
宅建業免許と創業融資は、同じ内容を二度書く申請になります
不動産会社を立ち上げるとき、宅地建物取引業の免許申請と創業融資の申込みは、ほぼ同じ時期に parallel して進みます。このとき行政書士に依頼するメリットを「書類を代わりに作ってもらえること」だと捉えると、依頼する意味の半分を取りこぼします。
2つの申請は、提出先も様式も審査する人も別です。ところが書く対象は重なっています。事務所のこと、人のこと、お金のこと。同じ実体について別々の紙に書くため、片方の前提が変わるともう片方が崩れます。この記事では、免許側と融資側で何が重なっているのかを整理し、専門家に依頼する場面をどこに置くと組み直しが減るのかを扱います。融資の数字は執筆時点の社内参照資料と日本政策金融公庫の公開情報に基づくもので、申込み前には最新の公式情報でご確認ください。
不動産会社の創業は、2つの申請を同時に抱えます
1つは宅地建物取引業の免許です。日本政策金融公庫が公開している不動産業の創業ポイントでは、不動産業を営業するには宅地建物取引業の免許を取得することが要件になると説明されています。免許は1つの都道府県に事務所を設置する場合は都道府県知事、2つ以上の都道府県にまたがる場合は国土交通大臣の免許で、有効期間は5年です。
もう1つが創業融資です。日本政策金融公庫の主力制度は「新規開業・スタートアップ支援資金」です。2024年3月までの名称は「新規開業資金」で、2024年4月から現在の名称に改称・拡充されました。無担保・無保証の特例だった「新創業融資制度」は2024年3月に廃止されているため、古い記事で見かける制度名のまま相談に行くと話が噛み合いません。融資限度額は7,200万円で、そのうち運転資金は4,800万円です。
この2つは独立した手続きに見えます。免許は都道府県の担当部署、融資は公庫の支店が相手です。それでも、書く内容は同じ会社の同じ実体を指しています。
免許と融資で重なるのは「事務所・人・お金」の3つです
公庫の公開情報をもとに、免許側で問われる項目を並べてみます。ここが融資側の記載とどう重なるのかが、この記事の中心です。
- 事務所:事務所ごとに、宅地建物取引業に係る契約を締結する権限を有する使用人を置くことが必要とされています。融資側では、同じ物件の賃料や内装費が開業資金として資金使途に並びます。免許の要件を満たさない形の事務所を前提に資金計画を組むと、両方を作り直すことになります。
- 人:事務所や案内所等には一定の数の専任の宅地建物取引士を置く必要があり、配置基準は事務所の場合は業務に従事する者5人に1人以上、案内所等の場合は1人以上とされています。専任性は「常勤すること」と「宅地建物取引業に専ら従事する状態にあること」の2つを満たす形です。融資側では、この人の人件費が運転資金に関わります。人件費は事業活動に必要な経費として運転資金の対象になります。
- お金:営業保証金を供託する場合は、主たる事務所1,000万円、従たる事務所は1か所につき500万円を法務局に預けます。宅地建物取引業保証協会に加入する場合は、主たる事務所60万円、従たる事務所30万円を弁済業務保証金分担金として納めます。どちらを選ぶかで、開業時に動く現金の性質そのものが変わります。
3つ目は特に、融資側の説明と直結します。供託は預ける形、分担金は納める形で、開業時の資金の出方が異なります。どちらの道を選ぶのかが決まっていない状態では、資金使途の説明を固めきれません。
行政書士に依頼する価値は、代筆ではなく前提を揃えることです
ここまで整理すると、依頼する意味が見えてきます。免許側の要件は、事務所の形と人の配置をほぼ決めてしまいます。そして決まった形が、そのまま融資側の賃料と人件費の数字になります。つまり順番があります。免許の要件を満たす形を先に固め、その形を前提に融資の数字を置く、という順番です。
逆の順番で進めると何が起きるか。先に「この賃料なら返せる」という発想で物件を決め、あとから免許の要件に合わないと分かる。あるいは「開業当初は自分ひとりで回す」という計画を先に書き、あとから専任の宅地建物取引士の配置と噛み合わなくなる。どちらも、片方を直せばもう片方の数字が動きます。
行政書士は許認可申請を専門とする士業です。免許側の要件を先に確定させ、融資の申込内容と食い違いが出ていないかを突き合わせる役回りを頼めます。免許の取扱いは都道府県などの許可権者によって異なる場合があるため、公庫の公開情報でも事前に申請先へ確認し、必要書類や手続の流れを把握しておくよう案内されています。この確認を代わりに進めてもらえること自体が、単なる書類作成の代行とは別の価値になります。
なお、会社設立の登記手続きは司法書士、開業後の税務処理は税理士がそれぞれ担う領域です。不動産会社の立ち上げはこれらが同時に走るため、どの士業がどこを担当するのかを最初に確認しておくと、手戻りが起きにくくなります。
💬 執筆者の小峰から一言
仲介の実務を長く担当してきた方が、その経験をそのまま実績として書かれることがあります。金融機関側から見ると、そこで問われているのはご本人が事業として創業した実績の有無で、勤務先での取引経験とは別の欄の話です。両者を分けて説明しておくと、面談での話が早く進みます。
融資側で確認しておく数字と条件
免許側の形が固まったら、融資側の条件を当てはめます。2026年6月1日現在の基準利率は、創業期(税務申告を2期終えていない時期)に利用する場合で年3.45〜5.15%です。創業期の方が利用する場合は原則0.65%、雇用の拡大を図る場合は0.9%の引下げが適用される可能性がありますが、適用可否は利用する制度や審査・条件により異なります。下がることを前提にせず、申請先でご確認ください。元金返済の据置期間は5年以内で設定され、据置中は利息のみの支払いとなります。
返済期間は、新規開業・スタートアップ支援資金を利用する場合の例として、設備資金が20年以内、運転資金が原則10年以内、据置期間はいずれも5年以内とされています。開業資金の規模については、公庫の公開情報で初期資金はおおむね300万円から800万円程度、内装や情報通信の環境を整備する場合は1,000万円前後になることもあると示されています。
審査の面では、事業として創業した実績がなくても、事業計画書と自己資金などをもとに判断されます。判断材料はこの2つに限られるものではなく、経験や資金使途、面談の内容も含めて総合的に見られます。また、創業融資だからといって決算書を見ないわけではありません。代表者が別に会社を経営している場合は、その会社の決算書も確認の対象になります。申込みから融資実行までは、書類提出後おおむね3週間から1か月が目安で、準備を含めると合計2か月程度を見ておく形になります。
まとめ
不動産会社の創業では、宅地建物取引業の免許申請と創業融資の申込みが、事務所・人・お金という同じ実体について別々の様式で進みます。行政書士に依頼する価値は書類の代筆ではなく、免許側の要件を先に確定させ、融資側の記載と食い違いが出ないように揃えるところにあります。免許の要件は許可権者によって取扱いが異なる場合があるため、事前の確認を含めて任せられる相手を早い段階で決めておくと、資金計画の組み直しが減ります。数字と条件は執筆時点のものなので、申込み前には申請先で最新の情報をご確認ください。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























