
取締役の経歴で融資が謝絶される?銀行が伝えない審査の現実
「融資が通らなかった」「銀行口座が開設できなかった」
その理由、実は社長本人ではなく“取締役”にあるかもしれません。
この記事では、銀行が融資審査や口座開設の際に密かにチェックしている「取締役の経歴リスク」について、実務的な視点から詳しく解説していきます。
目次
取締役に問題があると起こること|よくある2つの事例
法人の代表者だけでなく、他の取締役の経歴や信用情報も審査対象になることをご存じでしょうか?
実際に、以下のような人物が取締役に就いている場合、銀行からの評価が下がり、融資や口座開設が謝絶(シャゼツ)されるリスクがあります。
例1:反社会的勢力との関係がある人物
たとえ過去の関与であっても、反社会的勢力(反社)とのつながりが疑われる人物が経営に関わっていると、金融機関は100%取引を避けます。このようなリスクがある人物が登記簿に名前を連ねているだけで、融資は一発アウトです。
銀行は、公安・警察・専門データベースなどを通じて反社情報を把握しており、過去に関わっていた経歴が一度記録されていれば、それは“消せない烙印”となります。
例2:過去に別会社で金融事故を起こしている人物
例えば過去に、別の会社で取締役を務めていた際に:
- 借入金の返済をリスケ(返済猶予)した
- 金融機関に債務整理を申し出た
- 会社が倒産し、保証人として履行できなかった
といった“金融事故歴”がある場合、個人信用情報に傷がついており、その記録が銀行の審査に影響します。特に地銀や信用金庫では、担当者レベルで地域内の経歴を共有している場合もあります。
つまり、社長本人がクリーンでも、取締役1人の経歴だけで「会社としての信用」が落ちることは現実にあるのです。
銀行は「問題の理由」を教えてくれない
「なぜ融資が通らなかったのか?」「なぜ口座開設が断られたのか?」
その理由を銀行に尋ねても、明確な回答は得られないことがほとんどです。
よくある銀行の断り文句
- 「社内基準により今回は見送りとさせていただきます」
- 「総合的に判断した結果…」
- 「今後のビジネス状況を見ながら再検討させていただきます」
これらはすべて、「理由は言えません」という意味です。銀行は審査ロジックや信用情報の取得元、他の顧客情報などを守るため、あえてあいまいに表現しています。
また、反社情報や金融事故情報が理由である場合、情報の正確性を証明するのが難しいため、トラブル回避の観点からも一切説明しないのが通例です。
そのため、たとえ心当たりがなくても、「理由がわからないまま断られる」という現象が起きるのです。これが、経営者を最も不安にさせるポイントです。
取締役の経歴によるトラブルを避けるために
では、こうしたリスクを未然に防ぐにはどうしたら良いのでしょうか。以下の3つのポイントを実践することで、リスクを大幅に下げることが可能です。
① 就任前に経歴を確認する
新たに取締役を迎える際は、履歴書だけでなく:
- 法人登記簿(法務局で取得可)
- 過去に役員だった会社の財務状況
- 反社チェックデータベース
なども可能な範囲で確認しておくと良いでしょう。問題があった場合、一度登記した後では修正が困難になるため、事前の調査が肝心です。
② 金融事故の有無を確認する
過去に債務整理やリスケジュールを行っていた人物であれば、個人信用情報に事故情報が残っている可能性があります。CICやJICCといった情報機関で個人信用情報を開示することで確認可能です。
③ 代表者との関係性が明確であること
いわゆる「名ばかり取締役」は、銀行側に実態が見えない=信用できないという印象を与えます。対外的に見ても、会社の透明性が疑われることになるため、必要のない役職登記は避けるのが無難です。
また、親族や知人を安易に役員にすることも、後々リスクになる場合があるため慎重な判断が必要です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 銀行に取締役の情報はどのように伝わるの?
A. 主に以下のような方法で把握されます:
- 法人登記簿(誰でも取得可能)
- 信用情報機関(JICC・CIC・全国銀行個人信用情報センターなど)
- 反社チェックデータベース
- 過去の金融機関取引履歴
Q2. 就任後に問題が発覚した場合はどうする?
A. 状況によっては速やかに役員変更手続きを検討しましょう。
また、信用不安が発生している場合は、顧問税理士や司法書士と相談のうえ、適切な対応を進めてください。
Q3. 代表者本人に問題がなければ大丈夫では?
A. 代表者が問題なくても、他の役員に問題があると法人としての信用力が下がるのが実務上の現実です。全役員の信用が問われる時代と考えておくべきです。
まとめ|役員の経歴は「見られている」と心得るべき
融資や口座開設などのビジネスインフラを確保するには、取締役を含めた経営陣全体の信用力が問われます。
銀行ははっきりと理由を伝えてくれないため、「何がダメだったのか」を後から知るのは難しいのが実情です。だからこそ、事前の確認と予防策が欠かせません。
取締役の経歴ひとつで、あなたの会社の未来が大きく変わってしまうかもしれません。「登記簿に名前を載せる前に、必ず調べる」ことを習慣にしておきましょう。

この記事を書いた人
三浦高/Takashi Miura 元創業補助金(経済産業省系補助金)審査員・事務局員 中小企業診断士、起業コンサルタント®、 1級販売士、宅地建物取引主任者、 補助金コンサルタント、融資・資金調達コンサルタント、 産業能率大学 兼任教員 2024年現在、各種補助金の累計支援件数は300件を超える。 融資申請のノウハウも蓄積し、さらに磨きを掛けるべく日々事業計画書に向き合っている。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago 元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役 同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。 支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。 日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。 長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。



























