
多店舗展開の罠とは?成長戦略に潜む資金繰り・資金調達・リスク管理の盲点
当コラムをご覧いただき誠にありがとうございます。
さて、今回は多店舗展開について、主に資金調達・資金繰りの観点から話していきたいと思います。
多くの飲食店や美容関係(ヘアサロン、ネイルサロン、エステなど)への資金調達のお手伝いをしてきました。
業況が好調で勢いのある店舗であればあるほど、社長は「2店舗目・3店舗目と次々に出店したい」と考えます。
店舗を出せば出すほど粗利が倍々に増えていき、広告費などの共通経費はどんどん薄まっていくため、純利益や社長の役員報酬は右肩上がりになっていくことが期待でき、出店への意欲が高まっていくのです。
損益(粗利)の観点から言えば、上手くいっている店舗はどんどん出店すべきなのですが、これまでの歴史の中で「全国的に有名なのにつぶれていったチェーン店」は山ほどあります。
上手くいってたから多店舗出店したはずなのに、何が原因で縮小や廃業を余儀なくされたのでしょうか?
そこに多店舗展開の罠があります。
中小企業レベルでは主に以下の3つの点に注意してください。
- 「資金繰り」
- 「資金調達」
- 「手元資金とリスクマネジメント」
資金繰り
上手くいっている店舗とはいえ、新たに出店するにはまとまった資金が必要です。
店舗保証金・改装費・機械設備費用などの設備資金、その他の人件費・家賃などのその店舗が軌道に乗るまでの運転資金の合計で数百万円~数千万円の資金が開店時にまでに必要になります。
その全てないし大部分を自己資金で賄えば、一時的に自己資金を大きく減らすことになるでしょう。
いかに出店すればするほど粗利が増えるとしても、自己資金があまりにも手薄になるのはリスキーです。
そのためには、初期投資に必要な資金を金融機関からの借入で賄うことも検討しましょう。
資金調達
出店時の初期費用を借入で資金調達する場合、資金計画(事業計画)がとても大事になります。
支払金額や支払先が明確な「設備資金」に加え、そのお店が軌道に乗るまでの2~3ヶ月間の運転資金(人件費、家賃など)をしっかりと計算し、見積書などを添付して資金計画を金融機関に提出しましょう。
また、そのお店単体の粗利で毎月の返済が可能であることも前提です。
出店ペースと借入タイミングのバランスに注意
ここで注意していただきたいポイントがあります。
業績が好調であることを背景に多店舗展開を計画する場合、2店舗目と3店舗目の出店に間隔を置かずに出店を急ぐことになりがちです。
社長としては「上手くいっているんだから早く出店したい」「初期費用の自己資金を薄めてレバレッジをかけたい」と考え、結果として出店(=借入)の間隔が狭くなるのです。
ところが、出店間隔が狭くなると「金融機関からの資金調達が追いつかない可能性」があります。
要は借りられないから出店できないという事態になり、結果として出店ペースが遅くることがあります。
金融機関が融資を断る理由
では、なぜこんなことが起こるのでしょうか?
金融機関は以下のような理由から借入を断るケースが存分にあります。
- (1)金融機関は1店舗が良いからといって、2店舗目・3店舗目が上手くいくとはそもそも確信していない。
- (2)2店舗目以降が上手くいかなかったとき、1店舗分の利益で全ての借入の返済を賄えるかを審査している。
- (3)食中毒などの不祥事や法改正などの要因で、費用が発生した際に必要な現金(ないし保険金)がプールできているかを審査している。
- (4)直前に出店した店舗が軌道に乗っているか否か。事業計画通りに粗利が稼げているか?
この点で引っかかることが多く、直前の出店から2ヶ月しか経っていないと直前に出店した店舗の効果測定が不十分と判断され、数ヶ月置いてからでないと借入受付してもらえないケースが多くあります。
多店舗展開の資金調達モデルは、不動産投資をする際の資金調達モデルとポイントが似ています。
少ない自己資金を借入で賄い初期費用に充当する点や、同時多発的なリスクに対する現金割合を重要視する点などに共通点があります。
リスクマネジメント
例えば飲食店であれば、食中毒などによる補償費用や風評被害、また美容系であれば施術ミスなどによる補償費用や風評被害に始まり、立ち退きや下階への水漏れなど様々なリスクがあります。
もちろんリスクマネジメントの本命として損害保険にもれなく加入することが必要となります。
しかし、実際にはそれでは不十分なケースの方が多く、リスクに対するクッションとして「現金」を一定以上保有していることは必須となります。
現金が足りないと、アクシデントが発生した際に借入で対応することになりますが、既に問題を抱えている企業に対し、金融機関は果たして貸してくれるのでしょうか?
多店舗展開を標榜する社長にありがちなのは、出店の意欲強すぎて前のめりになり、必要最低限の現金をも出店の投資に回してしまうパターンです。
虎の子の現金は死守しましょう。
当然に店舗を多く展開していけば、その分必要な現金量も比例して増えていきます。
多店舗出店で稼いだ粗利(現金)の一部は現金としてプールする必要があるため、全額を次の出店に投資することはできないのです。
まとめ:戦略的な出店と資金管理の重要性
以上のように、資金繰りやリスクに見合った手元現金を予想しながら、出店計画を立て、金融機関が納得する材料をそろえたうえで資金調達をしなければなりません。
このような資金計画を策定するには一定のノウハウが必要になります。
また、資金繰りを疎かにし、見境なしに多店舗出店するとアクシデント一つで縮小・廃業に陥ることも十分想定できます。
冒頭で申し上げた「多店舗展開の罠」に嵌らないようご注意ください。
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この記事を書いた人
三浦高/Takashi Miura
元創業補助金(経済産業省系補助金)審査員・事務局員
中小企業診断士、起業コンサルタント®、
1級販売士、宅地建物取引主任者、
補助金コンサルタント、融資・資金調達コンサルタント、
産業能率大学 兼任教員
2024年現在、各種補助金の累計支援件数は300件を超える。
融資申請のノウハウも蓄積し、さらに磨きを掛けるべく日々事業計画書に向き合っている。
この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。