
金融機関の裏事情|「信用格付」とは?中小企業経営者が知るべき銀行の本音
今回は金融機関の裏事情を少しお話したいと思います。テーマは「信用格付(=以下、格付)」です。
目次
格付とは何か?
「格付」といえば、「スタンダード&プアーズ」や「ムーディーズ」などの有名な信用格付会社、あるいはテレビ番組「芸能人格付チェック」でGACKTが登場する場面を思い浮かべる人も多いかもしれません。しかし、実は経営者(個人事業主も含む)にとっても「格付」は非常に身近なものなのです。
中小企業の多くは金融機関から借入を行っており、実は皆さんも知らぬ間に「格付」をされています。明確な数値や順位付けこそないものの、金融機関内では「一流芸能人」「二流芸能人」「そっくりさん」「映す価値なし」のように、おおまかなグループ分けがなされています。
なぜ金融機関は格付を行うのか
この仕組みを理解するには、銀行のビジネスモデルを知る必要があります。銀行は、一般の人々から「預金」という名でお金を預かり(=仕入れ)、それを「貸出金」として企業や個人に融資することで、「利息」という売上を得る、いわば「お金の小売業・賃貸業」です。
ただし、賃貸業と異なり、借り手が倒産・破産すれば、貸出金そのものが回収不能になるリスクがあります。そのため銀行は常に一定割合の貸倒を見越して「貸倒引当金」を計上し、損失に備えています。この際、すべての借入先を一律に扱うと実態が反映されないため、個別の信用状態に応じて「格付」を行い、貸倒リスクを分類しているのです。
格付の基本区分と意味
【正常先】【みなし正常先】
業況が良好で黒字かつ資本超過の企業。金融機関が最も積極的に融資したい層です。貸倒引当率はおおむね2%前後で、1,000万円貸した場合20万円程度をリスクとして見込んでいます。
【要注意先】
2期以上の赤字や債務超過に陥るなど、業況が不安定な企業。貸倒引当率は5%前後。融資は保証協会付きや有担保が中心となり、金利も高くなります。
【要管理先】
さらに状況が悪化し、5期以上の連続赤字やリスケを続けている企業。貸倒比率は15%程度で、金融機関はほぼ収益化できていません。新規融資は非常に難しくなります。
【破綻懸念先】
事業継続が危うく、倒産リスクが高い企業。継続的な赤字や突発的な事故によって経営が不安定化しています。貸倒引当率は75%前後と高く、金融機関は「覚悟」を決めている状態です。
【実質破綻先】【破綻先】
すでに返済不能に陥っており、法的整理の有無で区別されます。どちらも貸倒引当率は100%で、実質的には回収不能債権です。
格付が金融機関の営業行動に与える影響
格付は銀行経営に直結します。多くの企業が【正常先】であれば銀行の経営は安定しますが、不況や業績悪化で格付が下がれば「貸倒引当金」を多く計上しなければならず、銀行が赤字に転落することもあります。
金融機関が抱える“格付バイアス”
- ① 基本的に【正常先】にしか貸したくない。
- ② 格付が下がると支店の収益目標が一気に減る。
- ③ 【正常先】から【要注意先】に落ちそうな企業は避けたい。
- ④ 【要注意先】に落ちた企業は返済を促したいが、完済後は再度貸したくない(=「雨が降ったら傘を貸さない」現象)。
- ⑤ 【要注意先】になりそうな企業はできる限り【みなし正常先】として扱いたい。
このような事情から、金融機関の担当者や支店長は「格付の維持」に非常に敏感です。支店の格付状況次第で個人評価や昇進にも影響するため、企業側のわずかな業績変化にも神経をとがらせています。
次回予告:正常先を維持するコツ
とはいえ、格付を【正常先】(黒字・資産超過)に維持するのは容易ではありません。次回の(後編)では、【正常先】や【みなし正常先】を維持するための具体的な仕組みと実践方法を紹介します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 自分の会社の「格付」は教えてもらえるのですか?
A. 原則として、金融機関は格付を外部に開示しません。ただし、融資姿勢や条件、金利水準からおおよその立ち位置を推測することは可能です。
Q2. 格付を上げるには何をすればいいですか?
A. 継続的な黒字経営、債務超過の解消、返済実績の積み上げ、そして金融機関への適切な情報開示がポイントです。特に決算報告や資金繰り表の共有は信頼回復の鍵となります。
Q3. 赤字でも「みなし正常先」に残ることはありますか?
A. あります。金融機関の判断により、経営改善計画が明確で、事業再生の見込みが高い場合には「みなし正常先」として扱われるケースもあります。
まとめ
- 金融機関は貸倒リスクを可視化するために格付を実施している。
- 格付によって貸倒引当金の金額が決まり、銀行の業績に直結する。
- 企業は【正常先】を維持することで、より良い融資条件を得やすくなる。
- 融資担当者も人間。格付の背景を理解すれば、金融機関との付き合い方が見えてくる。
では、次回の更新をお楽しみに!
【無料相談のご案内】
起業の手続きって何から始めればいいの?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。
無料相談も行っているので、ぜひ一度、ご相談ください。お問い合わせお待ちしております!
この記事を書いた人
三浦高/Takashi Miura
元創業補助金(経済産業省系補助金)審査員・事務局員
中小企業診断士、起業コンサルタント®、
1級販売士、宅地建物取引主任者、
補助金コンサルタント、融資・資金調達コンサルタント、
産業能率大学 兼任教員
2024年現在、各種補助金の累計支援件数は300件を超える。
融資申請のノウハウも蓄積し、さらに磨きを掛けるべく日々事業計画書に向き合っている。
この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。