
取締役の解任、どうすれば?会社を守るための正しい手続き
こんにちは。起業コンサルタント(R)、税理士・社労士・行政書士・FPの中野裕哲です。
今回は少しデリケートなテーマ、「取締役の解任」について、ズバリお話しします。
経営というのは、人と人とのつながりによって成り立っています。信頼して一緒に立ち上げた仲間が、いつの間にか会社の足かせになってしまうことも、残念ながらゼロではありません。そしてそのとき、最終的な判断として出てくるのが「解任」という選択肢なのです。
【本記事の想定読者】
河野 さん(仮名)/46歳/飲食業を営む株式会社の代表取締役
- 創業時からの共同経営者との意見の食い違いに悩んでいる
- 今後の経営を考えると、取締役の入れ替えを検討している
- とはいえ従業員や取引先に影響が出ないよう、慎重に進めたい
第1章 そもそも「解任」とは何か?
ズバリ、「取締役の解任」とは、株主総会の決議によって、現在の取締役の地位を終了させる手続きのことです。
法律的には、株主総会で「普通決議」により過半数の賛成があれば、任期途中でも取締役を解任できます。
この「普通決議」というのは、出席した株主の議決権の過半数で決まる仕組みです。例えば、総議決権数が100の場合、株主総会に60が出席していれば、そのうち31票以上が賛成すれば可決ということになります。
ただし、現実にはそれだけでは済まないことも多いのが実情です。なぜなら、感情的な対立が生まれることもあれば、社内や取引先への影響もあるからです。
第2章 なぜ解任は“最後の手段”なのか
取締役の解任は「やろうと思えばできる」ことではありますが、同時に大きなリスクも伴います。
● ① 人間関係の悪化
特に共同創業者など、長年一緒にやってきたパートナーを解任する場合、深い感情のもつれが生じやすいです。場合によっては社内の空気が悪化し、残る社員にも影響を及ぼすことがあります。
● ② 不当解任による訴訟リスク
法律上は「株主総会の普通決議」で解任できますが、相手から「正当な理由もなく解任された」と損害賠償を求められるケースもあるのです。
● ③ 取引先への悪影響
主要な取引先がその取締役と強い信頼関係を築いていた場合、「あの人がいなくなるなら契約見直しを」と言われる可能性も。
これらを考慮すると、取締役の解任は「経営上どうしても必要な最終手段」として、慎重に判断するべきです。
第3章 取締役解任の手続きステップ
では、実際に解任する場合、どのように進めていけば良いのでしょうか。
① 株主構成の確認
まず、あなた自身がどれだけの株式(議決権)を保有しているかを確認します。
過半数を超えている場合は比較的スムーズですが、他の株主の協力が必要な場合は、事前の根回しが欠かせません。
② 株主総会の招集通知
株主総会での解任議案を扱うためには、適切な招集通知を出さなければなりません。
招集通知には、開催日時、場所、議題、議案の内容などを明記し、原則として開催日の2週間前までに発送します。
③ 株主総会の開催と議決
総会当日は、出席者の議決権の過半数で可決すれば解任が成立します。
議事録には議決の内容、出席者、議決結果などを正確に記録し、会社に保管しておきます。
④ 登記の手続き(法務局)
解任が決まったら、決議の翌日から2週間以内に法務局へ変更登記を申請します。
これを忘れると、会社法違反となり、過料(罰金)などのリスクもあるため注意が必要です。
第4章 解任に伴うリスクと対応策
繰り返しになりますが、解任には感情的な対立と法的リスクがついてまわります。そこで、いくつかの対応策をご紹介します。
● 損害賠償リスクに備える
「正当な理由のない解任」は、元取締役から損害賠償を請求される可能性があります。
例えば、「パワハラをした」「業務上重大な過失があった」「業績悪化の責任がある」など、客観的な記録があれば解任の正当性を裏付けられます。
このような証拠をしっかりと集めておきましょう。
● 社内・社外への周知の工夫
「なぜ解任に至ったのか」を社員や取引先にきちんと説明できる体制を作りましょう。
可能であれば、次の役員体制を同時に発表することで、安心感を与えることができます。
第5章 「辞任に誘導する」という選択肢
ズバリ言います。
相手と対立を避けたい場合、「辞任してもらう」形にするのが現実的な方法です。
このときに大切なのが、
- 辞任届は必ず書面で残すこと
- 最後の報酬や退職金について、合意内容を文書で残すこと
など、後々のトラブルを防ぐ手続きを丁寧に行うことです。
穏やかな辞任であれば、相手のプライドも守りつつ、会社も混乱を避けられます。
第6章 会社法における解任の注意点
会社法では、以下のような決まりがあります:
- 取締役は任期満了前でも解任可能
- 解任された取締役には「正当な理由がない場合、損害賠償請求の権利あり」
- 解任は株主総会の「普通決議」で足りる
第7章 FAQ:よくある質問
Q1. 取締役を解任しても、株主としては残りますか?
A. はい。株主であることと、取締役であることは別です。株を保有している限り、株主総会には参加可能です。
Q2. 代表取締役だけを解任することはできますか?
A. 可能です。まず取締役としての解任または代表権の剥奪(取締役のまま代表でなくする)という手続きがあります。
Q3. 解任された取締役が法的手段に出たらどうなりますか?
A. 正当な理由と手続きがあれば、解任は有効です。ただし損害賠償請求には証拠で反論する必要があります。
Q4. 社員と兼任している場合、従業員契約も終了しますか?
A. 取締役と従業員は別契約です。取締役を解任しても、労働契約が自動的に終了するわけではありません。
おわりに
取締役の解任は、簡単にできることではありません。
でも、経営を守るためには、時に勇気ある決断が必要です。
大切なのは、法律にのっとった正しい手続きを踏むこと、そして感情的にならず冷静に進めること。
必要があれば、専門家に相談しながら進めましょう。
「会社を良くしたい」「従業員やお客様を守りたい」
その気持ちを大切に、正しい方法で一歩ずつ進んでくださいね。
あなたの会社の未来が、より良いものになりますように。心から応援しています!
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この記事を書いた人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
起業コンサルタント(R)、経営コンサルタント、税理士、特定社会保険労務士、行政書士、サーティファイドファイナンシャルプランナー・CFP(R)、1 級FP技能士。大正大学招聘教授(起業論、ゼミ等)
V-Spiritsグループ創業者。税理士法人V-Spiritsグループ代表。東京池袋を本拠に全国の起業家・経営者さんを応援!「ベストセラー起業本」の著者。著書20冊、累計25万部超。経済産業省後援「DREAMGATE」で12年連続相談件数日本一。
【まるごと起業支援(R)・経営支援】
起業コンサル(事業計画+融資+補助金+会社設立支援)+起業後の総合サポート(経理 税務 事業計画書 融資 補助金 助成金 人事 給与計算 社会保険 法務 許認可 公庫連携 認定支援機関)など
【略歴】
経営者である父の元に生まれ、幼き頃より経営者になることを目標として過ごす。バブル崩壊の影響を受け経営が悪化。一家離散に近い貧困状況を経験し、「経営者の支援」をライフワークとしたいと決意。それに役立ちそうな各種資格を学生時代を中心に取得。同じく経営者であるメンターの伯父より、単に書類や手続を追求する専門家としてではなく、視野を広げ「ビジネス」の現場での経験を元に経営者の「経営そのもの」を支援できるような専門家を目指すようアドバイスを受け、社会人生活をスタート。大手、中小、ベンチャー企業、会計事務所等で営業、経理、財務、人事、総務、管理職、経営陣等、ビジネスの「現場」での充実した修行の日々を送ったあと、2007年に独立。ほかにはない支援スタイルが起業家・経営者に受け入れられ、経済産業省「DREAM GATE」にて、面談相談12年連続日本一。補助金・助成金支援実績600件超。ベストセラー含む起業・経営本20冊を出版。累計25万部超。無料相談件数は全国から累計3000件を超す。
この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。