
樹脂・鋳造で独立するときの設備資金、本体価格の見積では届かない場所
射出成形や鋳造の現場で腕を身につけて独立する方から、資金の相談を受ける機会があります。話を聞いていくと、詰まっている場所はほとんど同じです。成形機や溶解炉の見積は手元にあるのに、その金額を申し込めば工場が動き出す状態になるのかが、自分でも確信を持てていません。設備が重い業種では、機械の本体価格と「生産できる状態にするまでの合計」がずれます。この記事では、樹脂成形・鋳造で独立する方が創業融資の申込額を組むときに取りこぼしやすい四つの場所を挙げます。
樹脂・鋳造の独立は、資金の話だけが見つからない
この分野の独立について調べると、出てくるのは求人情報、成形メーカーの沿革、成形工法の技術解説、そして「プラスチック成形での起業は難しいですか」という質問そのものです。飲食や美容のように「開業資金はいくら、内訳はこう」という情報がまとまっている業種と違い、樹脂・鋳造は資金の話だけがほとんど書かれていません。工法の情報は豊富なのに、その工法を自分の看板で始めるときの金額の組み方が空白になっています。以下は、その空白を埋めるために現場で確認している内容です。
取りこぼし1:見積が「本体価格」で止まっている
射出成形機や溶解炉は、単体で置いても製品が出てきません。樹脂であれば材料乾燥機、金型温調機、冷却水をつくる装置、材料の搬送装置、成形品の取出装置、粉砕機といった周辺の機器が組み合わさって、はじめて一台のラインになります。鋳造であれば集塵や排気、砂の処理設備がこれに加わります。
さらに、機械を据える側の工事があります。基礎、搬入とクレーン、受電容量の見直しと電気工事、圧縮空気の配管。これらは機械メーカーの見積書には載っていないことが多く、別の業者から取ることになります。本体の見積だけで申込額を決めると、この部分が丸ごと申込額の外側に出ます。
申込むときは、設備資金と運転資金を分けて出します。新規開業・スタートアップ支援資金を利用する場合の例として案内されている返済期間は、設備資金が20年以内、運転資金が原則10年以内、据置はいずれも5年以内です。返す時間の長さが資金の種類で違うので、内訳をどちらに置くかは金額の話だけで終わりません。
💬 執筆者の小峰から一言
順番の話をひとつ。融資は書類を出してから実行までおおむね3週間から1か月、準備を含めると合計2か月程度を見ておく時間軸です。見積を1回取り直すと、この2か月がそのまま後ろへずれます。本体の見積を先に取って周辺を後から足すより、必要な機器の一覧を先に固めてから各社に投げるほうが、結果として開業予定日を守りやすくなります。
取りこぼし2:金型を誰が持つかを決めないまま数字を出す
樹脂成形では、金型が誰の資産なのかで必要な資金が大きく動きます。取引先から支給または貸与される前提なら自社の設備資金には乗りませんが、自社で持つ前提なら型ごとに費用が発生し、扱う品番が増えるほど積み上がります。鋳造の木型や金型も同じ構造です。
前職で日常的に使っていた型は前職の資産なので、独立時に持ち出せません。この点を曖昧にしたまま「まずは一台」と機械の金額だけを固めてしまうと、受注が決まった段階で型の費用が後から出てきます。最初に受ける仕事の型が誰の持ち物になるのかを、資金の数字を作る前に確認しておくと、設備資金の総額が途中で動きません。
取りこぼし3:独立前に自分で払った分を自己資金に数えていない
創業前に自費で取得した資格・設備や備品の購入、テストマーケティングの費用などは、みなし自己資金として一定の範囲で評価されることがあります。領収書を保管しておく必要があります。
この業種の方は、独立前に中古の小型成形機やハンドリング用の治具、ノギスやマイクロメータといった測定具を自費で買っていたり、技能講習や資格の受講料を自分で払っていたりします。これらを単なる過去の出費として処理してしまい、自己資金の欄に何も反映されていないケースがあります。
前提として、制度上、自己資金の額や割合の要件は決まっていません。旧「新創業融資制度」にあった自己資金1割の要件のような固定のルールは、現行制度にはない形です。一方で自己資金の額は審査で見られる材料として大きく効きます。面談の時点で口座に確認できる形にしておき、金額そのものよりも、その資金がどう積み上がったのかを説明できる状態にしておきます。審査では、事業として創業した実績がなくても、事業計画書と自己資金などをもとに判断されます。
💬 執筆者の小峰から一言
よく聞かれるのが「まだ実績がないので決算書は出せませんが問題ありませんか」という質問です。創業融資だから決算書を見ない、ということはありません。新しく設立した会社でも、一期でも決算が締まっていればその決算書が確認されますし、代表者が他に会社を経営している場合は、その会社の決算書も確認の対象になります。手元にある分は先に整理しておくと話が早く進みます。
借りられる枠と、返す時間の長さ
最後に、前提となる制度の輪郭を整理します。日本政策金融公庫の主力となる創業融資は「新規開業・スタートアップ支援資金」です。2024年3月までの名称は「新規開業資金」で、2024年4月から現在の名称に改称・拡充されました。無担保・無保証の特例だった「新創業融資制度」は2024年3月に廃止されています。
融資限度額は7,200万円で、そのうち運転資金は4,800万円です。2026年6月1日現在の基準利率は、創業期(税務申告を2期終えていない時期)に利用する場合で年3.45〜5.15%です。創業期の方が利用する場合は、原則0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)の引下げが適用される可能性がありますが、適用可否は利用する制度や審査・条件により異なるため、必ず下がると考えず申請先で確認してください。なお、この引下げは担保の有無によって対象が変わるものではありません。創業期の方は原則として無担保・無保証人で各種融資制度を利用できます。
まとめ
樹脂成形・鋳造での独立は、機械の本体価格が目立つぶん、そこで数字が固まったように感じます。実際に確認したいのは、周辺機器と据付・動力工事まで含めた合計額、金型を誰が持つのか、独立前の自費支出が自己資金として整理されているか、そして最初にどの形で事業を始めるのか、の四つです。
ここに挙げた金額や利率は、2026年6月1日現在の案内および執筆時点で確認できる情報に基づくものです。制度や金利は変わることがあるため、申請前には日本政策金融公庫の公式情報で最新の内容を確認してください。設備の内訳をどう資金使途に割り付けるかで迷ったときは、見積が出そろった段階で一度専門家に相談すると、組み直しの手間が減ります。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
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- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
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