
保育施設の内装・改修費は創業融資の対象になるか|設備資金としての組み立て方
保育施設の開業準備で、想定より膨らみやすいのが内装・改修の費用です。保育室の床や壁、調理室、便所、避難経路まわりと、工事会社から出てきた見積を見て「この金額を創業融資でまかなえるのだろうか」と手が止まる場面があります。
結論から言えば、事業に必要な支出であれば資金使途として組み立てられます。ただ、そこで終わらせてしまうと、後から返済期間や借入枠のところで窮屈になることがあります。内装・改修費は「設備資金」として扱う費用で、運転資金とは返済期間も枠も別だからです。
この記事では、保育施設の内装・改修費を創業融資でどう組み立てるかを、資金使途の区分という切り口で整理します。数字は執筆時点(2026年8月)のもので、制度や利率は変わりやすいため、申し込みの際は最新の公式情報をご確認ください。
内装・改修費は「設備資金」として扱う費用です
創業時の代表的な選択肢は、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です。融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)で、原則として無担保・無保証人での借り入れが可能です。審査では、事業として創業した実績がなくても、事業計画書と自己資金などをもとに判断されます。
資金使途は「事業に必要な支出」であることが前提です。保育室や調理室の造作、給排水や電気の工事、床の張り替えといった内装・改修は、その施設で保育を提供するために必要な工事なので、設備資金として組み立てることになります。
ここで押さえておきたいのが、限度額の内訳です。7,200万円のうち運転資金は4,800万円という枠になっています。つまり設備資金と運転資金は、同じ財布の中で自由に振り替えられるものではありません。どちらに何を載せるかは、申し込みの段階で決まります。
設備資金と運転資金では、返済期間が変わります
区分を分けて考える実務的な理由はここにあります。新規開業・スタートアップ支援資金を利用する場合の返済期間は、資金使途によって次のように示されています。
| 資金使途 | 返済期間 | 据置期間 |
|---|---|---|
| 設備資金 | 20年以内 | 5年以内 |
| 運転資金 | 10年以内 | 5年以内 |
設備資金は20年以内、運転資金は10年以内です。数百万円から一千万円規模になりやすい内装・改修費を運転資金の側にまとめてしまうと、設備20年、運転10年で借入れできた場合返せる期間が半分になり、毎月の元金返済がその分重くなります。工事の費用を設備資金として整理する意味は、金額の話というより、返済の設計の話です。
据置期間はどちらも5年以内で希望することができ、据置中は利息のみの支払いになります。保育施設は開園してすぐ定員が埋まるとは限らず、児童数が積み上がるまでに時間がかかることがあります。開園直後のキャッシュフローをどう持たせるかは、据置の使い方とあわせて考えることになります。
保育施設の見積は、性質の違う費用が1枚に混ざりやすい
実務でつまずきやすいのが、工事会社から出てくる見積の粒度です。「内装工事一式」でまとまっていると、そのままでは資金使途の区分に落とせません。保育施設の開業準備で動くお金は、性質で分けるとおおむね3つに分かれます。
- 施設そのものに手を入れる工事:保育室・調理室・便所・手洗い・避難経路まわりの造作、給排水・電気・空調の工事、床や壁の仕上げ
- 施設に置くもの:ロッカーや棚などの什器、遊具、寝具、保育備品、調理設備、園庭・屋外遊具
- 開園までに動く費用:開園前に採用した保育士の人件費、研修、募集広告、印刷物
前の2つは設備資金として組み立てる性質のもの、3つ目は運転資金の性質を持つものです。ところが工事会社の見積では、1つ目と2つ目が同じ紙に一体で載っていることがよくあります。また、園庭の整備や外構が「その他工事」としてひとまとめになっていることもあります。
申し込みの前に、工事会社へ「区分ごとに分けた内訳で出してほしい」と伝えておくと、あとの整理が楽になります。金額が同じでも、内訳が見える形になっているかどうかで、計画書の書きやすさが変わります。
見積書が出せる状態になっているか
創業融資の申し込みで揃える書類は、創業計画書・自己資金のエビデンス・見積書などが中心です。設備資金を申し込むときは、その金額の裏付けとして見積書が必要になります。
保育施設の場合、この見積書が出せる状態になるまでに時間がかかることがあります。工事の仕様は、施設として満たすべき基準や自治体との事前相談の内容によって動くことがあり、仕様が固まらないと工事会社も金額を出せません。見積が出ないと設備資金の申し込みが進まない、という順番になります。
申請から融資実行までは、書類提出後おおむね3週間から1か月が目安です。書類を整える時間を含めると、準備に1か月、審査・実行に1か月で、合計2か月程度を見ておくと安全です。保育施設の場合は、この2か月の手前に「仕様を固めて見積を取る期間」が乗ると考えて逆算することになります。
なお、施設の基準や必要な手続きは、施設の類型や自治体によって扱いが分かれます。工事の内容を決める前に、管轄の窓口と、必要に応じて許認可に詳しい専門家に確認しておくと、工事のやり直しを避けやすくなります。
自己資金はどう見られるか
内装費が膨らむと、自己資金がどれくらい必要になるのかが気になるところです。この点について、制度上、自己資金の額や割合の要件は決まっていません。かつての「新創業融資制度」にあったような固定の要件は、現行の制度にはない形です。
一方で、自己資金の額は審査の重要な判断材料になります。額や割合の決まりはないものの、自己資金が多いほど審査で有利になりやすい、という関係です。自己資金は、面談の時点で口座に確認できる形にしておきます。
また、創業前に自費で取得した資格や、購入した設備・備品、テストマーケティングの費用などは、みなし自己資金として一定の範囲で評価されることがあります。工事の着手金や、先に買った保育備品を自分の資金で支払っているケースは保育施設でも起こりますので、領収書を必ず保管しておきます。
💬 執筆者の小峰から一言
信用金庫で融資を出す側にいたころ、内装の見積が総額一行だけで出てくると、金額の妥当性より先に「工事の中身がまだ動くのだろうか」という受け止め方をしていました。同じ金額でも、内訳が分かれているものは、事業者側で話が詰まっている状態が伝わります。金額を削る工夫より、内訳を動かない形にしておくほうが、面談での説明はずっと楽になります。
金利・担保・決算書はどうなるか(2026年8月時点)
2026年6月1日現在の基準利率は、創業期(税務申告を2期終えていない時期)に利用する場合で年3.45〜5.15%です。創業期の方が利用する場合は、原則0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)の引下げが適用される可能性がありますが、適用可否は利用する制度や審査・条件により異なるため、必ず下がると考えず申請先で確認してください。元金返済の据置期間は5年以内で希望でき、据置中は利息のみの支払いとなります。
担保については、創業期の方は原則として無担保・無保証人で各種融資制度を利用できます。
もう一点、法人を設立して申し込む場合の注意です。創業融資は事業として創業した実績がなくても申し込めますが、決算書をまったく見ないわけではありません。新しく設立した法人であっても、一期でも決算が締まっていれば、その決算書が確認されます。代表者が別に会社を経営している場合は、その会社の決算書も確認の対象になります。保育事業のために法人を先に作ってから開園準備を進めるケースでは、この点も踏まえて説明できるように整理しておくと安心です。
まとめ
保育施設の内装・改修費は、事業に必要な支出として創業融資の資金使途に組み立てられます。押さえておきたいのは次の3点です。
- 設備資金として整理する:返済期間が設備資金20年以内、運転資金は10年以内と分かれるため、区分の付け方で毎月の負担が変わります。限度額7,200万円のうち運転資金は4,800万円という内訳もあります
- 見積を性質ごとに分ける:施設への工事、置く什器・備品、開園前に動く費用は性質が違います。工事会社に区分ごとの内訳で出してもらいます
- 見積が出るまでの時間を織り込む:申請準備1か月+審査・実行1か月の手前に、仕様を固めて見積を取る期間が乗ります
本記事の数字は2026年8月時点の情報にもとづくもので、利率や制度の条件は見直されることがあります。実際の資金使途の区分や借入額の組み立ては、施設の規模や工事の内容によって判断が分かれるところですので、見積の内訳を手元に置いたうえで、申請先や専門家と一緒に整理されることをお勧めできる領域です。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























