
「求人を出しても応募がほとんどない。来てもすぐ辞めてしまう」
「採用に時間とお金をかけているのに、事務所のマンパワーがいっこうに増えない」
社労士事務所の経営者から、こうした相談が増えています。採用難は税理士事務所と同じように見えて、実は社労士事務所特有の構造的な問題が絡んでいます。さらに、「採用を改善しようとすること自体が間違いのスタート地点だった」という事務所が少なくありません。
本記事では、都内の社労士法人・社労士事務所5社、口コミ総数約220件(エン カイシャの評判掲載データ)の分析結果と、V-Spiritsグループが自社の社労士法人で実践して離職が劇的に減った3つの施策をもとに、今日から取り組める採用・定着の改善策を解説します。
社労士事務所の採用が難しい「本当の理由」
社労士事務所の採用競合は、もはや同業の他事務所だけではありません。人事コンサルティング会社・社労士SaaS企業・大手企業の人事部門がリモートワーク可・高待遇で社労士有資格者の獲得を積極化させています。
加えて、社労士事務所には業界特有の採用ハードルがあります。
一つは「所長ガチャ」問題です。口コミデータを横断して最も特徴的だったのが、所長・代表者の人柄への言及の多さです。少人数事務所では代表者の方針が職場環境のほぼすべてを左右するため、求職者は「所長がどんな人か」を最大の判断軸にしています。この情報が求人票から見えない事務所は、口コミサイトで徹底的に調べられた上で応募見送りになります。
もう一つが「社労士なのに自社の労務制度が古い」問題です。労務管理の専門家集団であるにもかかわらず、フレックスなし・リモートなし・評価基準不明確という事務所は、「看板と中身が違う」と求職者に判断されます。この矛盾は一般企業以上に評判ダメージが大きく、口コミに書かれやすい傾向があります。
採用がうまくいかない5つの原因と今日からできる対策
原因1:テレワーク対応が「本気ではない」と見透かされている
口コミデータで社労士事務所に対する求職者のニーズとして最も強く現れたのが、テレワーク・柔軟勤務への需要です。税理士法人以上に切実な要望として、複数の事務所の口コミに繰り返し登場します。
- 「在宅勤務中心と聞いて入社したが、実際は週3回以上の出社を求められた」
- 「個人情報を扱うのでリモートは難しいと言われたが、他の事務所はできている」
- 「育児中なのでリモートで応募したが、入社後に条件が変わった」
在宅勤務を基本とする事務所は、給与水準が高くなくても「子育てとの両立ができる」「遠方から働ける」として求職者から高く評価されています。一方で「検討中」「難しい」という状態の事務所は、リモート対応済みの競合にそのまま人材を奪われています。
✅ 対策:「どこまでリモートできるか」を具体的に示す
完全リモートでなくてもかまいません。「通常期は週3日在宅・繁忙期は週1日在宅」「個人情報はVPN+セキュリティソフトで対応」のように、対応の具体的な中身と仕組みを開示することが信頼感につながります。「対応検討中」のままにしておくことが最も機会損失が大きい状態です。
原因2:応募が来ても「対応の遅さ」でファンを失っている
実は、採用がうまくいかない社労士事務所の多くは「応募が来ていないのではなく、応募者を逃している」状態です。口コミデータでは応募後の対応について、以下のような声が散見されます。
- 「応募から1週間以上連絡がなかった。その間に別の事務所に決めた」
- 「書類選考通過の連絡がテンプレートメールで、志望度が下がった」
- 「面接の案内が事務的で、この事務所に入りたいという気持ちが薄れた」
求職者は複数の事務所に同時応募しています。連絡が遅い事務所、対応が事務的な事務所は、選考中に他社に決断を奪われます。
✅ 対策:応募から24時間以内の個別メッセージ返信
「応募書類を拝見しました。〇〇さんのキャリア背景に関心を持っています」という一文だけでも、求職者の事務所への印象は大きく変わります。テンプレートではなく、応募者の職歴や志望動機に触れた個別メッセージが「この事務所は自分を見てくれている」という感覚を生みます。詳しくは後述のV-Spirits実践事例をご覧ください。
原因3:面接で「ミスマッチ」を見抜けていない
「採用してみたら思っていた人と違った」という問題は、採用基準の曖昧さと、面接での見極め不足から来ています。社労士事務所の仕事は、几帳面さ・コミュニケーション力・ストレス耐性・継続学習意欲など複合的な資質が求められますが、通常の面接だけでこれらを判断することは困難です。
口コミデータでは、早期退職した元社員のコメントに「自分の特性と仕事内容が合っていなかった」「業務のプレッシャーに自分が向いていなかった」という内省が多く含まれています。これは採用側・求職者側の双方にとって不幸な結果です。
✅ 対策:面接前に適性検査を導入し、ミスマッチを事前に防ぐ
面接の前段階で適性検査を受けてもらうことで、求職者の特性・ストレス耐性・仕事スタイルを客観的に把握できます。採用側の「この人は合いそう」という感覚に加えて、データによる裏付けが入ることで、ミスマッチによる早期退職を防ぐことができます。V-Spiritsでの実践事例は後述します。
原因4:評価制度が「所長の気分次第」になっている
口コミデータで社労士事務所に特徴的だったのが、評価への納得感の欠如です。大手税理士法人のような制度的な問題ではなく、少人数事務所ゆえの「評価が所長の主観に依存しすぎている」という問題が根本にあります。
- 「毎年昇給あると書いてあったが、基準がわからない」(A事務所)
- 「頑張った分だけ評価されると聞いていたが、上司の気に入りが影響する」(B法人)
- 「見込み残業代込みの給与体系で、実質最低賃金に近い」(C事務所)
「所長の顔色を見て働く職場」という評判が口コミに残ると、求人票の内容がどれだけ良くても、応募前に見送られます。
✅ 対策:昇給・評価の基準を「言語化して開示」する
【評価基準の開示例(社労士事務所版)】
昇給の3つの評価軸:
① 担当顧問先数・対応業務の難易度
② 社労士試験科目合格数・資格取得状況
③ 顧問先満足度・更新率
モデル年収(例):
入社1年目:○○○万円(試験勉強中・給与計算担当)
入社3年目:○○○万円(社労士登録済み・顧問先○社担当)
入社5年目:○○○万円(上席担当・後輩指導あり)
原因5:「幅広い業務経験ができる」という強みを伝えられていない
社労士事務所の求職者、特に資格取得を目指している層や転職初回の層は、「一通りの社労士業務を経験できる場所」を強く求めています。給与計算・社会保険手続き・就業規則作成・助成金申請・労務相談など、幅広い業務に携われる少人数事務所の強みは、大手には真似できない差別化軸です。
しかし口コミデータを見ると、この強みが求人票・採用ページで十分に伝わっていない事務所がほとんどです。「幅広い業務」という一言で済まされており、「具体的にどんな業務を、入社何年目から担当できるのか」が見えません。
✅ 対策:入社後のキャリアパスを「時系列で」見せる
【キャリアパス記載例(採用ページ用)】
入社〜3ヶ月:給与計算・社会保険手続きの基礎(先輩と並走)
〜1年:顧問先10社程度を独立担当。労務相談への一次対応開始
〜2年:就業規則の作成・改定、助成金申請に携わる
〜3年:社労士試験合格後、登録。担当顧問先の拡大と後輩のOJT指導
社労士試験の勉強との両立事例:昨年度の科目合格者○名
採用に強い社労士事務所がやっていること——チェックリスト
【求人票・採用対応チェックリスト】
☐ テレワーク対応の有無と条件(時期・頻度・セキュリティ対策)を明記している
☐ 応募から24時間以内に個別メッセージで連絡している
☐ 昇給・評価の基準(何をすれば上がるか)を文字で記載している
☐ 入社後のキャリアパスを時系列で示している
☐ 所長・代表者の人柄や経営方針がページや求人票から伝わる
☐ 残業時間を繁忙期・通常期に分けて正直に記載している
☐ 育休・産休の取得実績と復帰率を数字で示している
☐ 面接前または選考中に適性・特性を確認する仕組みがある
8項目中5項目以上に✅がついていれば、採用の土台は整っています。3項目以下の場合、採用よりも前に改善すべき課題が構造的にある可能性が高いです。
チェックが3つ以下だった事務所へ
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V-Spirits実践事例:離職が劇的に減った3つの施策
ここからは、V-Spiritsグループの社労士法人が自社の採用・定着課題に向き合い、実際に実践して効果が出た施策をご紹介します。「社労士事務所の経営者として、自分たちの事務所で試した」という一次情報です。
施策1:応募対応の「個別化」と「迅速化」——応募者をファンにする
以前のV-Spirits社労士法人では、応募者への最初の連絡が「書類選考の結果をお知らせします」という定型メールでした。応募から返信まで2〜3日かかることもありました。
改善したのは2点です。①応募から24時間以内に返信する、②応募書類を読んだ上で「○○さんの××という経験に関心を持ちました」という個別の一文を入れる、この2点だけです。
結果として変わったのは、面接辞退率です。定型メール時代には面接設定後の辞退が一定数ありましたが、個別メッセージに切り替えてから辞退率が大幅に低下しました。求職者から「こんなに丁寧に見てもらえる事務所だとは思っていなかった」という声も届くようになりました。
採用において「早さ」と「個別対応」は、求人票の内容と同じくらい重要な競争力です。求職者は複数の事務所に並行して応募しており、最初の接触で「この事務所は自分を見てくれている」と感じた事務所への志望度が高まります。
施策2:面接前の適性検査導入——「入ってから違った」をなくす
採用後3〜6ヶ月での退職が続いていた時期、V-Spirits社労士法人では面接だけでは判断できない「その人の特性」を把握するために、面接の前段階で適性検査を導入しました。
目的は「落とすため」ではなく「お互いのミスマッチを防ぐため」です。適性検査の結果を面接前に採用側が把握することで、「この方は几帳面さが強く、ルーティン業務に安定感を発揮する傾向がある。一方で急な変化には不安を感じやすい」といった特性を念頭に置いた面接ができます。
また、求職者側にとっても「自分の特性をちゃんと見た上で採用してくれた」という安心感が、入社後の定着に影響します。「なんとなく採用された」という感覚では、壁にぶつかったとき簡単に辞める判断につながります。
適性検査の導入以降、「思っていた仕事と違った」「自分の性格に合わなかった」という理由による退職がほぼなくなりました。
施策3:採用より先に「社内制度の改善」に着手——これが最大の効果
最も大きな変化をもたらしたのは、実は採用活動の改善ではありませんでした。採用改善に乗り出す前に、まず社内の定着環境を整えたことです。
当時のV-Spirits社労士法人には、採用した人材が定着しにくい構造的な問題がありました。評価基準が明文化されておらず、入社後のOJT設計がなく、1on1フィードバックの仕組みもありませんでした。これでは求人票を改善して応募数が増えても、入社後に同じ離職が繰り返されます。
取り組んだのは以下の3点です。
- 評価基準の明文化:担当顧問先数・難易度・資格取得状況を軸にした昇給テーブルを作成し、全員に開示
- 入社後フォローの仕組み化:入社3ヶ月間は週1回のメンター面談を設定し、業務上の不安を早期にキャッチアップ
- キャリアパスの可視化:「入社後5年でどこまで成長できるか」を具体的なロードマップとして提示
この社内制度の整備を先行させた結果、離職率が大幅に低下しました。そして「この事務所で長く働きたい」という既存スタッフの声が採用ページのコンテンツに変わり、口コミ評価も向上しました。採用と定着は別の問題ではなく、定着できる職場になって初めて採用活動が本当の意味で機能し始めます。
💡 V-Spirits実践から導き出した採用・定着の鉄則
「採用を改善する前に、定着できる職場になっているかを確認する」——これが最も費用対効果の高い採用戦略です。採用コストをかけ続けても離職が止まらない事務所の多くは、採用の問題ではなく定着の問題を抱えています。
「わかってはいるが、実行できない」の壁
ここまで読んで「やることはわかった」と感じた方も多いと思います。しかし実際に動き始めると、いくつかの壁に直面します。
評価基準の言語化は、所長・代表者が「自分の中にある評価の感覚」を棚卸しして文字にする作業です。多くの事務所で「暗黙知」になっているこの部分は、半日〜1日かけても言語化しきれないケースがあります。
応募対応の改善は、個別メッセージを毎回書くことになるため、採用担当者の工数が増えます。仕組みとテンプレートを作らないと継続できません。
適性検査の導入は、ツール選定・運用フロー設計・面接との連携設計が必要で、単独で導入しても使いこなせないケースが多いです。
そして最も難しいのは「採用よりも先に社内制度を整える」という判断です。「今すぐ人が欲しい」という切迫感の中で、「まず社内を整えましょう」という選択は、経営者にとって難しい決断です。
採用・定着の課題を一気に解決したい事務所へ
V-Spiritsでは、社労士事務所・社労士法人の
採用から定着まで一貫してサポートするコンサルティングを提供しています。
自社での実践経験をもとに、貴事務所の状況に合わせた優先順位でご支援します。
全国2,000社超の支援実績 / 税理士・社労士・行政書士がワンチームで対応
初回相談は無料・費用請求や強引な営業は一切なし
よくある質問
Q. 社労士事務所の採用で最も改善効果が高いのはどこですか?
口コミデータとV-Spirits自社の実践経験から、最も効果が高いのは「採用活動の改善より先に社内の定着環境を整えること」です。評価基準の明文化・入社後フォローの仕組み化・キャリアパスの可視化の3点を先行させると、採用コストをかけずに離職率が改善するケースが多くあります。
Q. テレワークを導入していない事務所は採用で不利ですか?
現状では不利な要因になっています。ただし完全リモートでなくても、「通常期は週2〜3日在宅可・個人情報はVPN対応で管理」のように対応の中身と仕組みを明示できれば、競争力を取り戻せます。「検討中」のまま放置することが最も機会損失の大きい状態です。
Q. 適性検査の導入は採用コストが増えませんか?
ツールによりますが、1人あたり数百円〜数千円程度のコストで導入できるものがほとんどです。一方で早期退職1件のコストは採用費・教育費・業務引き継ぎコストを含めると数十〜数百万円になります。ミスマッチによる退職を1件防ぐだけで十分に元が取れます。
Q. 応募から24時間以内の返信は、小規模事務所には現実的ですか?
現実的です。「24時間以内に個別メッセージを送る」という運用をするためには、事前にテンプレートのひな型を用意しておくことが重要です。「(氏名)さん、応募いただきありがとうございます。拝見したところ、○○(職歴・志望動機からの一文)という点に関心を持ちました」というフォーマットを作っておけば、実際の作業時間は5〜10分です。
Q. 採用活動を自社だけで改善するのが難しい場合はどうすればいいですか?
現状分析・求人票の改善・応募対応フローの設計・適性検査の導入・社内制度の整備まで、採用から定着まで一貫して外部に相談できる専門家を活用することを推奨します。V-Spiritsでは初回相談を無料で受け付けています。
本記事の分析は、エン カイシャの評判(https://en-hyouban.com/)に掲載された都内社労士法人・社労士事務所 5社、口コミ総数約220件のデータをもとに作成しています(分析実施:2026年4月)。V-Spirits実践事例は同グループ内での取り組みをもとにしたものです。各事務所・法人の現状を保証するものではありません。
公開日:2026年○月○日 最終更新:2026年○月○日
この記事を書いた人
坂井 優介(Yusuke Sakai)
起業コンサルタント® / 採用定着士 / 行政書士法人V-Spirits 補助者
1988年東京都生まれ。転勤族の父の影響で幼少期を愛知・長野・岩手・埼玉で過ごす。転入するたびに方言や文化の違いをからかわれつつも、1週間もあれば現地に溶け込む適応力を身につける。
大学在学中に公認会計士試験にチャレンジするも挫折し、アルバイト先だった埼玉の大手学習塾に就職。塾業界特有の過酷な労働環境の中でも10年間勤務を続けるが、成果を上げても給与が変わらない状況に限界を感じ、在職中に会計士試験に再挑戦。再び挫折するも、学んだ会計知識を活かせる職場を求めて転職活動を開始。2021年にV-Spiritsグループに参画し、2022年よりV-Spirits総合研究所の常務取締役に就任。
現在は、中小企業の経営者向けに補助金・助成金の支援から採用定着の仕組みづくりまで幅広く担当。「制度を使いこなす中小企業を増やす」をテーマに、現場に寄り添ったサポートを行っている。
役職:V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役 / 税理士法人V-Spirits 業務部長 / 社会保険労務士法人V-Spirits 業務部長
担当業務:経済産業省系補助金支援・厚生労働省系助成金支援・マーケティング・人事労務・採用定着支援
この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
起業コンサルタント(R)、経営コンサルタント、税理士、特定社会保険労務士、行政書士、サーティファイドファイナンシャルプランナー・CFP(R)、1 級FP技能士。大正大学招聘教授(起業論、ゼミ等)
V-Spiritsグループ創業者。税理士法人V-Spiritsグループ代表。東京池袋を本拠に全国の起業家・経営者さんを応援!「ベストセラー起業本」の著者。著書20冊、累計25万部超。経済産業省後援「DREAMGATE」で12年連続相談件数日本一。
【まるごと起業支援(R)・経営支援】
起業コンサル(事業計画+融資+補助金+会社設立支援)+起業後の総合サポート(経理 税務 事業計画書 融資 補助金 助成金 人事 給与計算 社会保険 法務 許認可 公庫連携 認定支援機関)など
【略歴】
経営者である父の元に生まれ、幼き頃より経営者になることを目標として過ごす。バブル崩壊の影響を受け経営が悪化。一家離散に近い貧困状況を経験し、「経営者の支援」をライフワークとしたいと決意。それに役立ちそうな各種資格を学生時代を中心に取得。同じく経営者であるメンターの伯父より、単に書類や手続を追求する専門家としてではなく、視野を広げ「ビジネス」の現場での経験を元に経営者の「経営そのもの」を支援できるような専門家を目指すようアドバイスを受け、社会人生活をスタート。大手、中小、ベンチャー企業、会計事務所等で営業、経理、財務、人事、総務、管理職、経営陣等、ビジネスの「現場」での充実した修行の日々を送ったあと、2007年に独立。ほかにはない支援スタイルが起業家・経営者に受け入れられ、経済産業省「DREAM GATE」にて、面談相談12年連続日本一。補助金・助成金支援実績600件超。ベストセラー含む起業・経営本20冊を出版。累計25万部超。無料相談件数は全国から累計3000件を超す。




























