今回は前回に続き「格付」がテーマです。
前回のコラムで解説しましたが、金融機関は借入をした顧客(債務者)を
【正常先】【要注意先】【要管理先】【破綻懸念先】【実質破綻先】【破綻先】の
5段階に大きくグループ分けしています。
直近の決算の内容や、その時の経営状況などにより債務者の格付は上下していきます。
しかし、(前編)でも述べましたが、銀行員側から見ても支店の担当顧客の格付が下がるようなことは避けたいのです。
ただ、中小企業は常に様々な内的要因や外的要因に晒されており、一時的に赤字を計上したり、債務超過に陥ることはよくある話です。
そのような決算が上がってきた段階で、即時【正常先】→【要注意先】へ降格するわけでなく、「実態修正」という形で【みなし正常先】として認識したりします。
このような修正を施すことで、【正常先】【みなし正常先】が大多数を占める結果となるのです。
つまり、それぞれの格付を決定する際には、柔軟な「格付間の往来」があるということです。
(後編)では主に
【正常先】 ↔ 【要注意先】の往来
【正常先】 ↔ 【破綻懸念先】の往来
の2つのパターンを例に解説していきます。
【正常先】 ↔ 【要注意先】の往来について
直近の決算で赤字を計上したり債務超過になってしまい、決算書の内容だけで判断すると【要注意先】として格付されてしまうパターンです。
最も頻発するケースですので、ぜひ参考にしてください。
そのまま【要注意先】として判断されれば、今後の資金調達に支障をきたす可能性があります。
このような状況は中小企業側も金融機関側も避けたいところです。
ですので、【みなし正常先】として格付できるよう「実態修正」を施します。
【実態修正のポイント】
(1)赤字に転落した理由が突発的かつ一過性の要因のケース。
例えば、一括で償却できる資産の購入や退職金の支給、盗難や火災のような事故、訴訟費用などのようにアクシデント的で、今後継続的にかからない費用によって赤字転落した場合です。
要は「今期はアンラッキーだった」と言い切れれば、来期は黒字化できると判断され、【みなし正常先】として格付される可能性があります。
(2)赤字額 < 減価償却費のケース。
減価償却費というのは実際にはお金が出ていかない費用です。
減価償却費の金額が赤字額を上回っているようであれば、キャッシュフローはプラスであると判断され、【みなし正常先】として格付される可能性があります。
(3)債務超過額 < 社長世帯からの借入金のケース。
中小企業は企業そのものと社長世帯が実質一体となっているケースがほとんどです。
金融機関側もその実態を把握していることが多く、企業単体で格付することに無理を感じています。
その観点から、役員やその家族からの借入金は実質資本金としてみなされるケースがあります。その企業が儲からない限り、役員借入は返済できないため、実質資本金と同じ役割をしているという解釈です。
社長世帯からの借入金を資本金とみなした際に「実質資本超過」になるのであれば、【みなし正常先】として格付される可能性があります。
(4)会社は債務超過 < 社長世帯の資産のケース。
その会社に役員借入として記載はないものの、社長自身が預金や不動産を多く保有しているケースです。
不動産については住宅ローンなどの抵当権設定額を控除した評価額を算入します。
社長が連帯保証人となっていることが多く、社長世帯の個人資産を格付評価に織り込んでしまうことがあります。
(5)売掛金や棚卸資産(在庫など)に不良債権・不良在庫があるケース
一方で、こちらはマイナス評価となるケースです。
何年も同じ金額で記載されている回収不能な売掛金や適切な価格で処分できない在庫などは、ゼロ評価されてしまう可能性があります。
その場合、評価減された金額が資本金から控除され、債務超過となる可能性があります。
格付間の往来とは、何も昇格ばかりではないのです。
(6)固定資産(土地・建物、借地権など)が銀行評価額から乖離しているケース。
こちらは上振れする場合と下振れする場合の両方が想定されます。
不動産の銀行評価額はその年の路線価をベースに算定されることが多く、時価評価により上下します。
その上下した金額は資本金の金額に増減され、債務超過を解消する可能性もあります。
このように、【正常先】↔【要注意先】の格付間では、意外にも柔軟に評価が往来します。
上記のポイントを中心に総合的な判断をしていきます。
直近の決算が赤字や債務超過になりそうであれば、上記のポイントを見直してみることをお勧めします。
【正常先】 ↔ 【破綻懸念先】の往来について
(前編)で述べましたが、【破綻懸念先】になるには2パターンあります。
しかし、【正常先】↔【破綻懸念先】の往来が発生するのは、突発的なアクシデントによる経営不安があり、踊り場的に【破綻懸念先】として格付された場合のみです。
社長の急逝や健康上の不安、大きな売掛先の破綻・回収不能などが具体例として挙げられます。
そもそも【破綻懸念先】に降格した理由がアクシデントなので、内部で改善を図ったり、金融機関を含む外部の支援を得て体制を持ち直せば【正常先】として昇格することもあります。
【実態修正のポイント】
(1)社長を含めた幹部の急逝、健康上の不安、退職などがあった場合
社内の混乱や取引先との取引継続の不安などから、会社の経営に暗雲が立ち込め今期以降の見通しが不透明になるケースです。
以下の施策を打つなどして、解決策を講じる必要があります。
・新社長を立てて、社内の混乱を鎮静化する
・取引先から従来通りの取引継続の約束を取り付ける
・健康状態の回復を図る
(2)大きな売掛先の代金回収が不能になった場合
中小企業者の中には限られた大口先から売上を上げていることが多く、その取引先からの入金が滞ったり、倒産して回収不能になった場合に重大な経営不安に陥ります。
経費の支払いや既往の借入金の返済に充当するためにアテにしていた売上代金の入金メドが立たなくなっているため、早急に資金繰りの改善を施さなければなりません。
倒産防止共済や保証協会のセーフティ保証などを利用し、金融機関と連携しながら資金繰りの健全化を目指します。
それでも間に合わなければ、資産の売却や買掛先への支払いの猶予なども検討しなければなりません。
このような施策を施したのちに、その取引先以外で利益を残せるようであれば【みなし正常先】と格付される可能性があります。
このように債務者の格付は「実態修正」と「支店のバイアス」によって、【正常先】【みなし正常先】に偏ります。
しかし、今期の決算の数字が見えるころ(決算の2ヶ月前頃)に赤字・債務超過に転落しそうであれば、このコラムを読み返してみてください。
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