
支店長が変わると融資も変わる?その理由と企業が取るべき対策
永年にわたり銀行との融資取引を続けてきた企業の経営者から、「今度の店長はどうなの?」という声が聞かれることがあります。実は、金融機関の融資姿勢は支店長の交代によって大きく変わることがあるのです。これは単なる偶然ではなく、支店長の人柄や経歴、そして業務スタイルによって大きく左右されるのが現実です。
融資に限らず、企業と金融機関の関係は「人」で決まる部分が大きく、支店長という立場の人物が持つ価値観や判断基準が、企業の資金繰りや経営戦略に少なからぬ影響を与えるのです。この記事では、支店長交代が企業にもたらす具体的な影響と、それにどう備えるべきかを実務的な視点から解説していきます。
目次
なぜ支店長によって融資姿勢が変わるのか?
銀行という組織は一見するとマニュアルやルールに基づいて淡々と動いているように見えますが、実際には「人の判断」が介在する部分が非常に多いのです。特に中小企業への融資判断においては、財務データだけでは測れない「経営者の人柄」や「今後の展望」「地域との関係性」など、定量化しにくい要素も重要な判断材料になります。
そのため、支店長が替わると、その企業への見方がまったく変わってしまうことも少なくありません。ある支店長にとっては「将来性のある企業」でも、別の支店長には「リスクのある取引先」に映ることがあるのです。実際、同じ資料を持って融資相談に行っても、支店長が替わったとたんに門前払いをされた…という話も現場ではよく耳にします。
支店長の経歴とその特徴
■ 営業畑出身の支店長
営業出身の支店長は、いわば「攻め」のタイプです。自身も現場で新規開拓をしてきた経験があるため、数字を作る大変さも、現場での泥臭い努力もよく理解しています。
- 長所:新しい事業や設備投資に前向き。可能性に賭ける姿勢がある。
- 短所:リスク判断が甘くなる可能性がある。
- 特徴的な対応:案件にスピード感があり、意思決定も比較的早い。
■ 融資畑出身の支店長
一方、融資畑を歩いてきた支店長は「守り」の姿勢が強く、慎重で緻密な判断をする傾向があります。数字に強く、過去の貸倒事例や審査の経験が豊富であるため、何か一つでも気になる点があると融資を止める場合も。
- 長所:安定した取引を重視し、返済可能性の高い案件を好む。
- 短所:革新的な案件や新規事業には及び腰。
- 特徴的な対応:綿密な資料提出を求めるなど、手続きに時間がかかる。
支店長交代で起きうるリスクとは?
支店長が替わることで起こる最大のリスクは、これまでの信用がリセットされてしまうことです。どんなに長く取引してきた企業でも、「私はその経緯を知りません」とばっさり切られてしまう可能性があります。特に、長年の口頭ベースのやりとりや、信頼関係で成り立っていた交渉は、引き継ぎがうまくいかないと一気に信頼を失うことに繋がります。
また、保守的な支店長に替わった場合、追加融資や条件変更がスムーズにいかなくなることがあります。「前任者のときは問題なく対応してもらえていたのに…」という違和感が、経営者の不信感につながり、取引関係そのものを見直すケースも発生しています。
企業が取るべき2つの対策
① 新しい支店長のタイプを早めに見極める
支店長交代があった際は、できるだけ早く訪問し、挨拶の機会を設けることが重要です。その際には、名刺の肩書きや過去の勤務歴などを見たり、何気ない会話の中で「前はどちらの部署に?」と聞いてみたりして、相手のバックグラウンドを把握するようにしましょう。
会話のトーンや反応から「営業タイプか」「融資タイプか」も推察できます。こちらの状況や要望に対してどのような姿勢で受け止めてくれるかを見極めましょう。
② 複数の銀行と取引しておく(リスクヘッジ)
一つの金融機関に依存するのではなく、複数行との関係構築を意識しておくことが、企業としての安定経営に繋がります。メインバンクのほか、セカンドバンク・サードバンクとも取引口座を開き、定期的に情報提供や事業報告をしておくことで、いざという時に助けてくれる選択肢が増えます。
また、金融機関ごとに重視する業種や審査スタンスが異なるため、相性の良い行との接点を持っておくことが、今後の資金調達力を強化する上で非常に有効です。
よくある質問(FAQ)
Q:支店長が営業出身か融資出身かをどうやって知るの?
A:名刺交換や初回面談の際に「前はどんなお仕事をされていたんですか?」と自然な会話の流れで聞くとスムーズです。経歴に関するヒントが得られることも多いです。
Q:支店長が交代した場合、すぐに対応が変わるの?
A:場合によっては交代直後から方針が変わることもあります。特に新任支店長が「自分の色を出したい」と考えている場合には顕著です。
Q:支店長の性格に不満があるとき、どう対応すべき?
A:まずは冷静に接しつつ、本部や別支店の担当者とも情報共有しておくと安心です。また、取引先銀行を分散しておくことで、バランスを取ることができます。
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この記事を書いた人
三浦高/Takashi Miura 元創業補助金(経済産業省系補助金)審査員・事務局員 中小企業診断士、起業コンサルタント®、 1級販売士、宅地建物取引主任者、 補助金コンサルタント、融資・資金調達コンサルタント、 産業能率大学 兼任教員 2024年現在、各種補助金の累計支援件数は300件を超える。 融資申請のノウハウも蓄積し、さらに磨きを掛けるべく日々事業計画書に向き合っている。
この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago 元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役 同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。 支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。 日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。 長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。