
「なぜ今、独立なのか」に口頭で答えるための動機メモの作り方
日本政策金融公庫の面談が決まったものの、「なぜ今、独立なのですか」と聞かれたら何と答えればいいのか、言葉が固まらないままになっていませんか。会社での役職もあり、家族もいる。貯金も約500万円用意した。それでも、動機を話そうとすると会社への不満ばかりが浮かぶ、という方は少なくありません。
この記事では、創業計画書を書き終えた方が、面談の場で口頭で答えられるように動機を整理する手順を紹介します。過去・現在・これからの3段階でメモを作り、計画書の数字と突き合わせ、声に出して確かめるところまでを順番に進めます。
面談で「なぜ今」と聞かれる理由と、答えの置きどころ
面談は計画書をもとにした質疑応答です
面談では、提出した創業計画書の内容について担当者から質問を受けます。創業の動機や経歴、事業内容、資金の使い道、自己資金の出どころなどを、自分の言葉で説明していく流れです。創業前は決算書などの実績がないため、書類だけでは分からない部分を本人との対話で確かめる場になります。面談の場で結果が告げられるわけではなく、その後も審査が続きます。
動機の答えは、審査で見られる項目につながっています
審査では、同じ業種での勤務経験、自己資金、事業計画の具体性、資金使途と調達額の整合、信用情報などをもとに判断されます。「なぜ今」という問いは、これらの項目をつなぐ入口として使われることが多い質問です。
3段のメモに当てはめると、次のように対応します。
- 過去の段は、同じ業種での勤務経験・勤務年数・役職の説明につながります。
- 現在の段は、今の時期を選んだ準備の状況と、自己資金をどう貯めてきたかの説明につながります。
- これからの段は、事業計画の具体性と、資金の使い道・調達額の説明につながります。
動機を気持ちの話だけで終わらせず、この3つの項目に結びつけておくと、追加で質問されても答えがぶれにくくなります。

💬 監修者の元日本政策金融公庫の支店長の多胡から一言
自己資金が多く、経験も豊富な方であれば、誰が審査しても迷いにくいものです。そうでない場合は、担当者が上に「私が責任を持って判断しました」と言える材料があるかどうかが大切になります。人柄や、独立に至った経緯のようなものです。あくまで私の審査経験にもとづく見方ですが、動機の話はその経緯の部分にあたると思って準備してください。
動機メモの作り方
ここからが本題です。紙かメモアプリを用意して、次の順番で書き出してみてください。
手順1 「離れる理由」と「向かう理由」を分けて書き出す
最初に、独立したい理由を思いつくまま書きます。そのうえで、会社を離れたい理由(評価への不満、人間関係、働き方など)と、その事業に向かう理由(やりたいこと、提供したい価値)を別の行に分けてください。
面談で話す軸にするのは、向かう理由のほうです。離れる理由が頭の中の大半を占めていても、メモの上で分けておくと、話すときに主従を取り違えにくくなります。
手順2 過去の段 これまでの経験を顧客の困りごとにつなぐ
今の会社でどんな仕事を何年担当し、どんな役割を担ってきたかを書きます。創業計画書の経験欄で問われるのは、同じ業種での勤務経験・勤務年数・役職です。まずはその事実を正確に書き出してください。
次に、その経験が「誰のどんな困りごとに役立つのか」を一文で書きます。たとえば「長く担当してきた仕事で、お客様がいつも同じ点で悩んでいた。それを解決する事業をやりたい」という形です。経験を並べるだけでなく、顧客の課題までつなげると、事業をやる必然性が伝わりやすくなります。
手順3 現在の段 なぜ「今」なのかを準備の積み上がりで書く
「今」の理由を、年齢への焦りではなく、これまでの準備で説明できる形にします。次の点を書き出してみてください。
- 独立を考え始めてから、何をしてきたか(情報収集、顧客になりそうな人への聞き取り、資格や技術の習得など)
- 自己資金をいつから、どのように貯めてきたか
- 家族にいつ、どのように話し、どんな反応だったか
自己資金については、制度上、額や割合の要件は決まっていません。ただ、自己資金の額は審査の重要な判断材料です。額に加えて、どう貯めてきたかの経緯も説明できるようにしておくと、「今」の理由に説得力が出ます。通帳は、面談の時点で自己資金を口座で確認できる状態にしておきましょう。
手順4 これからの段 事業の中身と資金の使い道を計画書と合わせる
これから何を、誰に、どのように提供するのかを書きます。そして、いくら必要でその資金を何に使うのかを、創業計画書の数字と照らして確認してください。資金使途と調達額が合っていることは、審査で見られる項目の一つです。
動機の話で「こういうお客様に、こういう形で提供したい」と語った内容が、計画書の事業内容や売上の根拠と食い違っていると、説明の信頼性が下がります。メモの内容を、計画書の該当欄の隣に並べて見比べてみてください。

💬 監修者の元日本政策金融公庫の支店長の多胡から一言
面談で話した内容は、その後どうなるのかと気になる方もいるでしょう。公庫の担当者は、面接の内容を報告書にまとめます。人物から受けた印象も、そこに書きます。審査には形式的な部分に加えて、担当者の印象も入ります。印象だけで決まるわけではありませんが、担当者が書きやすいよう、はっきり分かりやすく説明することを心がけてください。
手順5 3段を口頭で言える2〜3文に直す
書いたメモを、そのまま読み上げる必要はありません。むしろ、暗記した文章は途中で聞き返されると崩れやすくなります。過去・現在・これからの3段階それぞれを、1〜2文の短い言葉にまとめてください。
型は、次のような流れです。「これまで○○の仕事を○年担当してきました(過去)。独立の準備として△△を進め、自己資金も整えてきたので、今の時期に踏み切ります(現在)。これから□□のお客様に向けて、◇◇を提供します(これから)」。空欄の部分に自分の言葉を入れて、声に出して言ってみてください。
言ってみて詰まった箇所が、面談で聞き返されやすい箇所です。そこについては、根拠になる事実や数字をメモに足しておきます。
動機が弱く聞こえやすい言い方と、言い換えの方向
同じ動機でも、言い方によって伝わり方が変わります。聞こえ方が弱くなりやすい例と、言い換えの方向をまとめます。
| 弱く聞こえやすい言い方 | 言い換えの方向 |
|---|---|
| 会社の評価に納得できず、辞めたいと思いました | その経験で見えた顧客の課題と、自分がそれを解決したい理由を先に話す |
| 今しかないと思ったからです | 今の時期に至るまでに準備してきたことを具体的に挙げる |
| 昔から人の役に立ちたいと思っていました | 誰のどんな困りごとに、何を提供するのかを一文にする |
| 年齢的にそろそろ決断しないと、と考えました | 経験年数と準備の積み上がりを軸にして、時期の理由を話す |
どれも、気持ちを隠すという意味ではありません。気持ちの背景にある事実を添えて、担当者が内容を確かめられる形にするという考え方です。
面談前日までのチェックリスト
メモができたら、面談の前日までに次の点を確かめてください。
- 動機の3段メモが、創業計画書の事業内容・数字と食い違っていないか
- 同じ業種での勤務経験・勤務年数・役職を、すぐに言えるか
- 自己資金の貯め方を、通帳の記録と合わせて口で説明できるか
- 家族に独立の話をして、理解を得られているか
- 聞き返されそうな点を書き出し、答えを用意したか
- 創業計画書の控えなど、面談に持参する書類を揃えたか
ここまで終わったら、家族や信頼できる人に3段の答えを聞いてもらうのも有効です。相手が聞き返してきた点は、担当者にも聞き返される可能性が高い点です。
まとめ 次に手を動かすこと
「なぜ今」への答えは、過去・現在・これからの3段で整理すると、審査で見られる項目と結びつけて話せるようになります。この記事の順番で進めるなら、今日やることは3つです。離れる理由と向かう理由を分けて書く。3段のメモを書いて計画書と見比べる。口頭の2〜3文に直して声に出す。
なお、本記事の制度の情報は2026年10月時点のものです。制度は変わることがあるため、申込の前には日本政策金融公庫の公式情報も確認してください。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























