
損益分岐点の計算で店舗がつまずく3か所|人件費・歩合家賃・借入返済の置き場所
店舗の損益分岐点を出すときに、返済と減価償却をどこに置くか
「今月はいくら売れば赤字にならないのか」を1分で出せるようにしておくと、閑散期の判断が早くなります。ところが店舗ビジネスで実際に計算してみると、公式そのものより「この費用はどちらに入れるのか」で手が止まることのほうが多くなります。さらに、計算どおりに売上が立ったのに手元の現金が増えない、という食い違いも起きます。
この記事では、損益分岐点の出し方を店舗の実情に合わせて質問形式で整理します。借入の返済と減価償却費という、損益と現金がずれる2つの原因の置き場所まで通して確認していきます。制度や数字は変わることがあるため、金額は執筆時点のものとしてお読みください。
Q1. 損益分岐点はどう計算するのですか
費用を固定費と変動費に分けたうえで、次の式に当てはめます。
- 変動費率 = 変動費 ÷ 売上高
- 損益分岐点売上高 = 固定費 ÷(1 − 変動費率)
たとえば月の固定費が150万円、売上に対する変動費の割合が40%の店舗であれば、150万円 ÷(1 − 0.4)=250万円が損益分岐点売上高です。月商250万円で利益がちょうどゼロになり、そこから1万円売上が増えるごとに6,000円が残っていく形になります。
この(1 − 変動費率)の部分は、売上1万円あたりいくらが手元に残るかを表しています。先の例なら0.6で、1万円売れて6,000円が固定費の回収に回る計算です。この比率が高い店ほど、売上が増えたときに損益が改善する速度も速くなります。逆に比率が低い業態では、売上を伸ばすより固定費を見直したほうが分岐点は早く下がります。
式そのものは単純です。難しいのは分子と分母に入れる数字を決める部分で、次のQ2以降がその話になります。
Q2. 人件費は固定費と変動費のどちらに入れますか
店舗ビジネスで最初に迷うのがここです。判断の軸は「売上が半分になったときに、その費用も半分になるか」です。
社員の給与や自分の役員報酬は、来客数が落ちても翌月すぐに下がるものではないため、固定費側に置くのが実態に近くなります。一方、来客の波に合わせてシフトを増減させているアルバイトの人件費は、変動費側に置いたほうが数字が動きを説明してくれます。
分け方に唯一の正解はありません。自店の費用が実際にどう動くかで決めて構いませんが、一度決めたら毎月同じ分け方で並べてください。分け方を月ごとに変えると、損益分岐点が下がったのか、集計の仕方が変わっただけなのかが区別できなくなります。
💬 監修者の元日本政策金融公庫の支店長の多胡から一言
審査する側から見ると、投資の効果を数字で示せるかどうかで説明の重さが変わります。製造業なら機械の生産能力から積み上げられますが、店舗や小売はそこを示しにくい業態です。だからこそ、自店の固定費と変動費率から組み立てた損益分岐点は、外から借りてきた平均値よりも説明の土台になります。
Q3. 家賃が売上歩合の場合はどう置きますか
商業施設内の店舗などで、家賃が「最低保証額+売上歩合」になっている契約があります。この場合は1つの費用としてまとめず、最低保証額を固定費、歩合部分を変動費に分けて置きます。
歩合部分を固定費に含めてしまうと、売上が伸びるほど実際の損益分岐点も上がっていくのに、計算上は一定のままになります。売上が計画を上回ったときほど数字がずれるため、伸びている局面で判断を誤りやすくなります。同じ考え方は、売上に連動するロイヤリティやカード決済手数料にも当てはまります。
Q4. 借入の返済は損益分岐点に入りますか
元金の返済分は入りません。利息は費用ですが、元金の返済は借りたお金を返す行為であって費用ではないため、損益の計算には出てきません。それでも現金は毎月出ていきます。
ここが「損益分岐点は超えているのに手元が減る」の正体です。月の元金返済が20万円あれば、損益がゼロの月には現金が20万円足りない状態になります。損益分岐点を売上目標にしていると、この20万円が計画の外に置かれたままになります。
返済の負担そのものを軽くする方向では、元金返済の据置期間は5年以内の範囲で認められることがあり、据置中は利息のみの支払いになります。返済期間の枠は、日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金を例にとると設備資金で20年以内、運転資金で10年以内です。ただし適用される据置期間や返済期間、利率は審査のうえ金融機関が決定するもので、申込者が選んで決められるものではありません。希望は申込のときに伝えられますが、決めるのは金融機関の側です。
Q5. 減価償却費はどう扱いますか
Q6. 結局いくら売れば現金が残りますか
現金の面から見た分岐点は、損益分岐点に元金返済分を足し、減価償却費の分を差し引いて出します。
- 資金の分岐点 =(固定費 + 年間の元金返済額 − 減価償却費)÷(1 − 変動費率)
元金返済額は毎月の返済予定表から、減価償却費は決算書か試算表から拾えます。どちらも手元の資料に載っている数字なので、あらためて見積を取り直す必要はありません。
Q1の例に数字を足してみます。月の固定費150万円のうち減価償却費が20万円、月々の元金返済が20万円、変動費率40%だとすると、(150万円 + 20万円 − 20万円)÷ 0.6 = 250万円です。この例では減価償却費と元金返済がほぼ同じ額なので、損益分岐点と資金の分岐点が近い水準に並びます。
ずれが出るのは、返済が減価償却費より大きい場合です。仮に元金返済が月40万円なら、(150万円 + 40万円 − 20万円)÷ 0.6 = 約283万円となり、損益分岐点との差は月33万円ほどになります。この差額が、黒字なのに現金が薄くなる幅です。自店の数字を入れて、2つの分岐点がどれだけ離れているかを一度出してみてください。
💬 監修者の元日本政策金融公庫の支店長の多胡から一言
返済の負担が重そうだから金額を削られる、という受け止め方をされることがありますが、そういう見方をしているわけではありません。返済は返済期間で調整できる話です。見ているのは、収益の中から返済分が出せる形になっているかどうかで、その説明に使えるのがまさにこの分岐点の数字です。
金融機関はこの数字をどう見ますか
日本政策金融公庫の融資では、斯業経験、自己資金、事業計画の具体性、資金使途と調達額の整合、信用情報などをもとに判断されます。損益分岐点と資金の分岐点は、このうち事業計画の具体性、なかでも返済原資の説明に直接つながる数字です。
すでに営業している店舗であれば、決算書や試算表が実在する材料になります。計画どおりに推移していれば計画の実現可能性の裏づけになりますし、乖離があれば説明を求められます。売上の見込みだけを並べるより、自店の固定費と変動費率から組み立てた数字を添えるほうが、話の筋が通りやすくなります。
なお、融資の申込から実行までは、書類提出後おおむね3週間から1か月が目安とされています。準備を含めると合計で2か月程度を見ておくと、資金が要る時期から逆算しやすくなります。
まとめ
損益分岐点の式は固定費 ÷(1 − 変動費率)の一行ですが、店舗で使える数字にするには、人件費と歩合家賃の置き場所を決めること、そして元金返済と減価償却費で損益と現金がずれることを織り込むことが要ります。この記事の手順で自店の2つの分岐点を出しておけば、閑散期に何をどこまで削るかの判断も、金融機関への説明も、同じ1枚の数字で進められます。
この2つの分岐点は、一度出したら終わりにせず、家賃の改定や人員の入れ替えがあった月に更新してください。固定費が変われば分岐点も動きます。月次で並べておくと、売上が落ちた月に「あと何万円足りなかったのか」を金額で振り返れるようになります。
ここで挙げた据置期間・返済期間・スケジュールは執筆時点の制度上の枠で、実際の条件は審査のうえ金融機関が決定します。自店の数字の置き方や返済計画の組み立てで迷う部分は、専門家に相談しながら進めてください。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























