
「1円会社」って何?その正体と落とし穴を知ろう
こんにちは、起業支援をライフワークとする中野裕哲です。起業を志すあなたに、今回は「1円会社」というキーワードをもとに、会社設立の本質と実務のポイントを、できるだけやさしく、かつ実践的にお話ししたいと思います。
【想定読者:ペルソナ】
35歳・会社勤めの営業マン。副業でネット販売を始めたが、いよいよ法人化を検討中。ネットで「1円会社」という言葉を見つけ、興味を持ったが「本当に1円でいいの?」と不安に思っている。
1. 「1円会社」とは?
ズバリ言います。「1円会社」とは、2006年の会社法改定施行により、株式会社設立の最低資本金制度が撤廃され、理論上「資本金1円」で会社を設立できるようになったことを指します。
かつては資本金1000万円が必要だった時代もありましたが、現在では極端に言えば「1円」でも設立できるのです。
なぜそんな制度ができたの?
背景には、ベンチャー企業や個人事業主の法人化を促進し、起業を活性化させる狙いがあります。資本金のハードルを下げ、誰でもチャレンジしやすい制度にしたのですね。
会社法の改正によって、誰でも起業できるチャンスが広がった反面、「形式上の設立のしやすさ」が先行し、事業の継続性や信頼性が置き去りにされるケースも増えました。つまり、制度が簡素化された分、起業家自身がしっかりとした準備と覚悟を持つ必要があるのです。
2. 1円会社のメリット
「え、1円でいいの?じゃあ作っちゃおうかな」と思ったあなた、確かにメリットはあります。
- 設立時のハードルが低い:手元資金が少なくても、登記手続きが可能。
- 心理的に起業しやすい:小資本で始めることで「失敗しても再チャレンジできる」という安心感。
- 合同会社でも同様に少額で設立可能:実は合同会社(LLC)も資本金の制約がないため、1円スタートが可能です。
さらに、起業初期の段階では、まだ売上も計画通りにいかないことが多く、スモールスタートで進めるという意味では1円資本金の選択肢もあり得るのかもしれません。
ただし、メリットだけを見て判断するのは危険です。次章でその理由をお話しします。
3. でも、デメリットもちゃんと知っておこう
ズバリ言います。1円会社にはデメリットもあります。
- 信用力が極めて低い:1円資本金の会社に、あなたが商品を仕入れるとき、果たして信用されるでしょうか?
- 資金繰りに苦労する:資本金は運転資金そのもの。資金不足は即経営危機につながります。
- 金融機関の融資が通りにくい:創業融資の審査では自己資金・資本金が重視されます。
実務上の注意
実際のところ、登記手続き時に「資本金1円」として登記できますが、株式会社の場合は最低でも会社の印鑑代、登録免許税、定款の認証費用などで20万円〜25万円ほどかかるのが現実です。
また、取引先からの信用や金融機関との取引実績を考慮すると、「資本金の額は多いほうが有利」な場面も多く存在するのです。
4. 「資本金1円」はおすすめか?
結論から言います。私は資本金1円での設立はおすすめしません。
なぜなら、資本金は「会社の体力」を示すものだからです。資本金が少なすぎると、信用が得られず、取引先との交渉や銀行口座開設でも不利に働きます。
また、創業融資を希望する場合、「資本金=自己資金」と見なされる場面があるため、最低でも100万円以上は用意しておくことが望ましいでしょう。
では、いくらが妥当?
経験則としては、最低でも100万円、可能なら300万円以上が理想です。創業融資を視野に入れるなら、自己資金とのバランスも重要ですよ。
また、補助金や助成金を申請する場合も、一定以上の資本があることで信頼性が増し、採択率が上がる傾向があります。制度面でも、資本金額が与える影響は無視できません。
5. 実際の失敗談・成功談
ある方は、資本金1円で設立したのち、融資を申し込んだ際に「なぜ1円なんですか?」と何度も聞かれ、不審がられたそうです。結局、増資して再度申し込むという手間が発生。
また別の方は、資本金100万円で設立し、創業計画書としっかりした事業計画を用意して臨んだ結果、希望額の融資を獲得できました。金額の差以上に「準備の質」が結果を左右したとも言えるでしょう。
6. よくある質問(FAQ)
Q1:資本金はあとで増やせるの? → はい、増資という手続きを踏めば可能です。ただし手数料や登記手続きが必要です。
Q2:実際に1円で設立して成功した人はいるの? → います。ただし、すぐに増資したり、融資で資金を厚くしていたケースが多いです。
Q3:資本金1円のままだと何が起こる? → 融資審査に通りにくく、信頼されず、事業の拡大に支障が出る可能性があります。
Q4:個人事業主とどちらがいい? → 一概には言えませんが、利益がある程度出るなら法人化の方が節税や信用面で有利です。
Q5:資本金を大きくしたら税金が増えますか? → 一部の税金(法人住民税の均等割など)は資本金額で区分がありますが、それよりも信用や融資のしやすさのメリットの方が大きいです。
まとめ:1円会社に飛びつく前に、冷静に判断を
会社設立が簡単になった現代。確かに「1円会社」という言葉は魅力的に見えるかもしれません。でも、起業とはビジネスをスタートすること。夢や理想だけでなく、実務や現実をしっかりと見据えましょう。
資本金は、会社の信用の“基礎体力”。無理に1円にこだわらず、自分のビジネスに見合った金額を設定してくださいね。
もし不安があれば、起業支援の専門家に相談するのもひとつの手です。お気軽にご相談くださいね。
起業の成功を心から願っています!
【無料相談のご案内】
起業の手続きって何から始めればいいの?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。
無料相談も行っているので、ぜひ一度、ご相談ください。お問い合わせお待ちしております!
この記事を書いた人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
起業コンサルタント(R)、経営コンサルタント、税理士、特定社会保険労務士、行政書士、サーティファイドファイナンシャルプランナー・CFP(R)、1 級FP技能士。大正大学招聘教授(起業論、ゼミ等)
V-Spiritsグループ創業者。税理士法人V-Spiritsグループ代表。東京池袋を本拠に全国の起業家・経営者さんを応援!「ベストセラー起業本」の著者。著書20冊、累計25万部超。経済産業省後援「DREAMGATE」で12年連続相談件数日本一。
【まるごと起業支援(R)・経営支援】
起業コンサル(事業計画+融資+補助金+会社設立支援)+起業後の総合サポート(経理 税務 事業計画書 融資 補助金 助成金 人事 給与計算 社会保険 法務 許認可 公庫連携 認定支援機関)など
【略歴】
経営者である父の元に生まれ、幼き頃より経営者になることを目標として過ごす。バブル崩壊の影響を受け経営が悪化。一家離散に近い貧困状況を経験し、「経営者の支援」をライフワークとしたいと決意。それに役立ちそうな各種資格を学生時代を中心に取得。同じく経営者であるメンターの伯父より、単に書類や手続を追求する専門家としてではなく、視野を広げ「ビジネス」の現場での経験を元に経営者の「経営そのもの」を支援できるような専門家を目指すようアドバイスを受け、社会人生活をスタート。大手、中小、ベンチャー企業、会計事務所等で営業、経理、財務、人事、総務、管理職、経営陣等、ビジネスの「現場」での充実した修行の日々を送ったあと、2007年に独立。ほかにはない支援スタイルが起業家・経営者に受け入れられ、経済産業省「DREAM GATE」にて、面談相談12年連続日本一。補助金・助成金支援実績600件超。ベストセラー含む起業・経営本20冊を出版。累計25万部超。無料相談件数は全国から累計3000件を超す。
この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。