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コラム

歯科医師の独立開業と創業融資|審査で見られるポイント【2026年版】

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歯科医師の創業融資の審査基準|人を見る部分と事業を見る部分に分けて整理する

歯科医師として何年も診療を続けてきた方が、いざ自院の開業資金を借りようとしたときに、いちばん戸惑うのが「審査基準」という言葉のあいまいさです。国家資格があり、勤務先での診療実績もある。それでも金融機関の担当者からは、資格や勤務年数とは別のことを聞かれます。

創業融資の審査は、一枚の採点表があってそこに点数が付く仕組みではありません。大きく分けると、申込む人そのものを見る部分と、これから始める事業を見る部分の2つがあり、歯科医師の強みが効く場所と効かない場所がはっきり分かれています。

この記事では、その分かれ目を3つの誤解の形で整理します。数字は2026年8月時点で確認できる情報に基づくものです。制度や金利は変わるため、申込みの際には日本政策金融公庫の公式情報でご確認ください。

誤解1:歯科医師の資格と勤務実績があれば、経験の面は問題ない

創業融資は、これから事業を始める方に向けた制度です。会社を経営した実績がないことは前提であって、それ自体がマイナスになるわけではありません。むしろ日本政策金融公庫の創業計画書には勤務先・勤務年数・役職を記入する欄があり、同じ業種での勤務経験(斯業経験)は評価される項目です。歯科医師として10年勤務してきたのであれば、この点は明確な強みとして扱われます。

誤解が生まれやすいのはその先です。評価されるのは「10年勤務した」という年数そのものではなく、その10年の中身が開業後の見通しをどこまで裏づけるか、という点にあります。資格と年数を書けば経験欄が埋まる、という感覚で臨むと、ここで説明が薄くなります。

勤務経験を「開業後の数字」に翻訳する

勤務医時代の実績は、そのまま売上予測の根拠になります。1日あたりの担当患者数、自費診療の割合、リコール率、得意な診療領域と設備の関係。こうした数字を挙げたうえで、開業後の患者数や単価をどう見込むのかにつなげると、事業計画書の説得力が変わります。逆に「経験豊富です」「地域に貢献します」といった書き方だけでは、審査担当者が数字を確認する材料になりません。

分院長や院長代行として、シフト管理・スタッフ採用・医院ごとの収支まで見ていた経験があるなら、それは「診療をしていた」ではなく「医院の運営に関わっていた」経験として書き分ける価値があります。どこまでを自分が判断していたのかを具体的に書けるかどうかが分かれ目です。

勤務医時代に触れにくい領域は体制で補う

一方で、資金繰り、税務、労務といった領域は、勤務医のままでは経験を積みにくい部分です。ここは無理に「経験がある」と書くより、開業後どう回すのかを体制として示すほうが自然に伝わります。歯科に強い税理士と顧問契約を結ぶ、レセプト業務の担当者を採用する、配偶者が事務を担当する、といった具体的な形です。誰が何を担うのかまで書けていれば、経験がないこと自体は問題になりません。

決算書を見られる場面もあります

創業融資だから決算書は関係ない、というわけでもありません。新しく設立した法人であっても、一期でも決算が締まっていればその決算書は確認されます。また、代表者が別に会社を経営している場合には、その会社の決算書も確認の対象になります。すでに関与している法人がある方は、その内容も踏まえて説明できるように整理しておくと話が進みやすくなります。

誤解2:自己資金は開業総額の10分の1が必須

「開業資金の10分の1は自分で用意しないと借りられない」という説明は、いまも広く流通しています。この数字の出どころは、かつて存在した「新創業融資制度」の要件です。同制度は2024年3月に廃止されており、現在の主力は日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です(2024年3月までの名称は「新規開業資金」)。

現行の制度では、自己資金の額や割合について要件は決まっていません。ただし自己資金の額は審査の重要な判断材料であり、多いほど有利になりやすいという関係は変わりません。「必須の割合はないが、見られてはいる」という位置づけです。

自己資金は、面談の時点で口座に確認できる形にしておくのが原則です。あわせて、開業前に自費で購入した機器や備品、取得した資格の費用などは「みなし自己資金」として一定の範囲で評価されることがあります。領収書は保管しておいてください。

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誤解3:見られるのは事業の話だけで、個人の借入は関係ない

歯科の開業は投資額が大きく、学生時代の奨学金や教育ローンが残ったまま開業の準備に入る方も少なくありません。ここで押さえておきたいのが、日本政策金融公庫は個人信用情報機関に加盟している、という事実です。事業の計画とは別に、申込む人自身の返済の状況は確認されます。

過去の延滞や債務整理が気がかりな場合は、CIC・JICC・全国銀行個人信用情報センター(KSC)の3機関で自己開示をして、いまどうなっているかを確認しておく方法があります。延滞が残っていれば完済し、登録が消える時期を確かめておくことになります。自己破産歴の登録期間は最長でも7年程度です(KSCの官報情報が2022年11月に10年から7年へ短縮されました。CIC・JICCは5年)。

過去に断られた記録はどう扱われるか

一度審査に落ちた場合、その事実そのものが信用情報機関の記録として残ることはありません。一方で、公庫の内部には審査に落ちた記録が残ります。そのため次に申込むときは、過去の経緯を踏まえて慎重に扱われる可能性があります。二度と借りられないという話ではありませんが、前回と同じ内容のまま出し直しても結果は変わりにくい、という見方をしておくのが現実的です。

小峰精公

💬 執筆者の小峰から一言

信用金庫で融資を出す側にいたころは、自己資金の欄を見るときに、金額そのものより先にどうやって貯まったお金なのかを確かめていました。勤務期間が長い方ほど、通帳の履歴で積み上がり方を説明しやすい面があります。面談の前に、いつどこから入ったお金なのかを自分の言葉で言えるように整理しておくと、話が前に進みます。

審査の前提になる数字を押さえる

審査の中身に入る前に、制度側の数字を確認しておきます。以下は日本政策金融公庫の国民生活事業で案内されている内容です。

  • 融資限度額:7,200万円(うち運転資金4,800万円)
  • 基準利率:2026年6月1日現在、無担保で税務申告を2期終えていない時期に利用する場合で年3.45〜5.15%。担保を差し入れる場合は年2.50〜4.80%
  • 創業期の利率引下げ:原則0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)の引下げが適用される可能性があります。この引下げは担保の有無を問いません。適用可否は利用する制度や審査・条件により異なるため、必ず下がると考えず申請先でご確認ください
  • 返済期間:設備資金は20年以内、運転資金は原則10年以内(新規開業・スタートアップ支援資金を利用する場合の例)
  • 据置期間:5年以内で設定でき、据置中は利息のみの支払いになります
  • 担保・保証人:創業期の方は原則として無担保・無保証人で利用できます

ここでいう「創業期の方」とは、新たに事業を始める方、または事業開始後に税務申告を2期終えていない方を指します。勤務医から独立する歯科医師は、この定義に当てはまることがほとんどです。

スケジュールは、書類提出後おおむね3週間から1か月で実行というのが目安です。創業計画書や自己資金の裏づけ、内装・機器の見積書をそろえる時間を含めると、準備1か月と審査・実行1か月で、合計2か月程度を見込む形になります。

面談の前に整えておく4つの材料

ここまでの内容を、準備する側の視点に置き換えると次の4点になります。

  1. 運営に関わった経験の書き分け:診療の経験と、人員・収支の判断に関わった経験を分けて書けるようにする
  2. 自己資金の中身:面談時点で口座に確認できる状態にし、みなし自己資金にあたる支出は領収書を残す
  3. 個人の返済状況:気がかりがあれば3機関で自己開示し、現状を把握しておく
  4. 資金使途の裏づけ:内装・ユニット・機器の見積書をそろえ、設備資金と運転資金の区分に沿って整理する

この4点は、どれも面談の場で新しく作れるものではありません。申込みの2か月前から動くという前提で逆算しておくと、慌てずに済みます。

よくあるご質問

Q. 勤務先に在籍したまま申込めますか

創業融資は、新たに事業を始める方も対象になっています。ただし、申込みから実行まで準備を含めて2か月程度かかるため、退職日・物件の引渡し・機器の納品といった日程との兼ね合いを先に確認しておくことになります。開業直後の返済負担が心配な場合は、据置期間(5年以内)の設定もあわせて相談する形になります。

Q. 一度審査に落ちると、次回の審査に影響しますか

日本政策金融公庫は個人信用情報機関に加盟していますが、審査に落ちたこと自体が信用情報に記録されることはありません。一方で、公庫内には審査に落ちた記録が残ります。そのため次の審査では、落ちたことを考慮に入れた形になるため、慎重に扱われる可能性があります。

Q. 医療法人を設立してから申込むほうが有利ですか

個人で営んでいる事業をそのまま法人化する、いわゆる法人成りの場合は、原則として創業融資の対象外になり、通常の融資の扱いになります。一方、これまでの事業とは別の新しい事業を行う法人を新たに設立する場合は、その法人にとっては創業にあたります。医療法人の設立や税務上の取り扱いは個別の判断が必要な領域ですので、設立の手続きや時期については税理士・司法書士等の専門家にご相談ください。

まとめ

歯科医師が独立開業するときの創業融資の審査は、次のように分けて考えると整理しやすくなります。

  • 人を見る部分:問われるのは事業として創業した実績の有無。診療の経験は、運営に関わった経験として書き分けることで初めて材料になります。個人の返済状況も確認の対象です
  • 事業を見る部分:事業計画書と自己資金などをもとに判断されます。自己資金は制度上の割合要件こそありませんが、額と、その成り立ちが見られます

資格と勤務年数は開業の土台ではありますが、それだけで審査の材料がそろうわけではありません。逆に言えば、足りない部分は準備でおぎなえる範囲にあります。本記事の数字は2026年8月時点で確認できる情報に基づくものです。実際の融資可否や条件は個別の審査で決まりますので、詳細は申請先や専門家にご確認ください。

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小峰

この記事を書いた人

小峰精公/Kiyotaka Komine

元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

多胡藤夫

この記事を監修した人

多胡藤夫/Fujio Tago

元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

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中野裕哲

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki

税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授

税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。

経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。

【対応領域】

税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。

中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。

【主な実績】

  • 起業支援・経営支援の豊富な実績
  • 起業相談件数3,000件以上
  • 資金調達支援1,000件以上
  • 大企業Webサイト多数監修
  • 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)

V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。

税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。

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