この5つが揃うと、資金使途と調達額の整合まで同じ表で説明できるようになります。
まとめ
店舗の収支シミュレーションで差がつくのは、表の形式やテンプレートの精度ではなく、売上・原価・人件費をどの根拠で置いたかと、下振れをどこまで表に載せたかです。既に営業している店舗なら、その根拠は手元の試算表から取り出せます。年計を月次に割り、下振れの列を1本足すところまでを、融資の申込に向けた準備として進めてください。
数字の置き方や資金使途の整理で判断に迷う箇所が出たら、申込先や専門家に相談しながら整えていく方法もあります。作った表をもとに、次に動かす1か月ぶんの数字から手を付けていただければと思います。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























